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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第二章

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第3話 ローラの特技

 カイトはフィア、ローラと共に外に出ると、ローラは弾むような足取りで前に進み出た。それから目を閉じて深呼吸する。

 瞬間、ふわりと熱を帯びた風が吹き、彼女の背中から炎が上がる。

 それはフィアの変身で見慣れた光景――だが、いつもと違うのは炎がローラを包まず、背中に集中している点だ。炎はそのまま螺旋を描き、肩甲骨から二本伸びていき――。

 やがて、炎が消えると同時に現れたのは、真紅の羽だった。


「うん、久々だけど――いけるね」


 そう言いながらローラは大きな翼を一打ちする。それだけで、周りに風が巻き起こり、カイトの頬を撫でた。それから彼女は振り返り、照れくさそうに笑う。


「どうかな、兄さま」

「すごいな。驚いたよ。ローラ」

「うん、私はお母さまの血を濃く継いでいるから、翼竜の力を持っているの。ちなみに姉さまは、どちらかというとお父さま――陸竜の血が強いかな」


 思い返すと、フィアの翼を見たことはなく、変化するときも逞しい腕と爪を見せていた。雰囲気が似通った姉妹とはいえ、そういう部分が違うらしい。

 カイトは感心して、フィアとローラを見比べていると、何故かフィアは恨めしそうな視線でローラのことを見ている。特に豊かな胸周りを。


「ええ……ええ、知っています。だから、私は……こんなにぺたんこ……」


 それから勝手に凹み、自分の胸を両手で押さえて深いため息をついている。


「だ、大丈夫か? フィア」

「はい、大丈夫です……女性的な魅力では妹に負けていますけど……ふふ、ふふふ……」


 フィアは瞳に光を失い、引きつった笑いを浮かべている。ネガティブなスイッチが入ってしまったようだ。


(……前々から自己肯定感が低いな、とは思っていたけど、振り切るとこんな感じになるんだな)


 ローラは見慣れた様子でやれやれと肩を竦めている。カイトは苦笑い交じりにフィアの頭を撫でながら声を掛ける。


「フィアは充分かわいいよ。安心して」

「……お世辞は無用です。カイト様」

「お世辞じゃなく本心だよ。少なくとも、僕個人はフィアのことをかわいいと思っているから」

「本当、ですか……?」

「本当、本当」

「嘘ついたら嫌ですよ……?」

「嘘つかないから、大丈夫だよ」


 根気よく接しながら、少しだけ目を細める。


(懐かしいな……孤児院にいたメイ姉さんがこんな感じだったっけ)


 カイトが要領よく何かをやると、自分の不器用さに勝手に凹むのだ。そのときはこうやって根気よく慰めるに限るのだ。

 よしよし、とカイトが慰めていると、だんだんフィアの顔色がよくなってきた。次第に、えへへ、と笑いながらカイトの胸に甘えてくるようになる。

 その様子にローラは少し感心したようにふむふむと頷いた。


「すっかり兄さまも姉さまを理解しているというか」

「まぁ、相棒だからな」

「そっか、そっか。それは良かった――で、兄さま、話を戻すけど」

「ああ、偵察の件だな」


 ん、とローラは頷きながら軽く羽ばたき、視線を頭上に向ける。


「このまま空を飛んで辺りを偵察すればいいのかな?」

「そうだな。ただ注意点としてはできるだけ低空を行くことと、ダンジョンの敷地内から出ないこと。あまり高く飛んだり離れたりすると、人間に見つかる危険性があるから」

「りょーかいっ、それを報告すればいいんだねっ」

「そうだな。本当は僕が直で見れた方がいいんだけど」


 さすがにローラに抱えて飛んでもらうわけにもいかない。カイトは軽く肩を竦めると、ふとローラは何か思い至ったように少し考え込んでから口を開く。


「……兄さま、少し思ったんだけど」

「ん?」

「私たちとはダンジョンコアを通じて念話ができるんだよね」

『ああ、そうだな。フィアやローラとも実験した通りだ』


 念話で答える。もうコツを掴んで言葉を発さずに思念で会話できる。

 距離も基本的にダンジョン内では無制限でできる。ただ、ダンジョンの外に出ると、魔力を使わないと念話を繋ぐことはできなかった。

 ローラは頷き、思念を返してくれる。


『うん、で、ついでに言うと、ダンジョンコアを通じて兄さまはダンジョン内を遠視することもできる――だったら、さ』


 ふと思いついたようにローラは明るく笑って続ける。


『私たちの視界も共有できたりするんじゃない?』

『視界の、共有化……?』

「まぁ、やってみようよ。姉さま、実験に付き合ってくれる?」

「え、ええ、構いませんけど、何の実験ですか?」

「いいから、いいから。あ、兄さま、後で念話で合図するから」


 そう言うと、ローラはフィアの手を引いて森の中へと消えていく。あちらは小川がある方だが、何をするつもりだろうか?

 カイトは首を傾げてしばらく待つと、ローラの声が頭で響く。


『兄さま、私の視界を見ることできる?』

『ちょっと待ってくれ。やってみる』


 カイトは左目を手で覆い、意識を集中させる。ダンジョン内を探るのではなく、ローラの気配を掴み、その視界に捉えるようにする――。

 瞬間、ぱっと視界が拓けた。目に入ってきたのは川面とその中に立つ人影――。


『――っ』


 その姿を見た瞬間、思わずカイトは狼狽えてしまう。

 そこに見えたのは、フィアの姿。しかも服を脱ぎ捨て、水浴びしている姿だったのだ。咄嗟に目を抑えようとするが、すでにもう覆っている。

 そのせいで目を逸らすこともできない。思わずカイトは抗議の念話を送る。


『ろ、ローラ、おま……っ』

『あ、見えたんだぁ。兄さま』


 悪戯っ子のようなローラの声が響き渡り、視界が揺れて川面にいる彼女――フィアに近づく。髪を流している彼女は怪訝そうな眼差しでローラを見つめる。


「何ですか、ローラ。人のことをじろじろ見て」

(……聴覚も同期できるのか……っ)


 思わぬ収穫だが、さすがにフィアに申し訳ない。察するに、彼女はローラから実験の内容を聞いていないらしい。


「姉さま、綺麗だな、って思ってね。カイト兄さまも多分、釘付けになるよ」

(現にそうだもんな……っ)


 眼球を動かしても視界は動かない。どうやらローラの視界を完全に映しているらしい。ならば、この接続を切れば見ずに済むはず――。


『兄さま、実験だから視界を切っちゃダメだからね?』

『……っ』


 思考を先読みしたような念話に思わずカイトは面食らうと、フィアは自分の胸をぺたりと両手で押さえ、小さくため息をついた。


「私は女性的な魅力で言えば、何とも――ローラが羨ましいです」

「そうかなぁ。好みは人それぞれだし、兄さまに聞かないと何とも」

「……その、ローラ、あくまで仮の話なのですが」


 そこで言葉を切り、フィアは人差し指を突き合わせながら訊ねる。


「……この身体で、カイト様はご満足していただけますかね……?」

「大丈夫だよっ! 兄さまは姉さまに釘付けだから! 多分、今もフィア姉さまのことを考えてくれているって……!」

『だよね? 兄さま?』


 ローラの声は相変わらず悪戯っ子のようだ。カイトは深くため息をこぼすと、念話で告げる。


『ローラ、実験は終了だ。あと、フィアにこの件は内緒だぞ』

『もちろんっ。私も怒られたくないし』

『あと、それとは別にローラはお仕置きだからな』

『あ、あはは……それも、お手柔らかに……』


 ローラの念話の苦笑を聞き終え、カイトは念話を打ち切る。そして、その場に座り込んで空を見上げた。


(……全く薄々気づいていたものの)


 ローラはとんだ小悪魔っ子らしい。本当に嫌がるようなことはしないだろうが、それにしても少し悪戯が行き過ぎている気がする。

 どこかできちんとお灸は据えなければならないだろう。

 そう思いながら、カイトは目を閉じる。その瞼の裏側に蘇るのは、ローラの視界越しに見えたフィアの白い裸体で――。


 しばらくはそれに悶々とさせられそうだった。

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