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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第二章

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第2話 ダンジョンの朝②

ローラ視点

 ローラがこのダンジョンに来て驚いたのは、食事をすることだ。

 基本的に魔獣は魔力を糧としており、食事はあくまで補助でしかない。人間を襲う理由も食事というより、人間自体が豊富に魔力を持っているからだ。

 だから、魔力をあまり持たない動植物で腹を満たすのは非効率的。

 そう思っていたのだが――。


「――っ!」


 口の中で味覚が弾ける。ローラは思わず目をぱちくりさせながら、目の前の料理を見つめる。草の皿の上に載っているのは、とろみのあるタレが掛かった焼き魚だ。

 もう一度、その身を匙で口に運ぶ。瞬間、甘酸っぱいタレが口の中で広がる。

 その次に追ってくるのは、ほくほくとした魚の身の味。淡白ながら脂が乗った身は、タレとの相性も抜群。香草の風味もあり、臭みもなく、後味がすっきりしている。


「気に入ってくれた? ローラ」


 その声に視線を上げると、カイトは表情を緩めてローラを見つめていた。その手には削り出した二本の竹――箸で器用に魚の身を解している。

 彼はその身をぱくりと食べ、うん、と頷いて見せた。


「やっぱり、このイモは片栗粉の代わりにもなるな。とろみがいい」

「ん……兄さま、これすっごく美味しい。昨日の香草焼きも美味しかったけど」

「それは良かった。レムが地中から岩塩を拾ってくれてな、塩も使えるようになったのは大分大きいな。他に香辛料を見つけたらさらに料理の幅が広がるぞ」

「……兄さまって料理人なの?」

「いや? ただの歴史マニアだよ。料理の歴史もそれなりに勉強したことがあって、それを応用しただけかな」

「――応用しただけとは思えないほど、美味しいのだけど」


 ローラはそう言いながら再び魚を口に運ぶ。魚の腹には野菜が詰められており、それが独特の食感を醸し出している。魚の脂が染み込んでいて絶品だ。


(ただ焼いただけでも、こんな美味しくならないよね……)


 食べる手が止まらない。ほとんど食べたところで視線を上げれば、フィアは無言で魚を食べている。骨も余すことなく口に運んでおり、大分料理を気に入っているのが分かる。

 彼女は食べ終えると、手を合わせて少し頭を下げる。そのまま、小さく吐息をついてわずかに切なげに眉を寄せて葉っぱの皿に視線を落とした。

 その反応にカイトも気づき、くすりと笑いながら自分の皿を差し出した。


「――フィア、お代わりはいる?」

「い、いえっ、そんな……私はこれで……っ」


 フィアは顔を真っ赤にして首を振るが、視線は魚に釘付けだ。カイトは仕方なさそうに笑い、そっとフィアの前に皿を押しやる。


「いいから。いっぱい食べて。フィア」

「うう、ぅ……すみません、カイト様……ありがとうございます」

「気にしないで。ローラも足りなかったらどうぞ」

「あ……う、うん……」


 ローラは思わず葛藤するが、この美味を味わってしまうと、さらに欲しくなってしまう。おずおずとローラも匙を伸ばし、カイトが譲ってくれた分を食べる。

 フィアもカイトと同じ箸で食べながら、悔しそうに身を震わせる。


「すみません、カイト様。今日、もっとお魚が取れていれば――」

「……今日は三匹しか罠に掛かっていなかったからね」


 ローラはフィアと共に足を運んだ川を思い出す。そこにはカイトが作った川魚用の罠が沈められていたが、五つのうち、三つにしか入っていなかった。


「罠の数を増やす?」

「いや、そうすると逆に取り過ぎてしまって、川から魚がいなくなる可能性がある。こういうのは何事もバランスが大事だからな」


 カイトの言葉に頷いたフィアは軽く首を傾げた。


「では、食糧事情をどう改良しましょうか。キキーモラたちもいますし、新たな食糧を確保しないとジリ貧です。無論、魔力で凌ぐ手もありますが……」


 一応、森から得られた木の実や芋なども備蓄はしている。だが、それらは主にキキーモラが消費しており、かなりカツカツな現状だ。

 これに対する代案は思いつかない。ローラも首を傾げてカイトを見ると、彼は少し考えてから口を開いた。


「それに関しては試験的に畑作りを進めようと思う」

「え――でもそんなのを作ったら、人間たちにダンジョンの存在がバレるかも……」


 ローラが懸念点を口にすると、カイトは目を細めて頷いた。


(あ――この目つき)


 それは何かカイトが考えを持っているときの目つきだ。一週間という短い間とはいえ、ローラも徐々に彼のことを理解し始めていた。


「もちろん、バレないようにやる。だが今後、ダンジョンの規模が大きくなれば、ダンジョンの存在が発覚するのも時間の問題だ。だから、その前にしておくことがある」


 カイトはそう言うと、意見を求めるようにローラを見つめる。彼女はその視線に促され、おずおずとした口調で訊ねる。


「……防衛の準備?」

「その一環だな。ただ、それ以前に今の僕たちに致命的に足りていないものがある」

(……致命的?)


 その言葉を聞くとたちまち不安感が込み上げてくる。

 武器、陣地、兵糧――様々なものが頭にちらつくが、正直、それらはなくても大丈夫な気もしなくもない。何故なら、フィアやローラという強力な戦力がいるからだ。

 強いて言うならば、魔力だろうが、これは焦っても仕方がない部分がある。

 だとするならば、何が致命的に足りないのだろうか。

 ローラとフィアは揃って首を振ると、彼は真剣な表情で告げる。


「情報だ」


「情報……?」


 思わずローラはフィアと顔を見合わせる。うん、とカイトは一つ頷きながら傍らから何かを取り出す。彼はそれをめくり、机の上に載せて見せてくれる。

 それはここら一帯の簡単な地図のようだ。

 森の外れにある竹林や小川なども事細かに書かれている。


(……カイト兄さまって本当に器用……)


 思わず感心していると、カイトは左手で目を覆いながら小さく笑う。


「ダンジョンコアの機能は結構便利で、ダンジョンの敷地内ならこうやって遠視することができる。それでいろいろ見て地図を作ったんだ」

「ん……こうしてみると、結構広いというか」


 フィアが地図を覗き込んで言うが、カイトは軽く首を振り、真剣な視線で言う。


「広くはないよ。多分だけど、森のほんの一部でしかない。軽く木登りして確かめた」

「じゃあ、この外側にもっと広大な森が広がっている……?」


 ローラの質問にカイトは頷き、地図上でダンジョンの外側をなぞる。


「そして恐らくその森の外には人間の支配域が広がっているはず……だけど、彼らについて、僕たちは何も知らないだろう? どんな国があるかも、どんな武器を有しているのかも」


 その質問にフィアは息を呑み、真剣に考え込む。確かに、とローラも頷く。


(あんまり考えたこと、なかったかも)


 この世界に召喚されて刷り込まれたのは、ダンジョンコアとそれを管理するカイトを守ることだ。侵入者がいれば誰であれ、撃退すれば良いと考えていた。

 だけど、その侵入者がどこから来ているかは、考えたことがなかった。


「侵入者たちにはわずかだけど、情報がある――これを」


 カイトはそう言いながら、懐から何かを取り出した。ローラは見覚えがないが、フィアは目を眇めて告げる。


「この前討ち取った侵入者の持っていたものですね」

「ああ、何かの印なのだろうな」


 そう告げたカイトの手にあるのは、指輪だ。そこには独特な紋章が刻まれている。カイトはそれを指先で弾き、宙を舞わせてから掌でそれを握る。


「この紋章は鎧や武器にも刻まれていた。ということから類推できるのは恐らく、何かしらの組織に侵入者たちは所属していたことが類推できる――僕の勘だと貴族か騎士団だと思う。装備が統一されていたからね。こういった連中が再び攻めて来るとも限らない」


 カイトはそこで言葉を切ると、フィアとローラを順番に見てゆっくりと告げる。


「敵を知り己を知れば百戦危うからず――っていうのは、僕がいた世界の格言なんだけど、逆を言えば、敵を知らない状態だと危う過ぎる。己……というか、ダンジョンコアのこともまだよく理解し切っていないというのに」


 カイトはやれやれとため息をついたが、すぐに表情を引き締めて言葉を続ける。


「とにかく、防衛の作戦を練るためにも、敵の情報は早急に集めるべきだ。できることなら、この前みたいに急な侵入を許すことも避けたい」

「確かに。敵の来る方向が分かっていれば、そこを避けて田畑を作れますね」


 フィアが目を輝かせて頷くと、意気込みを見せてカイトを見つめる。


(姉さま、変わったなぁ……)


 前までは少し引っ込み思案だったのに、今はカイトのことになると積極的だ。きっとカイトに出会っていい影響を受けてきたのだろう。

 ならば、ローラとしても力になりたい。彼女は意気込んで手を挙げる。


「なら、私の力が使えるかも……!」

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