第1話 ダンジョンの朝①
ローラ視点
ダンジョンのメンバーに、ローラが加わって一週間が経った。
その早朝――目を覚ますのが早かったのは、ローラ。
四つ足を踏ん張るようにして、ぐっと背伸び。くしくしと手の甲で目元を擦り、眠気を振り払うと、身体を起こして部屋の中を見渡す。
薄暗い石室。普段明かりを放っているコアは台座ごと隅に寄せられ、布の覆いが被せられている。その寝室に三つの寝床が並んでいる。
真ん中にはフィア、一番隅にはカイトが寝ている。二人とも穏やかな寝息を立てているのを聞き、よし、とローラは一つ頷いた。
(今日は、一番朝早くに起きられた……)
時折、カイトの方が早いときがあるのだが、今日は勝てた。
そのまま、ローラは手早く髪を二つに結いながら、ゆっくりとベッドから降りて、忍び足でカイトのベッドへ歩み寄る。
そして、そっと彼を起こさないように横に滑り込んだ。
んっ、と彼はわずかに身動きするが、それだけだ。ローラは笑みをこぼしながら、その彼にすり寄るようにする。
(カイト兄さまの身体――なんだか、落ち着くなあ)
なんでだか分からないけど、すごく落ち着く。多分、しっかりしている身体だからだと思う。細身だけど、筋肉がついていて、びくともしない身体。
その傍にいると、安心できて――少しだけ、微睡んでしまう。
そして――こうしていると。
「ん……あ、またローラ……カイト様の傍で……全くもう」
来た、とローラは目をつむりながら、その声を聞く。
朝早くにカイトの寝床に潜り込んでいると、こうやってフィアが傍に来てくれる。そうやってしばらくしていると――。
「ん……ローラが、寝ているなら……いい、ですよね? えいっ……」
そっと、ベッドが軋む音が響き渡る――ローラとは反対側の場所に、フィアが入り込んだのだ。言い訳がましいことを口にして。
(――お姉さま、お兄さまのことが大好きだものね)
一週間、ずっといて分かったことだ。
ひっきりなしにフィアはカイトにくっついて回り、無邪気に笑いかけている。その笑顔は、妹のローラでも見たことのないくらい、嬉しそうで。
それを見ると、少しだけ寂しい気がするけど、分かる気もした。
(だって、カイト兄さま、頼り甲斐がある人だから)
いろんなお話をしてくれて、気が利いて、おまけに美味しい料理を作ってくれて。
それに――なんとなくだけど、かっこいいように思える。
一々、彼の笑顔にローラも少し見とれてしまうのだ。
だから、大好きなお姉さまとお兄さまの仲立ちをしたい――。
そんな一心と、ちょっぴり二人に甘えたい気持ちで、毎朝、ローラはカイトのベッドに潜り込んでいるのだ。
そうすると、さすがに気づいたのか――カイトが、身動きをする。
「う、ん……っと……またか……」
「ん……あ、カイト様、おはようございます」
カイトとフィアの二人の声。狸寝入りをしながら、ローラは耳をそばだてる。
「ごめんなさい、ローラを起こそうと思ったら――気持ちよさそうで、つい」
(お姉さま、言い訳になっていないよ……もっとマシな理由考えようよ)
ローラは内心で突っ込む。カイトもそれに気づいているはずだが、少しおかしそうに笑うだけで、別に突っ込んだりしない。
「いいよ、別に。僕が少し我慢すればいいだけだから」
「……窮屈でしたか?」
「いや、男の子的な事情。それよりも――ローラ、ローラ」
そっと優しく肩が揺さぶられる。それで初めて目を覚ましたような素振りで、ローラは目を開き――ふにゃりと笑う。
「あ――カイト兄さま」
「うん、おはよう。よく眠れた?」
「はい……ごめんなさい、また間違えちゃった」
「いいや、気にしていないさ」
カイトの大きな手が、優しく包み込むように撫でてくれる。丁寧にゆっくり撫でてくれるのが、とても大好きだ。ローラは笑み崩れながら、寝床の上で身体を起こした。
それにカイトは目を細めながら、微笑んで訊ねる。
「目が覚めたか?」
「ん、ばっちり!」
「よし、じゃあ、今日も仕事を始めようか」
カイトがそう声を掛けると、先に寝床から抜け出していたフィアは微笑んで頷いた。ローラは頭を撫でてくれるカイトを見上げてこてんと首を傾げる。
「今日は何からやるの? 昨日と同じ土塁の土固め?」
「いや、ローラがダンジョンに慣れて来たし、別の行動もしておこうと思う」
カイトは澄んだ瞳でローラを見つめながら言う。その目つきは何かを考えているような、凛々しい光を宿していて。
フィアもまたそれに表情を引き締めて頷き――不意に、くうぅ、と音が鳴った。
カイトとローラは思わず音の方向、フィアを見る。フィアはそっぽを向いたが、その頬が赤く染まっている。
(……お腹、空いたのね。姉さま)
ローラは思わず笑いをかみ殺していると、カイトは小さく笑って告げる。
「その前に、朝飯だな。フィア、ローラ、川の罠を見てくれるか?」




