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ダンジョン暮らしは火竜少女と共に  作者: アレセイア
第一章

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第10話 初めてのダンジョン防衛①

冒険者視点

「――っ、逃がしたか」


 洞窟を進んでいく一人の男――ジャンは軽く舌打ちをこぼした。

 その視界には女を抱えて駆け去っていく男の姿が見える。それを見やりながらジャンは剣を構え、脇に控える三人の配下に告げる。


「追いかけるぞ。あれを逃す手はない」

「しかし、ジャン様、危険な気もしますが」


 配下の一人、トマスが盾を構えながら油断なく視線を巡らせ、慎重な口調で告げる。


「あの女は確実に人化の力を手にした火竜――つまり、高位の存在です。それらが防衛に出ているということは、この先にそれ以上の敵が控えている可能性も……」

「それならこんな安っぽいダンジョンであるはずがなかろう」


 ジャンは鼻で笑い、一蹴する。彼は前へと進みながら言葉を続ける。


「折角の獲物だ。ここで俺は引くつもりはない――行くぞ。お前たち」


 ジャンの言葉に配下たちは顔を見合わせるが、一つ頷くとジャンを守るように陣形を組んで進み始める。なんだかんだで配下も意欲的なのだろう。


(当然だ。ダンジョンコアを見つければ一攫千金の機会だからな)


 元々の目的は森奥に棲む大型の魔獣を狩ることだった。

 ジャンの家は子爵家にあたり、彼はその三男だ。この家では伝統があり、大型の魔獣を狩らなければ、一人前として認められない。

 そのため、その儀礼をこなすべく森に入り、護衛と共に首尾よく魔獣を狩った。

 このダンジョンを見つけたのは、そのついでであり、本来なら様子見だったのだが。


(……間違いない、ここは掘り出し物だ)


 恐らく、できたばかりのダンジョン。つまり、防備が手薄である可能性が高い。

 ジャンは興奮を押し殺し、配下と共に慎重に前へと進んでいく。

 火竜に遭遇し、ドラゴンブレスを受けたときは驚いた。正直、死んだかと思った。彼らが命を繋いだのは火力が不充分であり、かつ、ヴォルテック鋼を使用した装備を身につけていたからだ。この鋼は魔力を帯びており、高い熱や衝撃に耐えることができる。

 おかげで炎を耐え抜き、逆に自爆した人化火竜を追い詰めることに成功している。


(人化火竜を狩ることができれば、大型魔獣以上の成果だ)


 そんな成果を上げれば、子爵家の面々はジャンを一目置かざるを得ない。

 それどころか首尾よく、ダンジョンコアまで手にすれば、その功績でもしかしたら、子爵家の跡取り――いや、王家に献上すれば、さらなる栄誉も見える。

 それだけの好機が目の前に転がっているのだ。


(ここで体勢を立て直せば、もしかしたら手柄を他の誰かに取られるかもしれない。それなら、多少無理してでも、成果に手を伸ばす――)


 ジャンはそう心に決め、配下の護衛たちと共にダンジョンの先へと進んでいく。

 彼の身を包むヴォルテック鋼の装備――火竜の吐息さえ防いだ装備が、彼らの気を大きくしていた。彼らは着実に洞窟の先へと進んでいき――。

 拓けた地下空洞に至り、彼らは思わず目を見開いた。


「――なんだ、これは」


 視界に飛び込んできたのは、大規模な土塁だった。土が人為的に盛り上げられ、壁のように反り立っている。思わず呆気に取られていると、視界で動く影が目に入った。

 女を抱きかかえた男だ。彼はひらりと身軽に土塁を登り、向こうへと姿を消す。


(あの向こうに恐らく、ダンジョンコアがある)


 ジャンは生唾を呑み込み、土塁を取りつこうとした瞬間、ずん、と地鳴りが響いた。視線を上げれば、土塁の向こうから巨大な人影が姿を見せる――。

 ゴーレムだ。土塁の上に立った岩巨人は何かを掴んで腕を振るう。

 瞬間、その手から何かが離れた。無数の何か――石礫が、降り注ぐ。


「――ッ!」


 瞬時にトマスが盾を構え、ジャンの目の前に立つ。直後、轟音と共に投石が降り注いだ。盾に石が激突する轟音が響き渡る。その中でトマスは冷静に盾を構え、石を全て防ぐ。

 他の護衛も槍や斧を巧みに使い、投石を弾いており、健在だ。

 思わず安堵の息をこぼし、ジャンは不敵に笑う。


「こけおどしだ。ゴーレムごとき、恐れるに足らず」

「ええ、距離を詰めればすぐに倒せます。ですが、この土塁は厄介です」

「焦るな。陣形を組んで投石を防ぎながら進めばいい」


 ジャンの指示にトマスたちは頷き、隊列を組んだまま、じりじりと土塁を登る。

 土塁は土を盛っただけで、単なる丘に等しい。ゴーレムは再び石を撒き散らすが、トマスたちは足を止めてしっかりと防御。跳ねた石がぶつかることもあるが、問題ない。


(ダンジョンコアは、目の前だ)


 その確信に思わず笑みがこぼれる。目の前に待つお宝を夢見て、ジャンはトマスたちを叱咤激励しようと口を開き――。

 不意に、風を切る音が耳に飛び込んだ。


「ぬぐぁっ」


 間抜けな悲鳴が響き渡る。その声の方向を見れば、配下の一人が体勢を崩し、武器を手放していた。ジャンはそれを見て怒りが込み上げる。

 何をやっているんだ――そう怒鳴ろうとした瞬間、違和感を覚える。

 配下が手放した武器の槍。それに何かが巻き付いている。紐のような何か――。


「――っ! ジャン様、ゴーレムの上に……!」


 トマスの声にジャンは振り返り、目を見開く。土塁の上を陣取るゴーレムの肩の上――そこに小さな人影が立っている。彼らは何かを頭上で振り回し、そしてこちらに向かって投げてきた。

 回転しながら迫る投擲物。配下の一人がそれを払いのけようと振るった瞬間、それが生き物のように矛の先端に巻き付いた。


「な――っ」


 それに驚いている間にも、再び回転する投擲物が飛来し、それが配下の足に命中。縄が巻き付いて足を取られ、体勢を崩した護衛は無様に土塁を転がり落ちていく。

 気づけば、土塁で立っているのはジャンとトマスだけだ。


「く……っ!」


 トマスは盾で必死に投擲物を防ぎながら振り返り、ジャンに叫ぶ。


「ジャン様、一旦退きましょう……! こいつらはヤバそうです……!」

「……っ、ああ……っ!」


 土塁を組んだダンジョンに、よく分からない投擲武器――確かに得体が知れない。ジャンは言われるままに頷き、土塁を降りようとする。

 だが、その足先に触れるのは丸々とした石――。


(……っ、さっき、ゴーレムが投げた石か……っ)


 それで足が取られそうになり、上手く下がれない。かといって足下を気にすれば、土塁の上から無数の投擲武器が降ってくる――。


「な、なんなんだ、一体――!」


 ジャンの情けない悲鳴が、地下空洞内に響き渡った。

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