第8話 聖女、夢の中で神様に怒られる
――気づけば、私は白い空間にいた。
床も、天井も、境界もない。
ただ、ふわりとした光だけが世界を満たしている。
(……夢か。)
昼寝してたはずが、気づいたら“夢の中会議室”みたいなところに来ていた。
これはたぶん、“神様イベント”だ。
異世界モノのテンプレに詳しい私の脳が、そう告げている。
「……あー、やっぱ来たか。」
「――来た、じゃない。」
声がした。
どこからともなく、柔らかくも荘厳な声が響く。
「久しいな、聖女よ。」
「初対面だよね?」
「……そうだった。」
姿を現したのは、白衣をまとった美形の男女――どっちか判別不能。
性別不詳の神、いわゆる“神様フォーマット美形”。
目がキラキラしてて、まばたきするたびに小さな光が舞う。
(やっぱ神様って発光素材でできてるんだな……。)
◇ ◇ ◇
「さて、聖女よ。」
「はい、神様。」
「そなた、少々……寝すぎではないか?」
「……正論やめてください。」
神様の眉がぴくりと動いた。
「そなたの寝息ひとつで魔が消えるのは良い。だが、“寝息以外の貢献”が見られぬ。」
「努力の方向性が違うだけです。」
「どう違うのだ。」
「働かずに成果を出してるんです。これ現世だと最優秀社員ですよ。」
「この世界、会社制ではない。」
「なら無職扱い!?」
神様がため息をついた。
光が少しだけ揺らぐ。
「……そなた、異世界に転生して何を学ぶつもりだったのだ?」
「えっと……休む大切さ?」
「それをここまで徹底して体現するとは思わなんだ。」
◇ ◇ ◇
私はベッドに寝転がるような姿勢のまま、光の神を見上げた。
「だって、頑張るのって疲れるじゃないですか。
前の世界では、サボると怒られて、働くと壊れて。
じゃあ、休むしかないじゃないですか。」
神様が少しだけ表情を曇らせた。
「……なるほど。前世で心をすり減らしていたのだな。」
「まあ、ブラック企業という名の地獄でしたし。」
「それで“天界送り”になったわけか。」
「いや、猫助けて落ちただけですけど。」
神様が思わず笑う。
「猫の恩返しが過ぎるな。」
「でしょ?」
一瞬、神殿のような空間に柔らかい沈黙が流れた。
光がゆらゆらと揺れて、少しだけ温かく感じる。
◇ ◇ ◇
「――よかろう。」
神様が手をかざした。
光が散り、私の頭上に金色の小さな羽根が降り注ぐ。
「そなたの怠惰は、“安らぎの奇跡”として認めよう。」
「つまり合法的ぐうたら生活!?」
「ただし、忘れるでない。」
神様の瞳がまっすぐ私を見た。
「そなたが眠ることで癒される者がいる。
だからこそ、“本気で休め”。
“逃げの眠り”ではなく、“癒しの眠り”をな。」
――その言葉に、少しだけ胸が温かくなった。
(……私の怠けも、誰かの救いになるのかな。)
「わかりました。神様。」
「では、今後もよく眠れ。」
「了解です。熟睡の義、承ります。」
「言い方。」
神様が呆れ笑いを浮かべた瞬間、
光が弾け、視界が暗転する。
◇ ◇ ◇
――目を開けると、そこはいつもの天蓋ベッド。
枕元でユウヒが心配そうに覗き込んでいた。
「聖女さま! うなされておられました!」
「うん、神様に怒られてた。」
「な、なんと! 神が直接!? お叱りの内容は!?」
「“もっとちゃんと休め”だって。」
「さすが神様……!」
……うん、やっぱりこの世界ちょっとおかしい。
でも、悪くない。
私は毛布を引き寄せ、微笑んだ。
今日も、いい夢が見られそうだ。
次回予告
第9話 「聖女、祝福の宴で寝落ちする」
――お楽しみに!




