第7話 聖女、ダンジョンに連行される(睡眠可)
朝。
聖堂の寝室にて。
「――というわけで、聖女さま。ダンジョンへ行きましょう!」
ベッドの上で目をこすりながら、私は固まった。
「……はい?」
「はい! 魔物が増えているそうです! 聖女さまの力で浄化を!」
「やだ。」
「即答っ!?」
ユウヒが涙目で懇願してくる。
「お願いです! 危険な場所ですから、僕がぜんぶ守りますから!」
「寝ながらでもいい?」
「むしろ寝ながらお願いします!」
「……そんな前提でいいの!?」
どうやら本気らしい。
“聖女が寝ているだけで奇跡が起きる”という噂が、
王都を飛び出して辺境まで広まったらしい。
◇ ◇ ◇
そして今――私は。
ダンジョンの入口前で、ベッドの上にいた。
「……いや、これ搬入したの!?」
「はい! 従者たちが運びました!」
「異世界って便利……いや、発想が狂ってる!」
周囲には鎧姿の護衛たちが並び、緊張した面持ちで見守っている。
彼らの目の前で、私は毛布にくるまった。
「それでは、聖女さま。どうぞお休みを!」
「なんか公開昼寝みたいになってるんだけど。」
「国の希望ですから!」
……その“希望”、寝てるだけで叶うのが怖い。
◇ ◇ ◇
私はベッドに沈み、ゆっくりと目を閉じた。
ダンジョンの奥から、冷たい風が吹いてくる。
不気味な唸り声、揺らめく魔気――。
でも、眠気の方が勝った。
(……もういいや。寝よ。)
◇ ◇ ◇
数分後。
「ま、まぶしい……!?」
「光が……ダンジョンから……!」
護衛たちがざわめく。
ベッドの周囲が、柔らかい光で包まれていた。
聖女の寝息に合わせて、空気が震える。
奥の闇が浄化され、魔物たちが悲鳴を上げて逃げていく。
数十年、誰も踏み込めなかった“瘴気の間”が、
たった十五分の昼寝で光の聖域に変わった。
「……まさか、本当に寝てるだけで……!?」
「さすが聖女さま……神の睡眠……!」
「寝相が神々しい……!」
――いや、それただの横寝姿勢だから。
◇ ◇ ◇
数時間後。
目を覚ますと、周りがピカピカになっていた。
「……掃除した?」
「いえ! 聖女さまの癒しの光です!」
「寝てる間に!?」
「はい! ダンジョンの魔物たちはすべて消滅しました!」
私はぽかんとする。
そして、ふと自分の両手を見た。
何もしていない。
本当に、ただ寝ただけ。
「……私、いよいよ働けない体になってきた気がする。」
ユウヒが嬉しそうに笑う。
「いいえ! 働かずに成果を出せるなんて、最高の才能です!」
「ポジティブモンスターだね君……」
でも、その笑顔を見て、
ほんの少しだけ――“役に立てた”気がした。
◇ ◇ ◇
帰りの馬車の中。
私はベッドごと荷台に固定されていた。
風が気持ちよくて、眠気がまたやってくる。
「……ねえ、ユウヒくん。」
「はい、聖女さま。」
「この世界、働かなくても回るんだね。」
「はい。聖女さまが休むことで、みんな安心するんです。」
「それ、会社でも導入してほしかったな……。」
ユウヒがくすっと笑う。
「でも、この世界でなら、ちゃんと“必要とされてます”よ。」
「……そうだね。」
そう呟いて、私は再び眠りに落ちた。
遠くで鐘の音が鳴る。
今日も世界は平和――たぶん、私が寝てるから。
次回予告
第8話 「聖女、夢の中で神様に怒られる」
――お楽しみに!




