第6話 聖女、労働拒否会議に参加する(自発的)
「――で、これが“聖女労働問題会議”です。」
ユウヒが、いつになく真面目な顔で説明した。
王城の会議室。長い机に偉そうな人たちがずらり。
王様、宰相、大司教、軍の将軍……いかにも“話が長そうな顔ぶれ”だ。
「なんで私、ここにいるの?」
「聖女さまの“働かない姿勢”について議論されるそうです!」
「それ、呼び方ひどくない?」
彼らの議題はこうだった。
『聖女が寝てばかりいる件について』
……なんか、労働監査でも入ったの?
◇ ◇ ◇
「まずは現状の確認を。」
宰相らしき男が分厚い書類を開いた。
「聖女殿は、召喚以来、活動日数わずか三日。平均労働時間、三秒。」
「……言い方ァ!」
「ただし、その三秒で十数人の重病者を癒したとの報告もあります。」
「すごいじゃん、それ。成果出してるじゃん。」
「しかしながら、労働意欲の欠如が問題視され――」
「いや、寝るのが仕事なんだけど!?」
議場がざわつく。
王が手を上げ、静かに言った。
「聖女よ。そなたはなぜ働かぬのだ?」
静寂。
皆の視線が私に集中する。
私は、ちょっと考えて――口を開いた。
「……“働く”って、なんだと思います?」
空気が止まった。
誰も即答できない。
いいぞ、異世界人。考えたことないだろこの質問。
「私は、頑張って疲れることだけが“働く”だとは思わないんです。
誰かが休めるように、誰かが癒されるように、
“休むこと”だって、立派な仕事なんですよ。」
沈黙。
そして、ユウヒが小さく拍手した。
「さすが聖女さま……!」
……うん、今のとこ名言っぽい。
でも本音を言えば――
「単に、疲れたくないだけなんですけどね。」
会議室が再びざわつく。
将軍が立ち上がり、眉をひそめた。
「そんな理由で……神の使命を怠ると!?」
「怠ってません。癒してます。寝ながら。」
「……ぐぬぬ。」
「結果が出てるなら、それでよくないですか?」
王が思わず笑った。
「確かに。三秒で結果を出せる者など、王国にもおらぬ。」
宰相が苦い顔でメモを取る。
「つまり、聖女殿の“生産性”は極めて高い、と……」
「そうそう。“最短勤務・最大成果”でお願いします。」
あれ? なんか会議がビジネス研修みたいになってきた。
◇ ◇ ◇
その後――。
結論:
聖女の休息は「神聖な業務」として正式に認定される。
必要に応じ、昼寝・仮眠・長期睡眠も含む。
「……つまり、寝放題ってこと?」
「はい! 公式です!」
「最高か。」
ユウヒが嬉しそうに微笑む。
「これで堂々とお休みいただけますね!」
「いや、もともと休んでたけどね。」
◇ ◇ ◇
その夜。
ベッドに潜りながら、私は小さく笑った。
(前世では、“サボりたい”って思うだけで罪悪感があった。)
(でも、ここでは“休むこと”が仕事になる。)
少しだけ、救われた気がした。
……働かずに、救われるなんて、最高じゃん。
「ユウヒくん。」
「はい、聖女さま。」
「今日の会議、どう思った?」
「素晴らしかったです! 僕も“昼寝の義務”を導入すべきだと!」
「いや、それは自由意志でいいから。」
私は笑いながら毛布を引き寄せた。
明日も、世界は働く。
私は、寝る。
それで、ちゃんと回っていく――多分。
次回予告
第7話 「聖女、ダンジョンに連行される(睡眠可)」
――お楽しみに!




