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エピローグ―ぬくもりの、その先へ

春。


神殿の庭には、雪の名残がまだ少しだけ残っていた。

陽の光は柔らかく、風は甘い。

こたつの季節は終わりかけていた。


私は縁側に腰を下ろし、

湯気の立つお茶をゆっくり口に運ぶ。


「……あったかい。けど、こたつほどじゃないなぁ。」


思わずそんなことを呟いた時、

背後から穏やかな声がした。


「春用のこたつ布団を作りましょうか?」

「いらないってば!」


振り返ると、そこには相変わらず優しい笑みのユウヒがいた。

白い神官服の上から薄い羽織を重ねて、

手には小さな花束を持っている。


「庭に咲いていました。真由に似ていたので。」

「またそういうこと言う~。」

「本音です。」


私は花を受け取り、笑いながら軽く彼の肩をつつく。

……春の光の中で見るユウヒの笑顔は、

冬のこたつよりもずっとまぶしかった。


◇ ◇ ◇


「ねぇ、ユウヒ。」

「はい。」

「今でも時々思うんだよ。

 “なんで私、異世界に来たんだろう”って。」


「それはもう答えが出ているでしょう?」

「うん。」


私は彼の手に指を重ねた。


「君に出会うため、だよね。」

「はい。そして、僕もあなたに出会うため。」


その答えを、春風がやさしくさらっていく。

遠くで鐘の音が鳴っていた。

新しい季節の始まりを告げる音。


◇ ◇ ◇


「ねぇ。」

「はい。」

「来年の冬も、こたつ出そうね。」

「もちろんです。」

「じゃあ、十年後も?」

「はい。」

「五十年後も?」

「はい。」

「そのうち、こたつが私たちを召喚しそう。」

「それは……“聖具転生”でしょうか。」

「なにその神聖な響き!」


笑い声が庭に響く。

花が揺れ、光がきらめく。


私はその中で、改めて思った。


――この世界に来て、本当によかった。


世界を救うことはできなくても、

一人の人と、一つの場所を愛することならできる。

それだけで、十分だった。


◇ ◇ ◇


「ユウヒ。」

「はい。」

「ありがと。」

「何をですか?」

「見つけてくれて。」


彼は穏やかに笑って、

私の指をぎゅっと握り返した。


「こちらこそ、真由を愛する機会をくれてありがとう。」


――そして、ふたりはまた並んで座る。

沈みゆく夕陽の中、

もうこたつはないけれど、ぬくもりは確かにそこにあった。


春の風が頬をなでる。

それはまるで、冬のこたつが残した“最後の熱”のように優しくて。


「ねぇ、ユウヒ。」

「はい。」

「私たち、幸せだね。」

「ええ。これ以上ないくらいに。」


ふたりの笑顔を包み込む光が、

神殿の屋根の上を静かに照らしていた。


そして――


世界のどこかで、

今日もまたひとつ、

新しい“ぬくもり”が生まれていく。


◇◇◇


【Fin.】

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