第5話 聖女、ついに働く(※三秒だけ)
朝――。
聖堂の鐘が鳴り響き、私はベッドの中で枕を抱きしめていた。
「……ねむ。」
昨日、“眠らぬ聖女”として称えられたばかりの私に、
さっそく新たな仕事(?)が舞い込んだらしい。
「聖女さま! 本日は王城にて、癒しの儀のご依頼が!」
「キャンセルで。」
「ダメです!」
ユウヒが勢いよくドアを開ける。
神官服の襟元までピシッと整っているのが腹立たしい。
「王族の方が直々にお呼びなのです!」
「寝てたのに……。」
「まどろみの奇跡をぜひ拝見したいとのことで!」
「私の寝顔を公開する儀式なの?」
「違います!」
うん、もうツッコミが追いつかない。
◇ ◇ ◇
数時間後、王城・謁見の間。
私は、超高級っぽいベッドに寝かされていた。
そう、王城内にベッドごと搬入されたのだ。
「このままお眠りください、聖女さま!」
「いや、せめてソファとか……」
「いけません! ベッドこそ神聖な場です!」
どうやら“聖女=寝る”という認識が完全に定着しているらしい。
……やばい、異世界に来てから寝てるだけで地位が上がってる。
壇上には王族らしき人物がずらり。
中央の王様(らしき人)が、興味深そうに私を見ていた。
「この者が“眠らぬ聖女”か。」
「は、はいっ! 世界を癒やす奇跡の御方でございます!」
ユウヒが胸を張る。
いや、だから寝てないんだって。
「では聖女よ、試しにこの兵の傷を癒せるか?」
前に進み出たのは、腕を押さえた騎士。
鎧がピカピカで、見るからに“今負傷しました感”を演出している。
(絶対に公開デモンストレーション用のケガだこれ。)
「さあ、聖女さま!」
「……寝ればいいの?」
「はい!」
ユウヒが満面の笑み。
周囲が息を呑む中、私は毛布をかけて目を閉じた。
――三秒後。
ピカーッ!!
まぶしい光が一閃し、空気が震える。
騎士の腕から、ぱっと傷跡が消えた。
「おおお……!」
「聖女さまが、三秒で癒された!」
「“三秒睡眠の奇跡”だ!」
「……いや寝てないけど。」
(というか、まだまばたきしかしてない。)
私は布団から上半身を起こし、苦笑する。
「えっと……完了?」
「はい! 完璧です!」
「じゃあ帰って寝ていい?」
「王都が歓喜してますので、あと少しだけ!」
◇ ◇ ◇
儀式後、王城の外は大騒ぎだった。
広場には人が集まり、口々にこう叫ぶ。
「聖女さまが眠らずに光を放たれた!」
「寝ないで癒すなんてすごい!」
「次は寝ながらでもお願いしたい!」
――もう、どっちだよ。
「聖女さま、皆が喜んでおります!」
「うん、よかったね。」
「今日も素晴らしいお働きでした!」
「三秒しか働いてないけどね。」
ユウヒはそんな私の言葉に、にっこり笑う。
「ですが、三秒で人を癒す方は他にいません。」
「それ褒めてるの?」
「もちろんです! 聖女さまは“最短勤務の神話”です!」
「なんかブラック企業の広告みたいな言い方しないで。」
◇ ◇ ◇
夜。
いつもの聖堂のベッドに戻った私は、毛布にくるまっていた。
今日一日で、なんか社会的評価が上がった気がする。
でも本人は全力で寝てただけ。
(これ……下手に動くより、寝てた方が国のためになるんじゃ?)
そんな怠惰な思考を浮かべながら、
私はゆっくりとまぶたを閉じた。
「お疲れ様でした、聖女さま。」
「……おやすみ、ユウヒくん。」
「明日も、いっぱい休んでくださいね。」
……もう完全に仕事=休息で定着している。
私は苦笑しながら、夢の中へと沈んでいった。
今日も、世界は静かで、少しだけ優しい。
次回予告
第6話 「聖女、労働拒否会議に参加する(自発的)」
――お楽しみに!




