第46話 聖女、デート決行!――“ぐうたら聖女、恋人と街へ行く”
朝。
神殿のこたつから、私の声が響いた。
「――よし、今日はデートする。」
「えっ!? いきなり!?」
「昨日の夜、決めてたの。神殿こもりすぎは健康によくない。」
「……まあ、それは確かに。」
「というわけで、今日は“恋人健康増進日”です。」
「名称のクセが強い……!」
◇ ◇ ◇
街へ出るのは久しぶり。
冬の王都は、空気が冷たくてきらきらしていた。
私は厚手のマントに身を包み、
ユウヒと並んで歩いた。
「うわぁ……ひさびさの街!」
「本当に楽しそうですね、真由さん。」
「うん、だってね、こたつ以外の景色を見るの久しぶりだよ。」
「それ、引きこもりの台詞ですよ!?」
「ぐうたらのプロは引きこもりの延長線上にいるの。」
「……聖女の新定義が更新されましたね。」
通りの露店には、
焼き菓子、香草茶、花冠――
冬なのに温かい色であふれていた。
「ユウヒくん、あれ見て!」
「キャンディですか?」
「そう、あれ。“恋結び飴”って書いてある!」
「……恋結び?」
「恋人同士で食べると、心が離れなくなるんだって。」
「……神殿で販売したら儲かりそうですね。」
「やめなさい。信仰をビジネスにする気!?」
「いえ、聖女経済活性化です。」
「どっちにしろアウト。」
私は笑いながら、飴を二つ買った。
「ほら、片方あげる。」
「ありがとうございます。」
「ねぇ、同時に食べよ?」
「えっ!? あ、はい!」
ぱり、と飴が砕ける音。
ほのかなハチミツの味が広がった。
「どう? 甘い?」
「……はい。幸せの味です。」
「……もう、そういうの慣れてないってば……」
◇ ◇ ◇
昼。
街の喫茶店でお茶休憩。
「うわ~、この椅子ふかふか。」
「こたつと比べてどうですか?」
「こたつの勝ち。」
「ですよね……。」
私は頬杖をついて、紅茶を一口。
窓の外には、雪がちらちらと舞っている。
「ねぇ、ユウヒくん。」
「はい。」
「こうして外に出るのも悪くないね。」
「そうですね。真由さんが楽しそうで、僕も嬉しいです。」
「……君、ほんとずるいよね。」
「えっ?」
「そんなこと言われたら、こたつより離れたくなくなるじゃん。」
「僕は、真由さんがどこにいても、
その場所を“こたつ”にします。」
「……っ! うまいこと言ったな!?」
「本心です。」
「うまいこと言った上に本心とか反則……!」
◇ ◇ ◇
午後。
市場を歩いていると、露店の老婦人が声をかけてきた。
「おや、仲の良いこと。お二人さん、恋人かい?」
「はい、そうです。」(即答)
「ちょっ!? 即答すぎ!」
「若いっていいねぇ。お嬢さん、幸せそうな顔してるよ。」
「そ、そんなこと……!」
「ほんとにいい顔してるわ。愛されてる人の顔だよ。」
……そんなふうに言われると、
なんか泣きそうになるじゃん。
◇ ◇ ◇
帰り道。
夕陽が金色に街を染めていた。
「ねぇ、ユウヒくん。」
「はい。」
「楽しかったね。」
「はい。今日という日を、一生忘れません。」
「おおげさだなぁ。」
「本気ですよ。」
少し沈黙。
私はそっと彼の腕に手を回した。
「ねぇ、ユウヒくん。」
「はい。」
「……またデートしよ。」
「ええ、もちろんです。」
「次はどこ行く?」
「……こたつの隣。」
「それもう家デート!」
二人で笑う。
その笑い声が、雪空にやわらかく溶けていった。
◇ ◇ ◇
夜。
神殿に戻り、こたつに沈み込む。
「……結論。外も悪くないけど、
やっぱり家が一番。」
「予想してました。」
「でも、君と一緒なら、どこでもいいかも。」
「……真由さん。」
ユウヒは照れたように笑い、
私の頭をやさしく撫でた。
――今日もまた、世界が少しあたたかくなる音がした。
次回予告
第47話 「聖女、こたつで告白される!?――“恋人たちの夜と永遠のぬくもり”」
――お楽しみに!




