第45話 聖女、初めての嫉妬!?――“可愛い独占欲とすれ違い”
朝――。
「おはようございます、真由さん。」
「おはよ、ユウヒくん。」
いつものようにこたつの中。
けれど、今日は少しだけ空気が違っていた。
ユウヒの手には書類の束。
神殿の外務担当から預かったものらしい。
「今日は新任の神官補佐さんに、聖句を指導するんです。」
「ふーん。……補佐?」
「はい。女性の方です。」
「ふーん。」
(女か……女ね……)
真由はふわっと笑ったが、
こたつの中で足の指がピクピクしていた。
「じゃあ、がんばって。」
「はい! 戻ったらすぐ報告しますね。」
「うん。別に早く戻らなくてもいいけど。」
「……はい?」
「なんでもないよー。」
笑顔のまま見送る。
でも、胸の奥はほんのりモヤモヤ。
◇ ◇ ◇
昼下がり。
神殿の回廊。
「見ました? ユウヒ様、新人さんと楽しそうに聖句練習してましたよ!」
「しかも距離近くない!?」
「あれは“信仰指導”って名の恋愛イベント!」
――耳に入ってくる噂。
(……へぇ。)
真由の頬がぴくりと引きつった。
(恋愛イベント、ねぇ……)
◇ ◇ ◇
こたつの間。
「ただいま戻りました!」
「おかえり。」
「はい、これが今日の報告書です!」
ユウヒが嬉しそうに笑う。
真由は受け取りながら、わざと冷たい声で。
「新人さん、どうだった?」
「え? あ、はい。すごく真面目で――」
「ふーん。かわいかった?」
「え? えぇと……その……」
「やっぱりかわいいんだ。」
「ち、違います! そういう意味ではなく!」
「ふーん。そう。」
真由はぷいっと顔をそむけた。
(あーあ。やっちゃった。これ完全に“嫉妬のテンプレ”だ……)
◇ ◇ ◇
夕方。
ユウヒは何度も話しかけようとしたが、
真由は“こたつ籠城モード”に突入していた。
「……あの、真由さん。」
「仕事してる。」
「こたつの中でですか?」
「はい。信仰の深化中です。」
「こたつ信仰……!」
「それより君、明日もその新人さんと?」
「え? いえ、明日は別の――」
「じゃあ今日だけなんだ。」
「……はい。」
沈黙。
そして小さく、真由が呟いた。
「……なんか、ごめん。」
「え?」
「私、ちょっと……子どもみたいだったかも。」
「……いえ。」
ユウヒはそっと、こたつの布団をめくった。
その中でうずくまる真由の頭に、手を伸ばす。
「僕、嬉しかったです。」
「……え?」
「嫉妬してくださるなんて。
それだけ、僕のことを想ってくださってるんですよね。」
「……っ、そ、そういう言い方ずるい!」
「僕もずるいです。真由さんが好きですから。」
真由は思わず顔を覆った。
「もう……君、ほんとに反則……。」
◇ ◇ ◇
こたつの中。
ユウヒが、真由の手をそっと包む。
「僕、他の誰かに笑いかける時も、
本当に思っているのはあなたのことです。」
「……ずるいってば、そういうセリフ。」
「では――ずるいのはお互い様ですね。」
二人の額が、そっと触れ合う。
その距離に、もう疑いも不安もなかった。
◇ ◇ ◇
夜。
「ねぇ、ユウヒくん。」
「はい。」
「明日、仕事サボってデートしよ。」
「えっ!?」
「信仰活動の一環。」
「……もう、何でも信仰にしようとしますね。」
「だって、恋も信仰も似たようなもんでしょ?」
「……はい。あなたが信じるなら、それが正しいです。」
こたつの灯りが、ふたりの影をひとつに重ねた。
次回予告
第46話 「聖女、デート決行!――“ぐうたら聖女、恋人と街へ行く”」
――お楽しみに!




