第44話 聖女、恋の副作用――“仕事にならない甘すぎ生活”
朝。
こたつの中。
「……ねぇ、ユウヒくん。」
「はい、真由さん。」
「今日、何曜日?」
「……火の曜日です。」
「ってことは……休日?」
「いえ、勤務日です。」
「だよね……うん、わかってた。」
私は布団に潜ったまま、うめいた。
「……出たくない。」
「わかります。」
「……でも君が言うと説得力ある。」
「いえ、僕はお仕えする身ですから。」
「でも、こたつに一緒に入ってるよね。」
「それは……信仰活動の一環です。」
「便利な言葉だなぁ、“信仰活動”。」
……完全に、私と同類だと思う。
◇ ◇ ◇
神殿の廊下では今日も噂が飛び交っていた。
「聖女さまとユウヒ様、また寝坊されたらしい……」
「“愛の奇跡”で時間が止まるんだって!」
「こたつが聖域化してるんだよ!」
……実際、その通りだった。
「ほら、仕事行こ?」
「……はい。行く前に、お守りの儀式を。」
「お守り?」
「出勤前の“おでこキス”です。」
「……だんだん儀式が増えてるね?」
「信仰は進化しますから。」
ちゅ。
「……はい、今日も加護完了です。」
「……やばい、行く前に体力使った。」
◇ ◇ ◇
午前中の祈祷。
聖女席に座る私。
隣に立つユウヒ。
……が、ふたりの距離がやたら近い。
「ユウヒくん、もうちょっと離れて。」
「いえ、警護のためです。」
「顔近い。」
「信仰のためです。」
「息あたってる。」
「……愛の加護です。」
「……反論できないのが悔しい。」
信徒たちの視線がそわそわと揺れている。
これ、もう完全に聖堂ラブコメ現場だ。
◇ ◇ ◇
昼休み。
「ねぇユウヒくん。」
「はい。」
「“恋の副作用”って知ってる?」
「いえ、初耳です。」
「仕事に集中できない、
考えるたびに顔が浮かぶ、
気づいたら微笑んでる――」
「……まるで僕のことですね。」
「……そう、私も同じ。」
二人の視線が重なる。
見つめ合って笑い、同時に顔をそらした。
「……副作用、重症だね。」
「治療法はありますか?」
「うん。午後サボる。」
「だめです!」
◇ ◇ ◇
午後。
聖堂の会議。
神官たちが真剣な顔で報告をしている中、
私はこっそりユウヒに小声で囁いた。
「ねぇ、退屈。」
「しっ。今、聖堂の予算の話を……」
「こたつの新調費用とか入ってる?」
「……いえ、さすがにそれは……」
「じゃあ聞かなくていいや。」
「そういうわけには!」
……あ、今絶対“やる気スイッチ寝てる”って思われた。
(というか、実際寝かせてるけど。)
でも会議の最後――神殿長が言った。
「……こたつの聖具化は予算に組み込む。」
「えっ!?」
「神々もあの温もりに感銘を受けられたそうだ。」
「まさかの上層部公認!?」
「ほら見た、言ったでしょ。」
「ま、真由さん……すごいです……!」
「愛の勝利ってやつ。」
◇ ◇ ◇
夜。
こたつに戻って、ふたりで並んで紅茶を飲む。
「今日もいっぱい“副作用”出てたね。」
「はい。ほぼ仕事できませんでした。」
「でも、世界がちょっと幸せならいいよね。」
「……そうですね。」
「ねぇ、ユウヒくん。」
「はい。」
「恋って、ほんとに万能薬かも。」
「……それ、また新しい信仰ですか?」
「うん。“恋愛療法”。」
「……信じます。」
二人の笑い声が、こたつの熱と一緒に広がっていく。
外の雪が舞っていても、
この部屋だけは春のように暖かかった。
次回予告
第45話 「聖女、恋人になって初めての嫉妬――“可愛い独占欲とすれ違い”」
――お楽しみに!




