第4話 聖女、初めての仕事(ただし睡眠)
朝。
今日も知らない天井。
いや、もうすっかり見慣れた“マイ異世界天井”だ。
「……ユウヒくん、今日の予定は?」
「はい! 今日は“癒しの儀”がございます!」
「なるほど。それって私、何すれば?」
「お休みになってください!」
「……それ、いつも通りじゃない?」
そう、私は基本的に寝るだけの聖女。
でも今日の“癒しの儀”は、どうやら公式行事らしい。
聖女が眠り、神の加護をもたらす――そんなおおごと。
「眠るだけでいいんだよね?」
「はい! 民の病を癒すのです!」
「……寝てる間に?」
「神の力が降りるのです!」
「寝相悪くても大丈夫?」
「……努力しましょう!」
努力する方向性が違う。
◇ ◇ ◇
聖堂の奥。
豪華な寝台が置かれた“癒しの間”。
どう見ても高級ホテルのスイートルーム。
「こちらでお休みください、聖女さま。」
「……完全に昼寝スペースだね。」
「祈りの空間です!」
ユウヒは真剣だ。
私はベッドに腰を下ろし、ふかふかのシーツをなでた。
相変わらずの上質。
もはやここに永住したい。
「では、始めます。――神の御名のもとに、癒しの光を!」
ユウヒの声が聖堂に響く。
おごそかな空気。
それに対して私は、毛布をかけながら聞き流していた。
(寝るだけで奇跡起きるとか、そんな都合のいい話――)
その瞬間。
ベッドの周囲が、ぼんやりと光りはじめた。
「……え?」
「おおっ! 発動しました!」
いやいや、ちょっと待って。
私、まだ寝てないんだけど!?
「ま、待ってユウヒくん! 私なにもしてない!」
「それが奇跡なのです!」
「何もしてないのが!?」
「怠惰こそ神聖なる静寂!」
「ポジティブ解釈すぎる!」
光はさらに強くなり、部屋中が黄金色に包まれた。
外で見守っていた神官たちがざわめく。
「おお……聖女さまが……まどろみの奇跡を……!」
「眠らずして光を!」
「寝てないんだけど!?」
完全に誤解が広がっている。
これはヤバい。神格化の方向が間違ってる。
◇ ◇ ◇
一時間後。
「――というわけで、“眠らぬ聖女の奇跡”として記録されました!」
「“眠らぬ聖女”……? いや、寝たいんだけど。」
(寝たくても寝られない=奇跡扱いって何だ。)
「でも実際、病の者たちが癒えました!」
「……ほんとに?」
「はい! あなたが寝ようとした瞬間、光があふれ、みんな回復したのです!」
「寝ようと“した”だけで?」
「はい!」
(……つまり、私がサボろうとした瞬間に奇跡が起きた?)
「なんか複雑なんだけど……」
「いいえ! これはまさに、怠惰の聖女!」
「待って、それ言い方!!」
「“安らぎをもたらす者”という意味です!」
「フォロー雑!!!」
◇ ◇ ◇
夕方。
私は再びベッドの上で、今日の出来事を思い出していた。
どうやら本当に“奇跡”は起きたらしい。
寝てないのに、寝る準備だけで。
(……もしかして私、寝る才能がある?)
なんかもう、働かずして評価されていく自分が怖い。
いや、嬉しいけど。
「聖女さま、本日はお疲れ様でした!」
「寝てただけだけどね。」
「いえ、“寝ることが仕事”なのです!」
「そんな職種、前世で募集してなかった。」
「この世界では神職です!」
彼は誇らしげに胸を張った。
信じる力、ほんと強い。
そして危険。
「……ねえ、ユウヒくん。」
「はい?」
「もし私が“寝過ぎて世界が滅ぶ”って言われたら、どうする?」
「ご安心ください。そのときは僕も一緒に寝ます!」
「いや、そうじゃなくて!」
「眠りの中でも、聖女さまをお守りします!」
……ダメだ。この子、忠犬を超えてもう信仰体。
私は毛布を引き寄せながら、苦笑いした。
たぶんこの世界、私を甘やかしすぎてる。
でも――それも悪くない。
「おやすみ、ユウヒくん。」
「おやすみなさい、聖女さま。」
夜の静寂の中、彼の優しい声が響く。
私はゆっくりと目を閉じた。
そして思った。
――たぶん、私の“職務”は、今日も布団の中にある。
次回予告
第5話 「聖女、ついに働く(※三秒だけ)」
――お楽しみに!




