第38話 聖女、雪の日の告白――“こたつより君があたたかい”
朝から、静かに雪が降っていた。
王都の街並みが白く染まり、神殿の屋根もやわらかく覆われていく。
「……真っ白。」
窓辺に座って、真由はぽつりと呟いた。
神殿の中はこたつのおかげでぬくぬく。
けれど、外の白い景色を見ていると、
どこか胸の奥がきゅっと締めつけられる。
(……この世界に来て、もうだいぶ経ったんだなぁ。)
ふと、風鈴が鳴った。
音が雪に吸い込まれるように消えていく。
「真由さん。」
背後から聞こえる声。
振り向くと、ユウヒがマントを持って立っていた。
「雪が止んだら、外に出てみませんか?」
「え? 寒いよ?」
「でも、雪の日は……きれいなんです。
“神の吐息”と呼ばれていて。」
「へぇ……ロマンチックだね。」
「僕の故郷では、願いごとを口にしながら雪を見上げると、
神様がそれを聞いてくださるって言われてます。」
「ふふ、そういうの好き。」
◇ ◇ ◇
雪がやんだ午後。
ふたりは白い中庭に出た。
真由の肩に降りる雪片を、ユウヒがそっと手で払う。
「……冷たくないですか?」
「うん、平気。君があったかいから。」
その一言に、ユウヒの手が止まる。
「……そんなこと言われたら、どうすればいいかわかりません。」
「素直に喜べばいいんだよ。」
真由は笑って、雪を一粒手のひらに受けた。
「ねぇ、ユウヒくん。」
「はい。」
「もし私が、また“神の使命”とかで遠くへ行くって言われたら……
君はどうする?」
ユウヒは迷いなく答えた。
「――追いかけます。」
「……即答だ。」
「だって、あなたのいない世界なんて、もう考えられませんから。」
その瞳に映るのは、ただひとりの聖女。
◇ ◇ ◇
雪が舞う。
真由は小さく息を吸った。
「……私ね、前の世界じゃ、“誰かに必要とされたい”って思ってたの。」
「……はい。」
「でも、いつの間にか、“誰かと一緒にいたい”に変わってた。」
ユウヒが目を見開く。
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「――私、君が好き。」
雪が、舞い落ちる。
風鈴が、遠くで鳴った。
その音の中で、ユウヒはゆっくり微笑んだ。
「……ありがとうございます。」
「え、ちょ、返事それ!?」
「違うんです!」
「“ありがとうございます”って告白返しのマナーなの!?」
「ち、違います! 僕も……僕も好きです!」
(焦り方かわいいなぁ……)
◇ ◇ ◇
ふたりの距離が、近づいた。
白い息が重なり、
真由はそっと手を伸ばして、彼の頬に触れた。
「……寒い?」
「いえ。むしろ、暑いくらいです。」
「ふふ……私も。」
そして、雪の降る中――
静かに唇が重なった。
短く、やわらかく。
それは、冬の祈りのような口づけだった。
◇ ◇ ◇
こたつよりも、みかんよりも、
世界のどんな奇跡よりも。
今この瞬間が、いちばんあたたかかった。
次回予告
第39話 「聖女、デート宣言――“神殿から始まる二人暮らし計画”」
――お楽しみに!




