第35話 聖女、こたつを召喚――“怠惰の聖具”爆誕!
数日後。
神殿は、異様な熱気に包まれていた。
……いや、実際に「熱気」がある。
「……あの、真由さん。これ、なんですか?」
「見ればわかるでしょ。新しい聖具だよ!」
ドンッ、と自慢げに真由が指さしたのは、
低い木の台に布を掛け、その中からほんのり湯気が立っている謎の物体。
「“聖具・こたつ”。名付けて――怠惰の玉座!」
「ぜ、全然神聖な名前じゃありません!」
「神も温まるぬくもりだよ。ある意味で神聖。」
「その理屈、通すつもりなんですね……」
◇ ◇ ◇
きっかけは、ある夜のひと言だった。
「足先が冷たい……世界が滅びる……」
ユウヒが慌てて魔導暖炉を点けたものの、
どうにも温まり方が足りない。
そこで真由がぽつりと呟いた。
「あ~……こたつが恋しい……」
その一言がすべての始まりだった。
◇ ◇ ◇
「で、こたつってどういう仕組みなんです?」
「簡単。台の下に熱源を置いて、布で熱を逃がさない。」
「つまり……魔法陣で熱を一定に保てばいい?」
「そう! 頭いいねユウヒくん!」
「いえ、そんな……」
(ほめられた……!)
頬を赤らめながら、彼は魔法陣を描く。
やがて布の下から、ほわりと心地よい熱が広がった。
「わぁ……! 完璧!」
「成功……ですか?」
「うん! さあ、一緒に入ろ!」
「い、一緒に!?」
「こたつはね、共有してこそ意味があるんだよ。」
「そ、そういう文化なんですか!?」
「うん。異文化交流。」
「い、異文化……」
◇ ◇ ◇
二人で布団の中に足を入れる。
最初の数秒――沈黙。
そして。
「……あったかい。」
「ね。これ、悪魔的に出られなくなるんだよ。」
「悪魔的、ですか。」
「うん。文明の罠ってやつ。」
真由が笑うと、ユウヒもつられて微笑んだ。
二人の足が、布団の下で偶然触れ合う。
「ひゃっ……!」
「ご、ごめんなさい!」
「い、いやっ、今のは……っ」
顔が真っ赤になったまま、どちらも動けない。
(やばい……出たいけど出たくない……)
結局、ふたりともこたつの魔力に屈した。
◇ ◇ ◇
数時間後。
修道女が様子を見に来ると、
こたつの中には半分寝ている聖女と神官見習いの姿。
「……あの、聖女さま?」
「……あ、やば……寝てた……」
「聖務の時間を過ぎております……!」
「え、でもこれ、聖具だよ? 祈りの一環。」
「祈り!?」
「“ぬくもりを広げる祈り”……ね?」
「……は、はい……!」
(通った……! 信仰って便利……!)
◇ ◇ ◇
翌日、こたつの存在は神殿中に広まった。
神官たちはこぞって「入信」し、
やがて神殿には“ぬくもり教”が誕生。
「こたつの熱に感謝を――」
「ぬくもりこそ神の慈悲――」
「……完全に宗教になってる。」
「やはり“怠惰の玉座”は偉大です。」
「やめて、変な呼び方しないで。」
◇ ◇ ◇
夜。
こたつの中で、ユウヒがぽつりと言った。
「……こうしてると、不思議ですね。」
「なにが?」
「外は寒いのに、心が温かいんです。」
「ふふ、そりゃあ“こたつ効果”だよ。」
「……違います。あなたの隣にいるからです。」
静かな沈黙。
布団の下で、真由の足がそっと触れた。
「……やっぱり君、こたつよりあったかいね。」
「えっ!?」
「ふふ、いい意味で。」
こたつの中の空気が、さらに温まった気がした。
◇ ◇ ◇
こうして――
“こたつ”は神殿の正式な聖具に登録された。
名称:「怠惰の玉座」
効果:信仰心を温め、俗世を溶かす。
そして今日も、聖女と神官はぬくぬくとその中で祈っている。
次回予告
第36話 「聖女、堕落(※安らぎ)の日々――“こたつと恋の季節”」
――お楽しみに!




