第24話 聖女、嵐の夜に“彼の腕の中で”
夜。
昼間まであんなに穏やかだった空が、
今は怒っているみたいに雷鳴を轟かせていた。
「ひ、ひいぃ……っ」
私はベッドの上で布団を抱きしめていた。
子どもみたいに、全身を丸めて。
(この世界、雷の音でかすぎない!?)
(音圧が現代よりハイレベルなんだけど!)
窓がガタガタと震え、
稲光が部屋の中を一瞬真っ白に染めた。
「……ぅひゃっ!」
反射的に悲鳴が出る。
そしてその直後――。
コン、コン。
「真由さん、大丈夫ですか!?」
ユウヒの声だ。
まるで合図したようなタイミング。
「……だ、大丈夫。
たぶん……心臓は生きてる……」
扉が開いて、彼が飛び込んできた。
手には灯り、顔は真剣。
「怖いなら、無理に一人でいないでください。」
「怖いとかじゃなくて……びっくりしただけで……」
「その震え方はびっくりのレベルを超えています。」
「……見ないで。」
「見ます。」
(なにこの会話。羞恥心が限界。)
◇ ◇ ◇
稲光がまた走った。
その一瞬で、私は反射的に彼の服の袖を掴んでしまう。
「っ、ごめん!」
「いいんです。……ほら。」
彼がベッドの端に腰を下ろした。
そして、静かに腕を伸ばしてきて――。
「怖い時は、人に頼ってください。」
そのまま、肩を包むように抱き寄せられた。
◇ ◇ ◇
一瞬、世界が止まった。
鼓動の音だけが、やけに鮮明に響いてくる。
(え……近い、近い……!)
(ていうか今、普通に抱きしめられてるんですけど!?)
ユウヒの胸の中は、驚くほどあたたかかった。
彼の心臓の音が、私の胸の奥にまで伝わってくる。
「……あのね。」
「はい。」
「雷、昔から苦手なの。
だから、こうしてくれるとちょっと安心する。」
「よかった。」
短く、でもやさしい返事。
それが心に沁みた。
◇ ◇ ◇
外では雷が鳴っているのに、
不思議と怖くなかった。
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「こうやって誰かに包まれてるの、すごく安心するね。」
「僕も、です。」
「え?」
「僕も、こうしてると……守られてる気がします。」
「……え、それは逆じゃない?」
「いいえ。あなたのぬくもりが、僕を落ち着かせるんです。」
ユウヒの声が少し震えていた。
その震えが、私の胸の奥で小さく共鳴する。
(ああ、この人、本当に優しいんだな。)
◇ ◇ ◇
しばらく沈黙。
けれど、心地よい沈黙だった。
雷の音が遠くで響いても、
彼の腕の中は別世界みたいに穏やかで。
「……ユウヒくん。」
「はい。」
「ありがと。」
「こちらこそ。」
彼が微笑む。
その笑顔が近すぎて、呼吸を忘れた。
(ダメだ、距離ゼロ。
これはもう……恋とかそういう次元じゃない。)
「……もう少しだけ、このままでいいですか?」
「……うん。」
彼の胸に顔を埋めた。
そこから聞こえる鼓動が、まるで子守唄のようで――
いつの間にか、眠っていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
目を開けたら、ユウヒが隣で座っていた。
寝癖のまま、微笑んでいる。
「おはようございます、真由さん。」
「……おはよう。寝てたの?」
「ずっと起きてました。
あなたが安心して眠れるように、見ていましたから。」
「……もう、ほんとにずるい人。」
「またそれですか?」
「うん。でも、そういう“ずるさ”なら、好きだよ。」
その言葉に、彼は一瞬動きを止めて――
顔を真っ赤にした。
「そ、それは反則です……!」
「お互いさま、でしょ?」
ふたりの笑い声が、朝の光の中で溶けていった。
次回予告
第25話 「聖女、風の噂で“婚約者!?”を知る」
――お楽しみに!




