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第16話 聖女、初めてのハグ(涙の夜)

夕方。


聖堂の窓から射す光が、床の大理石に金色の帯を作っていた。

けれどその静けさを破るように、扉が勢いよく開いた。


「ユウヒくん!?」


息を切らして駆け込んできた彼の顔は、

いつもの優しい笑顔とはまるで違っていた。


「……どうしたの?」

「僕……信徒の祈祷で、失敗しました。」


その言葉に、私は思わず立ち上がる。


「失敗?」

「癒やしの祈りを行ったのですが、光が出なくて……皆の前で、何もできなかったんです。」

「そんな……」


彼は拳を握りしめた。

その手は小刻みに震えている。


「僕は、まだ見習いです。

 でも、“聖女さまを支える神官”なんて立場をもらって……なのに何も出来ない。」


「ユウヒくん……」


彼の声がかすれていた。

まるで、自分を責めるように。


◇ ◇ ◇


私はそっと歩み寄って、

彼の前で立ち止まる。


「ねえ、ユウヒくん。」

「……はい。」

「君は、“光が出なかった”って言ったけど、

 それでも人を支えようとしたでしょう?」


「でも、それじゃ意味が……」

「あるよ。」


彼が顔を上げる。

私は、ゆっくりと微笑んだ。


「私ね、転生してからずっと思ってたの。

 この世界には、“がんばること”が当たり前の人が多い。

 でも、がんばれない人のそばにいてくれる人が一番、光なんだよ。」


ユウヒの瞳が揺れた。


「だから、君はちゃんと“光”だよ。

 少なくとも、私にとっては。」


その瞬間。

彼の頬に、涙がひとすじ落ちた。


◇ ◇ ◇


「……泣いてるの?」

「す、すみません……こんなところで……」

「謝らなくていいって。」


私は、迷わず彼に手を伸ばした。

そのまま、彼の背中にそっと腕を回す。


「……っ!?」

「はい、ハグです。限定一名。抱きしめられるまで泣いていい権利。」

「そ、そんな……!」

「異論は却下。」


少し戸惑いながらも、彼は小さく笑った。

そして、ゆっくりと私の背中に手を添えた。


彼の肩が微かに震えている。

そのぬくもりが、胸の奥まで伝わってくる。


「……あったかい。」

「君がいつも私を包んでくれるから、今度は私の番。」


「聖女さま……」

「真由でいいよ。」

「え……?」

「ほら、こんなに近いんだから。」


名前を呼ばれて、

彼の呼吸が止まった気がした。


◇ ◇ ◇


しばらく、ふたりは何も言わずに立っていた。

ただ、お互いの鼓動の音だけが響いていた。


やがて、ユウヒが小さく囁く。

「……ありがとうございます。」

「うん。」

「僕、もう少しだけ、強くなります。

 あなたの光になれるように。」

「じゃあ私は、もう少しだけ、だらけてるね。」

「だらける宣言ですか!?」

「バランス大事でしょ。」


二人で笑った。

その笑い声が、聖堂の光に溶けていった。


◇ ◇ ◇


夜。


ユウヒが部屋を出て行ったあと、

私は胸に手を当ててつぶやいた。


「……ほんと、ズルい子。」


だって、あんな顔で泣かれたら、

もう放っておけるわけないじゃない。


ベッドに潜り込みながら、

私はそっと目を閉じた。


あのハグのぬくもりが、まだ肌に残っていた。


次回予告


第17話 「聖女、神官の誕生日を祝う(枕の贈り物)」

――お楽しみに!

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