第15話 聖女、嫉妬する(信徒は見た!)
王都の朝は、いつもより少しだけざわついていた。
「……なんか外が騒がしいね。」
「はい。本日、王立教会で“信徒交流会”があるのです。」
「交流会?」
「神官や信徒たちが親睦を深める日です。僕も手伝いに行かねば……」
「……ふーん。」
(なんか知らない単語出てきたな。“交流”ってつまり、“他の女と話す”ってことでは?)
「では、行ってまいります!」
「……あ、うん。気をつけて。」
ユウヒは嬉しそうに出ていった。
その笑顔がなんかムカつく。
いや、別に理由はない。たぶん熱のせい(※治ってます)。
◇ ◇ ◇
昼。
部屋にいても落ち着かない。
読書も飽きた。寝ても寝返りばっかり。
(……ちょっとだけ。様子見に行くだけ。いや、監視じゃない。見守り。)
私はこっそり外套を羽織り、聖堂の外へ向かった。
◇ ◇ ◇
王立教会の広場は人でいっぱいだった。
色とりどりの衣を着た信徒たちが笑い合い、花を交換し合っている。
その中央――。
「ユウヒくん……。」
彼は人に囲まれていた。
若い信徒の女性たちが次々と話しかけ、
彼は微笑みながら一人一人に丁寧に応じていた。
(……なんだこの“人気アイドルの握手会”。)
女性たちは頬を赤らめて、口々に言う。
「ユウヒ様の祈りは温かくて素敵です!」
「このハーブのお守り、受け取ってください!」
「髪に似合うと思って……リボンです!」
リボン。
なんでリボン渡してるの。意味わかんない。
(いやいや、別に怒ってない。怒って……ない……!)
でも、胸のあたりがもやもやして、
見ているだけで息が詰まりそうだった。
◇ ◇ ◇
「……聖女さま?」
声をかけられて振り向くと、護衛のひとりが立っていた。
「おひとりでここに? お体は――」
「ちょっと散歩。空気を吸いに来ただけ。」
「顔が赤いようですが?」
「うるさい。」
私は木陰からユウヒを見つめた。
すると彼と目が合った。
彼は一瞬驚き、そして――笑った。
(……あ。やばい。見つかった。)
彼はすぐに人々の間を抜けて、私のもとへ駆け寄ってきた。
「聖女さま! どうしてここに!?」
「別に。ちょっと……通りかかっただけ。」
「通りかかる距離じゃないです!」
「そ、そうだった?」
ユウヒが慌てて外套を私の肩にかけた。
「風が冷たいです。お体が……!」
「だから大丈夫だってば!」
その瞬間、また女性信徒の視線が集まる。
「聖女さまとユウヒ様が……!」
「近い……!」
「尊い……!」
……ダメだ、この世界、なんでも尊ぶ。
◇ ◇ ◇
「……怒ってますか?」
「怒ってないよ。」
「……本当ですか?」
「怒ってないってば。」
「……目が怖いです。」
(あ〜、絶対バレてる。私、わかりやすいんだなぁ……)
「……別にね。」
「はい。」
「君が誰と話してても、仕事だし。」
「はい。」
「ただ……リボンは返してほしいかな。」
「り、リボン!?」
「髪につけてたでしょ。あれ、誰にもらったの?」
「えっ……その、信徒の方が……」
私はぷいっと顔をそむけた。
「似合ってない。」
「そ、そんな……!」
沈黙。
そして、ユウヒが小さく笑った。
「……じゃあ、今度は聖女さまが選んでください。」
「え?」
「僕に似合うものを。あなたの手で。」
心臓が跳ねた。
その言葉が、どこか優しくて、ずるくて。
「……そんなこと言って、後悔しても知らないよ。」
「後悔しません。僕は、あなたの選んだものなら何でも嬉しいです。」
顔が熱くて、まともに見られなかった。
たぶん、今の私――ランタンよりも発光してる。
◇ ◇ ◇
夜。
部屋に戻って、私は机に向かった。
そっと、淡い青のリボンを取り出す。
「……似合うかな、あの子に。」
つぶやいて、口元が自然にほころんだ。
◇ ◇ ◇
その夜の聖堂では――。
「聖女さまがユウヒ様を探し回っていたらしい」
「え、それって……嫉妬!?」
「尊いッ!!」
……噂は翌日には倍速で広まったという。
次回予告
第16話 「聖女、初めてのハグ(涙の夜)」
――お楽しみに!




