第14話 聖女、王都の夜祭りで“ペアランタン”
昼間の王都はいつもより賑やかだった。
石畳の道に屋台が並び、色とりどりの布がはためいている。
「今日は“光の祭り”です!」
ユウヒが目を輝かせて言う。
「光の……?」
「一年に一度、人々がランタンを天に放ち、
それぞれの願いを神に届けるんです。」
「へぇ~、ロマンチックじゃん。」
「はい! そして今年は、聖女さまにも特別なランタンが用意されています!」
「……まさか寝ながら飛ばす系?」
「違います!」
◇ ◇ ◇
夕暮れ時。
街全体が柔らかな金の灯に包まれるころ、
私は聖堂の前で用意された淡い青のドレスを着ていた。
軽く透ける薄布、金の刺繍。
いつもの寝巻き姿とはまるで別人。
「……すごい。まるで本物の聖女みたい。」
「本物です!」
「いや、寝てるだけの自称だけどね。」
「僕にとっては本物です。」
不意に真顔で言われて、
胸の奥がきゅっと鳴った。
◇ ◇ ◇
夜の鐘が鳴る。
広場には無数の人々が集まり、
小さな炎が一つ、また一つと灯っていく。
ランタンの灯りが、星空のように瞬き始める。
「綺麗……」
「はい。けれど、聖女さまの方が――」
「はい、そのセリフ禁止。」
「す、すみませんっ!」
彼は耳まで赤くなって視線を逸らした。
そんな彼を見るのが、ちょっと楽しくて。
◇ ◇ ◇
「では、こちらを。」
ユウヒが小さな紙ランタンを差し出した。
金の縁取りに、“二人の名前”が書かれている。
「……これ、まさか。」
「“ペアランタン”です。」
「……ペアって、私と?」
「はい。主祭官が、“心を通わせた者同士”で飛ばすと願いが届きやすいと。」
(……心、通ってる……?)
私の手に、ランタンの端が重なる。
指先が少し触れて、鼓動が跳ねた。
「願いごと、決まりましたか?」
「うん。」
「僕も、ひとつだけあります。」
夜空を仰ぐ。
無数の光が舞い上がり、
遠くの星と混ざっていく。
「せーの、で行きましょう。」
「うん。」
「せーの――」
二人で手を離す。
ふわり、と灯が浮かび上がった。
夜風に乗って、空高く、ふたつの光が寄り添いながら昇っていく。
「……願い、届くかな。」
「ええ、きっと。」
「何を願ったの?」
「それは……」
ユウヒが少し迷って、微笑んだ。
「“あなたが笑って過ごせますように”。」
胸が、静かに揺れた。
「……それ、ずるい。」
「え?」
「私も同じこと願ったの。」
視線が重なる。
灯りの光が彼の瞳に映って、
世界が少しだけ溶けて見えた。
風がそっと吹く。
彼の髪が揺れて、
その距離が、あと少しで――触れそうになる。
「……聖女さま!」
「わっ、びっくりした!」
護衛の声で現実に戻る。
あぶない、あと数センチで“奇跡”が起きるところだった。
◇ ◇ ◇
帰り道。
祭りの余韻がまだ空気に残っていた。
ふたりで並んで歩く夜道。
「……今日は、ありがとう。」
「いいえ。僕のほうこそ、夢のようでした。」
「うん。なんか、君といると“夢”と“現実”の境目が曖昧になるね。」
「それは……いい意味でしょうか?」
「もちろん。」
そして、ふと口からこぼれた。
「来年も、君と見たいな。あの光。」
ユウヒは、立ち止まって目を見開いた。
すぐに、ゆっくり笑って――。
「必ず、また一緒に。」
その言葉が、
夜空に残るランタンの光よりも温かく感じた。
次回予告
第15話 「聖女、嫉妬する(信徒は見た!)」
――お楽しみに!




