第13話 聖女、お昼寝中に“添い寝事故”発生!?
昼下がり。
やわらかな風がカーテンを揺らし、ベッドの上に光の粒が踊っていた。
風邪はすっかり治った。
むしろ、看病されすぎて心が風邪をひきそうだった。
(……昨日の“おでこタッチ”。あれ、反則でしょ。)
頬がほんのり熱くなる。
どうにか平静を装いながら、私はベッドにごろんと横になる。
「……寝て誤魔化そ。」
聖女らしい思考ではないけど、私らしいとは思う。
◇ ◇ ◇
しばらくして。
どこかで扉の音がした。
「聖女さま? お昼寝中でしょうか……。」
ユウヒの声。
でも、私はもうほとんど夢の世界。
(あー……返事めんどくさい……寝よ。)
彼はそっと部屋に入ってきた。
机の上の薬草や水差しを片づけ、静かに毛布を直す。
そのとき――。
私の手が、毛布の端をぎゅっと掴んだ。
「……あ。」
寝ぼけて、彼の指を一緒に握ってしまったのだ。
「……聖女さま?」
返事はない。
ただ、寝息がゆるやかに響いている。
(……かわいい。)
気づけば、彼の頬が少し赤くなっていた。
「……少しだけ、そばに。」
椅子に座るつもりだった彼は、
なぜかそのままベッドの端に腰を下ろした。
そして――
彼女の手を握ったまま、ゆっくりと目を閉じる。
◇ ◇ ◇
夢の中。
私は、ぬくもりを感じていた。
それは布団でも枕でもない。
もっと柔らかくて、穏やかで、心の奥をくすぐるような温度。
「……ん。」
無意識のまま、私はそのぬくもりに寄り添った。
自然と体が近づいて、
彼の肩に、額が触れた。
そして――彼の鼓動が聞こえた。
早くて、でも不思議と心地よいリズム。
(……ユウヒくん、かな。)
寝言みたいに呟いた声に、ユウヒの肩がびくりと揺れる。
「……聖女、さま?」
「……すき。」
小さく、でもはっきりと聞こえた。
ユウヒの時間が、止まった。
顔が真っ赤になって、息もできない。
「そ、そんな……寝言……ですよね……!?」
返事は、ない。
彼女はすやすやと寝息を立てたまま、彼の袖を掴んで離さない。
(……もう、心臓がもちません。)
けれどそのまま、ユウヒも力を抜いた。
ふたりの呼吸が、同じテンポになる。
昼下がりの光が、柔らかく二人を包み込んでいた。
◇ ◇ ◇
夕方。
目を覚ますと、目の前にユウヒの顔があった。
「……!?」
「っ! せ、聖女さま!? お目覚めに!?」
私の腕の中に、彼の手。
距離、近い。というか密着してる。
「な、なにこれ!?」
「そ、添い寝……じゃなくて、誤解です! 僕はただ、寝てしまって……!」
「わ、私も知らないうちに……!」
二人して真っ赤。
言葉を探すけど、何も出てこない。
そして――。
「……でも、なんか、落ち着くね。」
「……え?」
「君がそばにいると、変に安心する。」
それは本音だった。
ユウヒの瞳が驚いて、次の瞬間やさしく緩む。
「……僕もです。」
沈黙。
でも、あたたかい沈黙だった。
◇ ◇ ◇
その夜。
廊下では護衛たちがこんな噂をしていた。
「今日の聖堂、光が差してたな。」
「昼寝の奇跡らしいぞ。聖女さまが神官と一緒に眠ったとか。」
「……それ、もう奇跡じゃなくて禁断だろ。」
――たぶん、神も笑ってる。
次回予告
第14話 「聖女、王都の夜祭りで“ペアランタン”」
――お楽しみに!




