第12話 聖女、風邪をひく(おでこタッチ注意報)
朝。
目を覚ました瞬間、頭がずしんと重かった。
喉が痛い。鼻もつまってる。
(……あ、これ完全にやったやつ。)
「へくしっ!」
布団の中から小さくくしゃみ。
すると――
「聖女さま!?」
ドアが勢いよく開き、ユウヒが飛び込んできた。
寝癖も直ってないのに、顔はいつもより必死だ。
「ど、どうされました!?」
「風邪、っぽい。」
「ぽい!? 熱は!? 痛みは!?」
「だるい。あと寒い。あと寝たい。」
「それはいつもです!」
◇ ◇ ◇
「お体を拭かせていただきます!」
「いや、セルフでやる。」
「聖女さまは安静に!」
「私、風邪ひくたびにこんな大事になるの?」
「初風邪なので全力対応です!」
(……過保護すぎる。いや、ちょっと嬉しいけど。)
タオルを温め、お湯を運び、毛布を増やす。
ユウヒの動きに無駄がない。
でも、手つきがやけに優しくて、逆に心拍数が上がる。
「……そんなに心配しなくていいよ。すぐ治るから。」
「だめです。聖女さまの喉が枯れたら、世界の癒しが止まります。」
「喉ってそんな重要パーツだったの?」
◇ ◇ ◇
「体温を測りますね。」
「はいはい。」
彼が差し出したのは――体温計、ではなく手。
「……それ、どうやって使うの?」
「神官式の体温測定法です。」
「怪しい響きしかしないんだけど。」
彼は真剣な表情で言った。
「おでこ、失礼します。」
その瞬間。
額と額が、そっと触れた。
距離が、近い。
息が混ざる。
ユウヒの瞳が、思ったよりも深くて、真っ直ぐで。
「……熱いです。」
「……どっちが?」
「え?」
「私か、君か。」
ユウヒがびくっと顔を離した。
「ぼ、僕は平熱ですっ!」
「じゃあ私のせいかぁ……」
毛布に潜りながら、私は小さく笑った。
胸のあたりがぽかぽかして、風邪のせいじゃない気がした。
◇ ◇ ◇
数時間後。
寝たり起きたりを繰り返していると、枕元から小さな音がした。
「……聖女さま、寝ていますか?」
ユウヒの声。
薄目を開けると、彼がベッドの傍らに座り、
静かに祈りの言葉を口にしていた。
「この方の痛みが去り、安らかな眠りが訪れますように……」
手を組んで祈る姿が、あまりに真っすぐで、胸がぎゅっとした。
その手を、思わず掴んでしまう。
「……ユウヒくん。」
「っ!? 起きてらしたんですか!」
「今の……効いた気がする。」
「え?」
「心臓が、あったかくなった。」
一瞬、沈黙。
次の瞬間、ユウヒの頬が赤く染まった。
「そ、それは……熱が移ったのかもしれません!」
「ううん、これは別の熱。」
「……別の……?」
「たぶん、“恋”ってやつ。」
「っっ!?」
ユウヒが慌てて立ち上がる。
「ね、寝てくださいっ!」
「うん、寝る。夢の中でも君に看病されたいな。」
「それはもう熱の幻です!」
そう言いながらも、彼の手は最後まで私の手を離さなかった。
◇ ◇ ◇
夜。
熱は下がっていた。
けれど、胸の中の温かさは残っていた。
「……風邪、悪くなかったな。」
そう呟いて、私は再び目を閉じた。
――夢の中で、また額が触れた気がした。
今度は、ちゃんと“恋の熱”として。
次回予告
第13話 「聖女、お昼寝中に“添い寝事故”発生!?」
――お楽しみに!




