表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/51

第11話 聖女、夜の聖堂で“お祈りごっこ”

夜。


王都の喧騒が遠くで静まっていく。

聖堂の奥、キャンドルが揺れる回廊を、私はスリッパのまま歩いていた。


「……寝れない。」


ふかふかのベッドなのに、なぜか目が冴えてしまったのだ。

昼寝しすぎたせいかもしれない。いや、きっとそうだ。


そんなとき――。


「聖女さま?」


振り向くと、そこにいたのはユウヒ。

手に灯りを持ち、驚いたように目を瞬かせていた。


「どうされたんですか、こんな時間に。」

「うーん、寝れないだけ。」

「……お祈りでもしてみますか?」


「お祈り?」

「眠れない夜には、神に心を委ねるのです。」

「いや、神様たぶん寝てると思うけど。」

「い、いえ! 神は常に見守っておられます!」


「……じゃあ、付き合ってよ。」

「えっ」


ユウヒの耳まで真っ赤になった。


◇ ◇ ◇


聖堂の中央。

祭壇の前に並んで座る。

夜風がステンドグラスを通り、淡い光が差し込む。


「まずは、両手を合わせて……」

ユウヒが静かに言う。

私は真似をして、目を閉じた。


(……両手を合わせて、ね。)


でも、指先が冷たくて、なんだか落ち着かない。


すると――。


ユウヒの手が、そっと私の手の上に重なった。


「……冷たいです。少し、失礼します。」


そのまま包み込むように、両手を重ねて温めてくれる。

神聖な静けさの中で、手のひらから心臓にまで、熱が伝わってくる。


「ユウヒくん……あったかいね。」

「聖女さまの手が小さいだけですよ。」

「……うまいこと言って照れ隠ししないの。」

「し、してません!」


思わず笑ってしまう。

その笑い声が、夜の聖堂に小さく響いた。


◇ ◇ ◇


「……お祈りって、何を祈るの?」

「人の幸せ、世界の平穏、そして――」

彼は少し言葉を詰まらせ、私を見た。

「あなたの安らぎを。」


心臓が、一拍跳ねた。


「……私の?」

「はい。聖女さまが安らげば、世界が安らぐ。

 だから、あなたが笑っていることが、いちばん大切なんです。」


その言葉は、まるで魔法のようだった。

胸の奥がじんわりと熱くなる。

思わず、彼の指を少し強く握り返した。


「……ユウヒくん。」

「はい。」

「そうやって言われると、寝れなくなるんだけど。」

「えっ……!?」

「ドキドキして。」


ユウヒの顔が一瞬で真っ赤になる。

耳まで染まって、言葉が詰まっていた。


「そ、そんなつもりでは……っ」

「うん、知ってる。でも、うれしいよ。」


彼は何も言えず、ただ微笑んだ。

蝋燭の灯が揺れて、その笑顔をやさしく照らした。


◇ ◇ ◇


祈りのあと、ふたりで並んで外の夜空を見上げた。

星が瞬いて、空は深い青に沈んでいる。


「綺麗だね。」

「はい。まるで聖女さまの――」

「顔って言ったら殴るよ?」

「……微笑み、です。」

「正解。」


二人の笑い声が重なる。

静かな夜に溶けるように響いて、

いつの間にか眠気が、また少しだけ戻ってきた。


「……そろそろ寝ようか。」

「はい。おやすみなさい、聖女さま。」

「うん。おやすみ、ユウヒくん。」


そして、彼の手を離さないまま、

私はそのまま、彼の肩に頭を預けた。


「……!?」

「いいでしょ、ちょっとだけ。」

「……はい。」


肩に伝わる鼓動が、静かな子守歌みたいに響いた。

夜の聖堂に、ふたりだけの祈りがそっと灯る。


――その夜、聖女の夢は、なぜかやさしい光に包まれていた。


次回予告


第12話 「聖女、風邪をひく(おでこタッチ注意報)」

――お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ