ころんちゃんとビール
コロンさま主催の「アフォの祭典」参加作品です。
よろしくお願いします。
ボクは高校時代からつきあっているころんちゃんをデートに誘った。
場所はビアガーデン。
ころんちゃんは不機嫌。
なぜならころんちゃんはビールがあまり好きじゃないからだ。
「わたし、ビール苦手なのに、なんでこんなところに連れてくるの?」
ほっぺを膨らませて、ちょっとアフォ顔のころんちゃん。
それがまた可愛い。
ボクたちは今年で大学3年生。
つまりお互い21歳になるんだけど、まだ手をつないだことしかないんだ……。
このビアガーデンはドイツビールの祭典。
いわゆるオクトーバーフェストってやつだけど、日本ではなぜか何月でもこの「オクトーバーフェスト」をやっている。
まぁ、細かいことは気にしない。本場だって9月半ばからだし。
ボクは大ファンであるドイツのサッカーチームのFCバイエルン・ミュンヘン。
そのスポンサーの一つであるパウラーナーをマースで頼んだ。
マース(Maß)っていうのは1リットルのジョッキのこと。
「うわっ、すごいでかっ! これ全部飲めるの?」
「ダメだったら、ころんちゃんに手伝ってもらおうかな?」
「無理! わたし、こんなの飲めない!」
またもアフォ顔になるころんちゃん。
ボクはジョッキを片手にごくごく飲み始めた。
「ジュースとかグラスワインとか売ってるところもあるんだよね。わたしはそっちにするからね。えっと、クリームソーダあるかな……?」
「いや、ころんちゃんにおすすめのビールがあるんだ」
「だから、わたしはビールが苦手だって……」
ジョッキを片手に、もう片方の手をころんちゃんとつないだボクは、たくさんの人々の中をすり抜けて、あるビールを売っている店舗にたどり着いた。
「これ、ケルシュ。ビールが苦手でもたぶん大丈夫だよ」
購入した細長い小さなグラスに入った黄金色のケルシュを、ボクはころんちゃんに渡す。
「飲んでごらん」
「う、うん……。ゴクゴク」
ころんちゃんが手に持つグラスは、あっという間に半分以上なくなった。
「あれ? これすごい飲みやすい。苦みもあまりないし、すっきりしている」
「ケルシュ(Kölsch)ってケルン(Köln)のビールなんだ」
「へ~、外国のビールって味が濃くて苦いのばかりだと思ってた」
ここでボクはころんちゃんにケルシュを勧めた意味を教えてあげる。
「ケルンって英語だと何て言うと思う?」
「えっ、ケルンは英語でもケルンでしょ?」
「スマホの翻訳アプリでドイツ語選択して"Köln"と入力して、それを英語翻訳に選択してみて」
ころんちゃんはスマホを操作する。
すでにケルシュは空だ。
「"Cologne"って出て来たんだけど」
「英語のほうの音声を出してみて」
ころんちゃんは音声ボタンをタッチする。
「コロォン」
ポカーンとアフォ顔のころんちゃん。
「えっ、これって?」
「英語だとケルンはコロンなんだ。ケルシュもう全部飲んじゃったの。じゃあ、ボクのビールを飲むのを手伝ってくれない?」
「うん!」
ボクはころんちゃんに半分ほどなくなった1リットルジョッキを渡す。
重いので持ち手を右手でつかみ左手をジョッキに添えて飲むころんちゃん。
「あばばば、これはダメ。やっぱりわたしケルシュのほうがいい!」
つき返されたジョッキをボクはごくごく飲む。
それを見ていたころんちゃんがボクに微笑みながら言う。
「うふふ、間接キスだね!」
「えぇっ!」
ボクはジョッキを落としそうになり、ビールを拭き出しそうになるのをこらえる。
ころんちゃんは愛らしいアフォ顔で続ける。
「ねぇ、このまま本当にちゅーする?」
ボクは顔が真っ赤になり、頭がくらくらしてきた。これはビールで酔った訳ではない。
こうしてボクたちの関係は少し進んだ。
初めてのキスはビールの味がしていた。
おしまい
なんか「酒祭り」みたいな話になっちゃいました。
この場合の「コロン」とは「オー・デ・コロン(Eau de Cologne、ケルンの水)」のやつですね。
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