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3話 夕暮れの宣告

 夕暮れに染まる頃、レナーラは自室へ向かう為に城の中を鼻歌交じりに歩いていた。


明日はどんな話をしようか。どんな顔を見せてくれるだろうと、幸せな妄想に浸りながら歩いていたが、それは唐突に終わりを告げた。


「おや、これはこれはレナーラ皇女殿下。ご機嫌麗しゅう」

「…………チッ」


 レナーラは声を聞いた瞬間に顔を顰め、不機嫌さを隠そうともせず舌打ちをしながら振り返った。


「ああ、まだ生きてたの?あなた。とっくにお父様を庇って死んだと思ってたんだけど。ていうか今すぐ死んで」

「アッハハハ、相変わらずお厳しい。貴女の言葉はさながら綺麗な薔薇の棘の様だ」

「…ほっんとムカつくわねあなた」


 レナーラの真っ直ぐな死んでくれ発言を微風の様に受け流すのは國名騎士トリスタン。トリスタン帝國最強の騎士である。


「はぁ、それでなんの用?あなたと会話なんてなるべくしたくないから手短に済ませてちょうだい」

「そう時間は取りませんよ。あの死刑囚についての話です」

「クライムの?」


 まさか今更会いに行くのはやめろなんて言わないでしょうね?とレナーラは訝しんだが、トリスタンは驚きの話を喋った。


「あの死刑囚の刑の執行日が決定しました。明後日の正午に執り行います」

「そんなっ!あり得ないわ!!」


 レナーラは大声を出して否定し、トリスタンはそんな彼女を心底不思議そうな目で見ながら疑問を投げた。


「有り得ないとは異な事を、あの者は死刑囚。ならばいつかは死刑を執行されるのは当然では?」

「っ……でもっ、お父様が許す筈がないわ」

「貴女が彼に執着しているから?だとしたらあり得ません。忘れたのですか?あなた方の関係は誰からも、皇帝陛下からも認められてはいません。今まで許されていたのはひとえに貴女のワガママ。子供のワガママはいつかは咎められる定めなのですよ」


 レナーラに近づきながら、トリスタンはまるで子供に諭す様に語り掛ける。

 

「これを機に、皇族としての自覚を持ったあり方を心掛けてください。――皇女殿下」


 レナーラの肩に手を乗せ、耳元で囁く様に喋りかけた後、トリスタンは去っていった。

 しかしレナーラはそんな事には目もくれず、ブツブツと声を出しながら歩き出した。


「クライムが……死刑?……明後日………クライムが……居なくなる……?」


 フラフラと歩いていくレナーラの後ろ姿をトリスタンは少し離れた場所から眺めていた。

 すると、後ろから初老の執事から声をかけられた。


「どうでしたか?姫様は」

「アレはもう駄目だろうねぇ。本当に死んだら人形にでもなるんじゃないかな」

「……では」

「ああ、決行は明日の夕方。予定通り行こう」

「承知しました。同志にも伝えておきます」


 言い終えると執事は踵を返し、歩いて行った。

 

「ありがとね。…………しかし彼女にも困った物だ。僕という者が居ながら他の男に現を抜かすなんて」


 ――ほんと


「僕という夫がいながらさぁ?ウフフフフ」


 後ろから響いてくる笑い声を、執事は聞こえないふりをした。

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