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第十五話「灰色の種族」

 ジニアは、発着場での手続きの間、ジオに聞いてみた。

「地上の写真は撮らないの?」

「撮るよ。地上での題材は、風景写真が多いな」と、ジオは答えた。「だけど、地上の写真は、地上以外に持って行く所が無い。フィルムや現像した写真を、地球外に持ち出しちゃならないんだ」

「ああ、それで……」と、ジニアは納得した。

 今まで、地上の様子を書いた雑誌や新聞記事は、全て手描きの挿絵が使われていたからだ。地上には優秀なイラストレータが居るから、写真と言う文明が嫌われているんだろうと思っていた。

 その予想に沿うように、ジオは言う。

「地球には、写真みたいな絵を描く人間もいるからな。その希少価値を消さないためもあるんだろう」

 ジニアはちょっと安心して、「やっぱり」と呟いた。

 ジオが何か聞きたそうにジニアのほうを見たので、「いや、そのすごい絵に、最近お目にかかったばっかりなんだ」と述べた。「アニタ・フェイボックって言う画家の絵なんだけど」

「ああ。アニタか。彼女の絵のファンは多いぞ」と、ジオは嬉しそうに言う。それから、「コロニーでも展覧会が?」と聞いた。

 ジニアは答える。

「ああ。吸い込まれそうな絵って言うのに、初めて出会った」

 その言葉に、ジオは気分を良くしたらしく、ハハッと軽く笑った。


 荷物を受け取り、リストバンドをタッチして検査機をパスし、発着場の出入り口に向かう。

「それじゃ、新顔。地上を楽しんで」と、ジオは言葉を残してくれた。

「勿論! ありがとな」と、意気込んでジニアは応えた。


 発着場には、地上のプラントの職員が迎えに来てくれていた。

「メアリー・シープ社の従業員はこちらへ」と書かれた、大きな板を持ち、腕にプラントのオフィシャルマークを描いた緑色の腕章をつけている。

 ジニアの他にも、数名の「新顔」達が、そっちに向かって荷物を押していた。

 ジニアも、生活用品が詰まっている大型トランクケースを押しながら、地上プラントの職員らしい人物の所に、歩を進める。

 腕章をつけた職員は、集まってきた人数を数えて、「十五名……。はい、ぴったりですね」と独り言ちた。それから、説明を始める。

「これから、車で地上プラントに向かいます。道中、仕事の説明をさせていただきますので、聞き逃さ無いよう気を付けて下さい」

「はい!」と、地上プラントの新人従業員達は、それまでの規律通り、声を揃えて返事をした。


 移動の道中は、決して快適ではなかった。マイクロバスの窓は黒い布で締め切られ、窓硝子はわずかに開いているようだが、入ってくる空気は埃っぽい。

 惑星って言う物はコロニーより巨大だから、管理が難しいんだろう。

 ジニアは、手術後でも、外出時はマスクが必要そうだと心得た。

 メアリー・シープ社の案内係が、仕事の説明を始める。

「これから、皆さんの働いていただく、地上での規律をお伝えします」

 その話によると、交通ルールや人権的な問題などは、コロニーと然程変わらないが、ある特別な二つ規律を、絶対に守ってほしいとの事だ。

「一つ目の規律は、この星を管理する『大種族』に関してです。

 人間の姿をしていない者に対しても、決して侮るそぶりをしてはいけません。特に、灰色の体を持った、人間とは全く形状の異なる存在を見つけたら、むしろ、彼等を敬わなければなりません。

 彼等は、現在の地上を管理している大種族で、人間は彼等の管理の下に置かれる、小種族です。

 地上では、私達人間は、星を占める生命のごく一部であり、大種族である彼等の保護のもとに生きています。

 その関係を崩さない事を、まず守っていただきたい。

 二つ目の規律は、大種族が地球を管理している事を、地上以外の外部に知らせてはいけません。特に、宇宙コロニーの内部に、大種族の情報を持って行ったり、口頭で、その存在を伝えてはいけません。

 それは大種族の権限を守るための措置であり、コロニーに隔離された『人間』達が、見た事の無い大種族に対して、恐怖感を抱かないための措置でもあります。

 大種族は『人間』に対して非常に寛容で、日常の中で、攻撃してくると言う事は、決してありません。彼等の姿を見た時、『違和感』を感じるかもしれませんが、怯えないで下さい。

 もし、人間が彼等を攻撃すれば、それは傷害事件や殺傷事件として扱われ、重罪に問われます」

 二つの規律に対しての説明は其処で終わり、後は、夫々の名前を呼ばれて、個人がどのような仕事に就く事になるのかを、細かく言い渡された。


 次の日。ジニアは地上の冷凍車に乗る事になった。ナビに従って運転し、各地のプラントと小売店を行き来するのだ。通るルートは予め決められている。

 何時、「大種族」と出会うのか、内心ドキドキしていたが、小売店に出入りする時に会うのも人間だし、道中にちらほら見かけるのも人間だけだ。

 店の裏で、冷凍車から、細かく切られた肉塊を下ろしている時、「チェスト、百五十キロ。ボンレスシン、二百二十キロ」と言う言葉を聞いた。

 確かに、その時に渡した肉の伝票を見ると、「胸肉、百五十五キロ。骨なしすね肉、百二十キロ」で間違いない。

 ふーん。地上では、動物の肉も人間の体の部位みたいに呼ぶんだな。

 ジニアはそう思って、係員から受け渡しのサインをもらい、冷凍車に引き上げた。


 決められたルートを運転している間に、あちこち見回して「人間以外の大種族」が居ないかを確認して居たが、どうにも、既定のルートには人間しか住んでいないらしい。

 人間を保護している、大いなる種族に関して、好奇心がない事はない。

 知らないほうが、言わないで済む事が増えると思いもしたが、日常で突然出会って「びっくり」してしまうよりは、前もって知っておきたい気がした。


 そんなジニアの好奇心を、「神様」とやらは知っていたようだ。

 プラントに帰る手前の道で、車同士のぶつかる事故があった。

 衝突時に派手に回転して、砕けた破片を散らした両者の車は、二つ並んでいた行き来の道を、完全に塞いでしまった。

 ジニアが、プラントに連絡を入れると、「特例として迂回路を選ぶ事を許可する」と言われた。

 迂回路を選ぶ事すら特例になるのか……と、心の中で唱えながら、ジニアはナビで指示された迂回路に入った。

 その途端、町の様相は様変わりした。

 コロニーの下道に似た町の中の、至る所に、人間より大柄な灰色の生物がいる。頭部は大きく、巨大な複眼を持ち、口元は逆さにした三角形状になっている。

 上半身は短く、折り畳んだ腕と羽を備え、ウエストは締まっている。その後ろに、柔らかそうな腹があった。肢はウエスト部分から生えており、その数は四本。

 その腕は、のこぎりのようなエッジと、先端に鋭い指を備えていた。

 まるで巨大な昆虫だ。しかし、宇宙コロニー育ちのジニアは、本以外で虫を見た事が無い。

「停まれ」信号に従って車を停車させると、比較的小柄な灰色の生物が、群れを成して横断歩道を渡る。

 エッジのある腕を振り回したり、ジニアの知らない何等かの言語を喋っている。どうやら、子供達がふざけ合いながら、家に帰っている途中のようだった。


 不思議な物を見た、と、ジニアはプラントに帰るまで、「大種族」の姿を思い出していた。

 駐車場に冷凍車を停めると、プラントの職員が近づいてきた。

 個室に通されたジニアは、「『大種族』を目撃しただろうが、その感想は?」と問われた。

「不思議な生き……いや、存在だなと思いました」と、ジニアは答えた。「今まで見た事の無い姿をしていたけど、何となく、図鑑で見た『昆虫』に似てるなって……」

「そうですか」と、職員は返事をし、問う。「彼等に対して、恐怖は抱きましたか?」

「特別、何も感じませんでした」と、ジニアは正直に答えた。


 地上プラントの寮に帰り、ジニアはまだ使い慣れていない「地上式」の調理道具を使って、魚を焼いていた。写真付きの料理の本を傍らに、魚肉の塊に小麦粉をつけて、フライパンと言う物に油を敷き、揚げ焼きにする。

 あんな所、人間の住む場所じゃない……そう言っていた、マッシュの言葉を思い出した。

 ジニアは少し考え、「マッシュは、大種族に対して、嫌悪感を持ったりしたのかな。それで、地上に反感が出来たとか?」と発想した。

 地上で財を築こうとしていたマッシュにとっては、人間が「大種族」に保護されて生活をする「小種族」である事も、受け入れられなかったかもしれない。

 だけど、そのくらいでガリガリに痩せるほど病むものかなぁ?

 ジニアは、マッシュは意外と繊細な奴だったのかもしれない、と、納得しておいた。

 何より、今は、「料理された魚の切り身」を認識して、胃袋が鳴っている。

 昼間に、プラントの食堂で「ハンバーグサンドウィッチ」を食べたが、油がコッテリしていて、腹にガツンと来る味わいだった。

 有機物自体は、宇宙船時代に「チューブ入り食料」で食べた事があったが、「料理の形をしている有機物」は、生まれて初めて食べた。

 料理と言う物体に、「見た目」があるのを知ったのも、昼間のハンバーグサンドウィッチが初めての体験だった。

 サンドウィッチに食らいついた時、ジニアは「ステーキ味」のチップスの味がすると、感想を持った。

 先にどっちを知っているかが逆で、「ステーキ味」のチップスが、本物の肉の味をそっくりに真似できていた、と言う事なのだろう。

 何だか、俺達って複雑な人生の順路を辿っているんだなぁと、ジニアは思う。

 程よく火の通った魚の切り身を皿に乗せ、買って来た林檎を一個、シンクで洗う。

 表面の農薬がしっかり洗い流せたと思ったら、水を切って、そのまま齧りついた。

 溢れ出る果汁が甘く、脳が痺れるほど美味い。

 どうやら、チップスの「果実味」は、唯甘くて酸っぱいだけで、果実の細かい味を再現できてはいないようだ。

 林檎を齧りながら、魚の皿を持ってテーブルの前に移動する。その途中、ジニアは林檎と言う物体に、「芯」がある事を知ったのだった。

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