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招待状

 ――王宮・王の間。

 バルコニーから王都を見下ろすエイラム王の元に、凱旋したアーガス王太子が姿を見せた。


「戻ったか」

「はい、父上。ウィルギスとは無事条約を締結しました。半年もすれば、人流も以前のように戻るかと」


「うむ、よくやった。これでしばらくは血を流さずに済むだろう……お前を誇りに思うぞ、アーガス」

「はっ、ありがとうございます」


 アーガスは姿勢を正して頭を下げた。

 そして、何度か目線を泳がせた後、ゆっくりと口を開く。


「ところで、父上……やっと、気になる女性を見つけました」

「ほぅ、それはめでたい! 心配しておったが、お前もやっとその気になったか……で、相手は?」


 思いがけない言葉にエイラムが顔を(ほころ)ばせる。


「はい、ウィンローザ家の若き女侯爵をご存じでしょうか?」


 エイラムの顔が一瞬曇る。だが、すぐに笑顔に戻り、

「おお、ウィンローザ卿か、噂は聞いておる」と何事も無く返した。

「彼女を凱旋パーティーに招待しようと思うのですが……いかがでしょう?」


「……うむ、主役はお前だ、好きにしなさい」

「ありがとうございます。では、私はこれで――」


 アーガスは胸に手を当て、会釈をすると王の間を後にした。




    §




「あ~、やっとゴロゴロできる~……」


 背伸びしながらソファに寝っ転がっていると、開け放っていた扉をノックする音が聞こえた。


「リリィ、そんな格好していると、またアルフレッドに叱られるよ?」

 顔を見せたのはロイドだ。


「大丈夫、今は居ないから、へへへ……」


 横になったまま、顔だけ向けて答えると、

「誰が居ないのです?」と、いつの間にかアルフレッドが仁王立ちで私を見下ろしていた。


 慌てて飛び起きて洋服の乱れをなおす。


「もう、ア、アルフレッドはいつも気配なさすぎなんだってば!」


 アルフレッドは「そうですか」とそっけなく答え、

「それよりも、こんなものが届きました」と、指に挟んだ封筒を見せた。


 私は起き上がってそれを受け取った。


「何これ……?」

「ふぅん、招待状だね、しかも王室からの……」


 扉に凭れていたロイドが私の手元を覗き込んだ。


「え……王室?」

「早速、釣れたようで何よりです。上位貴族に話を伺う良い機会となるでしょう」

「釣れたって……誰が?」


「アーガス王子以外に誰がいると言うのです?」

 アルフレッドはさも当然のように答えた。


「えっ⁉ でも、印象最悪だったと思うんだけど……」

「あの御方は、昔から少し変わった方に興味を惹かれるようですね」

「ちょっとそれ、どういう意味?」


「まぁまぁ、リリィが普通じゃないくらい可愛いってことだよ」

 満面の笑みを浮かべたロイドが、恥ずかしげも無く言いのけた。


「なっ……⁉」

「なんとまぁ……」


「え? だって、そうでしょ?」

 きょとんとした顔で、ロイドは私とアルフレッドを交互に見た。


「もう、その辺で結構です――、リリィ様、招待状を開けてみていただけますか?」と、アルフレッドが話を戻す。

「うん」


 封筒を開けて中を見ると、ロイドの言うとおり王室からの招待状だった。


「凱旋パーティー……だって」

「あー、そういや条約が締結したんだよね?」

「となると、かなり上位の面子が期待できますが……リリィ様?」


 王室のパーティーか……。

 面倒くさそうだけど、アルフレッドの言うようにこれはチャンスだわ。

 上位貴族の面々なら、社交界の内情や過去のスキャンダルについても詳しいはず……。


「行くわ、ヴィリアについて何かわかるかも知れない」

「――では、手配いたします」


「じゃあ、僕も予算組まなきゃね」

「予算?」


「そうだよ? ドレスやら宝石やら、パーティーにはお金が掛かるんだから」

「そ、そっか……」

「大丈夫、僕に任せておいてよ」


 ロイドは片目を瞑って、ニッと口角を上げた。

 不覚にも一瞬、可愛いと思ってしまった……。


 これが三十路の男だなんて、世の中間違ってる。

 部屋を出ていくロイドの後ろ姿を見ながら、私は小さく頭を振った。



    §



「ほんとに大丈夫なのかなぁ……」


 私は厨房のカウンターに座り、頬杖をつきながら短く息を吐いた。

 ジョンが器用にジャガイモの皮を剥きながら尋ねてくる。


「どうした? さっきからため息ばっかついて」

「うん……王室のパーティーに出席するんだけど……お金大丈夫なのかなぁって」

「はっはっは、何だ、そんな心配してたのか?」

「だって、この家にお金があるってのはわかってるけど……それがどのくらいなのかって私にはわかんないし」


「ふぅん……そっか、まぁ、金のことは俺も知らんが、ロイドがいりゃ大丈夫だろ」

 あっけらかんと笑うジョン。


「でも、心配じゃない? その、無理とかしてないのかなぁって……」

「聞いてみりゃいいじゃねぇか」

「それは……」


「――ご安心を」


「ひっ⁉」


 突然、後ろから声がする。

 ビクッと肩を震わせ、振り返るとアルフレッドが私を見下ろしていた。


「も、もう……アルフレッドは鈴とか付けといてよ……」

「余計な心配をするよりも、このデータに目を通しておいてください」


 そう言って、アルフレッドは書類の入った封筒をカウンターに置いた。


「これは……」

「参加する貴族の中で、影響力のある者のデータを集めました。今回はウィルギスからの参加も想定して調べてあります、必ず頭に入れておくようにしてください」

「わ、わかったわ……」


 アルフレッドは小さく頷くと、足早に厨房を去って行った。


「ジジイも忙しそうだな」

「うん……」

「そんな顔すんなよ、ロイドなら心配ねぇさ」

「うん、そうだよね……今は自分にできることやってみる、じゃあ、ありがとね」

「おぅ、がんばれ」


 私はジョンに手を振って厨房を後にした。

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