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ウィンローザ家の使用人  作者: 雉子鳥幸太郎


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11/12

かつて賢者と呼ばれた男

『あ、あれは……ロイド・ヴァレンタインか⁉』

『まさか、そんなはずは……』

『賢者がなぜここに……』


 ロイドの名を聞いた貴族達がどよめき、場が騒然となった。


「ははは、これは参りましたね……」

 隣でリロイが額に手を当て、呆れたような声を漏らす。


「な、何かありまして?」

 恐る恐る訊ねると、リロイがため息交じりに答えた。


「ロイド・ヴァレンタインと言えば、大賢者ホトの再来とまで言われた現代の賢者ですよ? 数年前に、魔導学院から姿を消したと聞いていましたが、まさか使用人とは……。ウィンローザという家は一体、どうなっているのです……?」

「け、賢者⁉ あ、ええ……ま、まあ、博識というか、頼りになるというか……」


 嘘⁉ ロイドってそんなに凄い人だったの……?

 もう、アルフレッドもジョンもルーカスも、肝心なことは何も教えてくれないんだから!


「その様子だと、彼が何を持って来たのかも知らないようですね」

「うぐっ……」


 私が言葉に詰まっていると、ロイドが献上品の説明を始めた。


「本日、当家がお持ちしたものはこちらでございまーす」


 ロイドが掛けられた紫色の布を剥ぎ取ると、一冊の古びた本が置かれていた。

 それを見たプリシラが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「あら、本? 素敵ですわねぇ」

「ええ、本です」と、ロイドが短く答える。

「……ずいぶんと古そうだな」


 アーガスが呟くように言うと、陛下がロイドに訊ねた。


「ロイドとやら、それは一体どのような書物なのだ?」

「はい、エイラム陛下。これは写本です。現存するのはこの一冊のみかと」

「そうか、貴重な本のようだな。ウィンローザ家の献上品、しかと受け取った」

「おやおや、ホトの写本はお気に召しませんでしたか……」


 ロイドが残念そうに肩を落とす。


『ホ、ホトの写本だと⁉』

『ま、まさか……実在したとなれば大問題だぞ⁉』


 突然、一部の貴族達が騒ぎ始めた。

 その様子に、アーガスが戸惑うような表情を見せる。


「ロイド殿、その、申し訳ないがホトの写本というのは、どういったものなのか教えてくれないか?」

「ええ、勿論ですアーガス殿下。これは大賢者ホトが残した魔導書『隠秘淵叢(いんぴえんそう)』の写本です。生前ホトが発見した秘術や世の理、魔術論などが記された書物ですね」


「ふむ……しかし、そのような貴重なものをウィンローザ家は手放すというのか?」

 陛下が言うと、ロイドはあっけらんと答える。


「ええ、その通りです、陛下。ああ、それともうひとつ、当家から聖クリストフ金貨二〇〇〇枚を献上いたします」


 ――会場がざわめく。


『せ、聖クリストフ金貨……二〇〇〇だと……⁉』

『レイセオン金貨何枚分だ?』

『治水工事予算に匹敵するぞ⁉』


 ますます私に注目が集まっていくのがわかった。

(ちょ……何なのよ、そのクリストフ金貨って!)


「また随分と羽振りの良い……はは、何か裏があるかと勘違いしてしまいそうだな」


 陛下が冗談めかして言うと、

「ぜひ、王国の発展に役立てていただければと()()()も仰っています。まぁ、金は無くなればまた稼げば良いだけですから」と、ロイドが返す。

(ちょ⁉ 何を勝手に! そんなこと言ってないわよ!)


「ふはは! そうかそうか、ならば、ありがたく頂くとしよう」


 陛下の目が一瞬、私の方を向いたような気がした。


「ウィンローザ家の現当主はリリィと言ったな?」

「はい、陛下。リリィ・ウィンローザ侯爵でございます」


 ロイドが答えると、陛下は侍従に耳打ちをした。


 すぐに侍従が私の下へやって来て、

「どうぞ、こちらへ」と、陛下の前へ連れて行かれてしまった。


 全員の視線が私に集まる。

皆、好奇心に満ちた目を向けているが、その中でたった一人、プリシラ・スノウホロウ伯爵令嬢だけは、嫌悪感を隠そうともせずに私を睨んでいた。


「そなたがリリィか……」

「お初にお目にかかります、エイラム陛下。リリィ・ウィンローザにございます」


 膝を折り、礼をすると、陛下は目を細めて笑みを浮かべた。


「うむ、献上品、ありがたく受け取るとしよう――」


 そう静かに言ったあと、おもむろに立ち上がり、皆に向かって声をあげた。


「諸君! 永らく不在であったウィンローザ侯爵が戻った。聡明な賢者をも従える彼女ならば、王国のさらなる発展に尽力してくれるであろう。皆、若き女侯爵を讃えよ!」


 一斉に拍手が鳴り響く。

 見ると、リロイも満足そうに笑って手を叩いていた。


 私と目が合ったロイドが片目を瞑る。


 作戦的には成功なんだけど……もっと地味な方法はなかったのかしら。

 そう考えながら、私は丁寧に拍手に応えた。

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