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ウィンローザ家の使用人  作者: 雉子鳥幸太郎


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10/12

凱旋パーティー

 王宮の大広間には招かれた大勢の貴人で賑わっていた。

 名の通った上位貴族家や政財界の大物、軍部上層部からの参加者も目に付く。


(さすが凱旋パーティーともなると、尋常じゃない顔ぶれが集まるわね)


 私は集まった面々と、アルフレッドから渡されていた資料のデータを脳内で照合していく。

 重要度の高い相手を探して、会場内を歩いていると、私に注目が集まっているのに気付いた。


(まあ、デビュタントであれだけやれば仕方ないか……)


 と、そこに、鮮やかな緑色の髪をした男が声を掛けてきた。


「ウィンローザ侯爵でいらっしゃいますよね? 初めまして、私はリロイ・アイフォレストと申します」

「アイフォレスト……まぁ、御三家の、お初にお目に掛かります、リリィ・ウィンローザです」


 リロイは少し垂れ気味の優しげな目を向け、穏やかな笑みを浮かべている。


 うーん、これは夢中になる女性は多いだろうなと、どこか他人事のように考えていると、「ウィンローザ卿、どうかなされましたか?」と尋ねられる。


「あ、いえ、失礼しました。こういう盛大なパーティーは初めてなものでして……」

「またまた、デビュタントではあんなにも堂々とされていたではありませんか」

「いえ、あれは気負っていただけですから、ほほほ、お恥ずかしい限りです……あ、私のことはどうかリリィと」


 アイフォレスト家、アルフレッドの資料でも重要度は高い。

 彼はヴィリアについて、何か知っているのだろうか?


 いや、彼が知らずとも、アイフォレスト家の誰かが知っていても不思議ではない。

 近づきすぎるのは危険だけど……探りを入れるくらいなら大丈夫よね。


「では、お言葉に甘えてリリィ様とお呼びいたします、私の事はリロイとお呼びください」

「ありがとうございます、光栄ですわリロイ様」

 リロイは給仕からグラスを二つ受け取り、私に差し出した。


「ああ、どうもありがとうございます」と、笑顔で受け取り、

「……そういえばリロイ様は、当家の先代と面識はございましたか?」と尋ねる。

「何か気になることでも?」


 リロイの纏う空気が、僅かに変わった気がした。

 だが、警戒的な変化ではなく、話に興味をもったような変化だ。


「いえ、恥ずかしながら、先代のことをあまり知らずに育ったもので……何か、私の知らない先代の話が聞ければと……」

「なるほど、そうでしたか。ヴィリア卿は、未だ多くの人々に影響を与えていますからね。かく言う私も、幼い頃に一度目にしただけの姿を今も忘れることができません。あれほど凜々しく輝いていた女性は見たことがありませんでしたから……」


「まあ、昔の先代を見たことがあるのですね?」

「ええ、一度だけでしたが、この目で……」

 リロイは美しい翡翠色の瞳で真っ直ぐに私を見つめる。


「――⁉」

 恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまった。


「あ、そ、そうでしたか、それは羨ましいですわ、ほほ、ほほほ……」


 あー、びっくりしたぁ……。私、顔赤くなってないかな、大丈夫よね?

 その時、会場に一際壮大なファンファーレが鳴り響いた。


「お、どうやら、今日の主役のお出ましですね」


 リロイがグラスを向けた方向を見ると、開かれた扉からアーガス王太子がゆっくりと入ってきた。

 その後ろには、恐ろしげなゴルゴーンの紋章が入ったマントを靡かせながら、黒い軍服に身を包んだ幼さの残る銀髪の少年が付いてきている。


『皆様、アーガス・レイセオン王太子殿下、ランボルト・ウィルギス皇子のご到着です!』


 王宮執事の一声に、皆が礼を執った。

 アーガスはそのまま王座に座るエイラムの下へ行き、頭を下げる。


「陛下、ただいま戻りました」

「うむ、大義であった」


 エイラムはアーガスにねぎらいの言葉を投げると、隣で低頭していた少年に声を掛けた。


「面をあげよ」

「お目にかかれて光栄です、エイラム・レイセオン陛下。ウィルギス皇国第四皇子、ランボルト・ウィルギスです、以後、お見知りおきを――」


 エイラムを見つめる灰色の眼差しは、ぶれることなく自信に満ちあふれていた。

 無機質で中性的な顔立ちをしている。だが、クセの強いウェーブが掛かった髪が背中のゴルゴーンを思わせるせいか、なんとも言えない迫力があった。


 とても敗戦国の皇子だとは思えぬ堂々とした立ち振る舞いを気に入ったのか、エイラムは嬉しそうに目を細めている。


「おぉ、ランボルト皇子、よくぞ来てくださった、我らの間にはもう壁は無い、心ゆくまで楽しんでいかれよ」

「ありがたきお言葉」


 ランボルト皇子が答えると、エイラムは席を立ち、

「今日という日を祝おうではないか」と、アーガスに目配せをする。


「では、僭越ながら……」

 アーガスはグラスを持ち音頭を取った。


「レイセオン王国とウィルギス皇国の平和に――乾杯!」


「「――乾杯!」」



    §



 乾杯が終わり、ランボルト皇子の紹介も終わったところで、参加者から王への献上品が続々と届けられる。貴族達は、その献上品から家の力と王家に対する忠誠心を推し量るのだ。


 んー、大丈夫かな? 献上品はロイドが用意してくれると言っていたけど……。


『次はドノバン男爵様より、陛下への献上品でございます』


 王の前に光輝くサファイヤのネックレスが運ばれてきた。


「まぁ⁉ なんて大きなサファイヤかしら……」

「あのクラスは、そうそうお目に掛かれない代物だぞ」


 ざわめく招待客の声に、誇らしげに胸を張る男。

 彼がドノバン男爵ね……重要度は確か低かったはず。


「ほぅ、あれはなかなか……」

 隣でリロイが感心したように呟く。


「それほど凄い物なのですか?」

「ええ、宝石の基本的な価値判断の基準は、色、輝き、透明度、傷の有無ですが……ほら、あのサファイヤはかなり大振りですよね? ですが、色にムラもなく、あれほどの深い青、それにあのカッティングは相当な職人の手によるものでしょう、台座の飾りも申し分ない、あれは金で買える物ではないでしょうね……恐らく、どこかの名家がやむを得ず手放した物ではないかと……」

「随分、詳しいのですねぇ」

「私はあんな宝石よりも、リリィ様の方に興味がありますけどね」と、リロイが耳元で囁く。


「――いっ⁉」


 思わず変な声が出てしまった。

 良くもまあ、そんな台詞を平然と言えるものだ。なまじ顔が良いだけにタチが悪い……。


「そ、それはどうも……ありがとうございます」

「おや、どうやら困らせてしまったようですね。ふふ、嫌われないうちに退散するとしましょうか、それでは、また」

「あ、リロ――」


 その時だった、会場に大きなざわめきが起こった。


『スノウホロウ伯爵家より、陛下への献上品でございます』


「あ、あれは……⁉」

「きゃーーーーっ⁉」

「ま、魔獣よ⁉」


 見ると巨大な魔獣の首が運ばれてくる。魔獣の話は聞いたことがあるが、あれほどの大きさは見たことがない。


「あれは、スノウホロウ家のホワイトファング……」

 立ち止まったリロイが不思議そうに呟く。


「ホワイトファング……?」

「ええ、スノウホロウ家の象徴として受け継がれている物だと聞きましたが……」と、眉をひそめるリロイ。


 新雪のように白い魔獣の首に見入っていると、その陰からプリシラ嬢が顔を出し、流れるような所作で陛下とアーガス、そしてランボルト皇子に礼をした。


「おぉ、プリシラか、元気な顔を見せてくれて嬉しいぞ」

「ご無沙汰しております、エイラム陛下――、アーガス王子、ランボルト皇子、プリシラ・スノウホロウでございます」


 二人はプリシラに会釈をする。


「驚いたな……ホワイトファングか、メリルは承知の上なのかい?」


 陛下が尋ねると、

「ええ、もちろんですわ」と、プリシラは愛くるしい笑みを返した。


「それにしても……見れば見るほど素晴らしいですね、純白の毛並みもさることながら、このような大きさの魔獣は見たことがありません」

 ランボルト皇子が感心したようにホワイトファングの首を見上げている。


「よろしければ触れてみてください、驚かれますよ」

 プリシラの言葉に、ランボルトは手を伸ばした。


「……驚いた、とても柔らかいですね」

「ええ、絹のように軽くて柔らかいのですが、とても丈夫で、主に防具の原材料として利用されています」

「なるほど……それは動きやすそうだ」

「はい、スノウホロウの兵士たちにも人気があります」


 エイラムが顎を撫でながら、満足そうに頷く。


「まあ、着られる者は限られるだろう、何せ恐ろしく希少な魔獣だからな。いや、プリシラ、このように貴重な物を……礼を言うぞ。レイセオン王家とスノウホロウ伯爵家との絆は、より強固なものとなるであろう」

「ありがたきお言葉……父も喜びます」


『お、おい……あれは?』

『まさか……』

『いや、そんなはずがない』


 突然、周囲がざわめき始め、入り口の方に居た貴人達が私の方に目を向ける。


「どうした?」

 陛下も気になったのか、侍従に声を掛ける。


「は、はい、実は、ウィンローザ家の献上品が届きまして……」

「ウィンローザ家の?」


 全員が入り口の方へ目を向けると、侍従が声を張った。


『ウィ……ウィンローザ侯爵家より、陛下への献上品でございます!』


 い、一体、何……⁉

 献上品は、アルフレッドがロイドに任せてあると言ってたけど……。


 その時、軽やかな声が響き渡る。


「どうもどうも~皆様、ウィンローザ侯爵家の財務担当、いわゆる金庫番を任されております、ロイド・ヴァレンタインと申します――」

「ロ、ロイド……」


 そこには、天使のような無垢な笑みを浮かべながら礼をするロイドの姿があった。

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