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「匠ちゃん、先日って何? 淳子さんと会ってたの?」
「あぁ……」
どうやら妻には|何も成り行き《自分が用事を頼んだこと》を話さず、それで
いて、妻が不審を抱きそうなタイミングでいきなり自分に話を振ってくるところ
など、たまたまの思いつきで声を掛けましたというのとは違っていて、さっきのは
明らかに確信犯だろうと思えた。
「金曜の夜にね、小泉さんが家に来て『電球が切れたので替えてほしい』って
頼まれたんだよ」
「へぇ~、そんなことがあったんだ。匠ちゃん、ごめんね」
「えっ、何で圭子が謝るの?」
「だって、私繋がりの知り合いで……だから断れなかったんでしょ?
仕事で疲れてたのにごめんなさい。
淳子さんが夜にわざわざ私がいないのを知っててあなたに頼みに来るだなんて、
そんな人だったなんて思わなかった」
「うん、まぁちょっと、あの人とは余り深入りしないほうがいいかもね」
「そうだ……ね……。
淳子さん、昨年ここの分譲購入して引っ越してきたじゃない?
ホステスして半年働いたお金と、離婚した時に受け取った旦那さんと
不倫相手からの慰謝料を頭金にして、残金はローンを組んで買ったって
聞いてるんだけど、なんかね、頼みの綱にしてたホステスの方の仕事の収入が
激減したらしくて支払いが苦しいって」
「それって勤め先のお店の経営が苦しいってこと?」
「たぶん……。それで時間給が減っちゃったみたいね。
収入は減っても衣装代だとか美容に掛ける費用とか、そうそう減らせないから
頭痛いって。
タクシー代とかも入れると生活費とは別に30万くらい掛かるから副業で
アロママッサージを自宅で始めたらしいの。
言ってなかったけど、私も何度か施術しに来てって誘われたりしてるのよね……」
圭子は淳子から『匠平くんもマッサージ誘っておいて』と、シレっと言われていた
のだが、匠平にそれを伝えるのは気が引けてというのもあったり、また淳子に夫の
身体を施術されたくないというのもあったりで、これまで一度も夫の匠平に彼女
からの誘いを伝言したことはなかった。