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短編

いんま!いんきゅメル♡♡(らぶらぶ)契約

作者: 山本大介

 いんきゅ、メル参上。

 

 俺の名前は、佐伯光(みつる)23歳の新進気鋭の作家だ。

 なんて言ってみるくらい浮かれている。

 ついに俺の作品が、書籍化され文壇デビューするのだ。

 今日が俺の渾身の処女作「いんきゅばすっ!~俺と淫魔の眠れぬ日々~」の発売日なのだから。

 本当に書店に並んでいるのか、はやる気持ちを抑えられず、完徹して開店一時間前のから駐車場にいる。

 文壇って笑っていないか、所詮エロ小説だろって、何が悪い。

 そもそもだ。

 エロがなきゃ人類は絶えるんだぞ!

 エロは世界を救うんだ!

 エロは素晴らしいものなんだ!

 エロを笑うヤツはエロに泣くんだぞ。

 エロを小馬鹿にする奴は本当のエロを知らないヤツなのさ。

 なんて一種、開き直りにも似た境地に俺はいる。

 本当は俺だって、普通にデビューしたいよ。

 だってそうじゃないか。

 誰だって・・・思うが儘にはできない。

 やりたいことがやれている人なんて一握りなのだから。

 だから自分を自分だけは信じたい。

 なんて自問自答していたら、いつの間やら店は開店していた。

 ヤバい、ヤバい、この妄想癖は・・・。

 もたついた俺だが、昨今の本離れだ、最初の客となった。

 えーっと、エロ・・・官能小説コーナーはっと・・・。

 俺は鬼の形相血眼必死のパッチで、本棚を見つめる。

 ・・・ない・・・ない。

 やっぱり。

 所詮俺の書いたエロ小説はドマイナーアングラエロ出版社の底辺の一冊。

 街の本屋になんてあるはず・・・。


「あの・・・」

 ポニーテールが似合う、幼顔のメガネっ子、同い年ぐらいだろうか、おっぱいわりかし大きめ、ちょっぴりふくよかナイスバディの女性店員が声をかけて来た。

「佐伯光さんですか?」

 おもむろに聞く彼女に、

「はい」

「やっぱり!じゃ、サインしてください、これっ!」

 彼女が両手を持って差し出したのは、俺の処女本「いんきゅばすっ!~俺と淫魔の眠れぬ日々~」だった。

「あっ!はい!」

 天にも昇る気持ちとはこのことだ。

 エロ小説で恥ずかしくないのか・・・だって?

 馬鹿いうな、俺はこれで、商業小説家の一歩を踏んだんだぜ。

 記念すべきファン第一号の可愛い子ちゃんへ。

 サラサラ。

 俺はこの日の為に練習してきた、とっておきのサインを書いた。

 ん。

 ん?

 んんん?

 ちょっ。

 ちょっ、待てよっ!

 悪魔淫魔契約書だとう!!


「ふふふふふふふ」

 突然、メガネっ子が笑いだした。

「佐伯光よ。これにて我との契約完了だ。淫魔、メル=インキュベータとの隷属・・・はははははははは」

 高らかに笑う淫魔。

「騙したなっ!俺のファンじゃなかったのか」

 俺は怒り叫ぶ。

「ふん。誰が、こんな底辺官能本雑魚ボブキャラ作家の作品など読むものか」

 淫魔メルは口元を歪め、俺を罵った。

「そこまで言う」

 俺はヤツの言葉に打ちのめされる。

「ははははは、言うさ、言うよ、淫魔いんきゅはドSにもほどがあるのだ!」

 ヤツは高らかに笑う。

「くそう」

 俺は不覚にも目から悔し涙が溢れる。

「いいねぇ、いいねぇ、佐伯光う。それでこそ、我が下僕っ」

 いんきゅは耳元で囁く。

「どちくしょー」

 俺は膝から崩れ落ち、床を何度も叩く。

「ははははははははははは。最高だ。下層のいや最下層の人間・・・我が下僕が悲しみもがく姿は実に興奮するよ。ふはははははははははははははっ!」

 ヤツは高笑いをすると、ぱちんと親指を鳴らした。


 暗転する。

 薄暗い中、俺はヤツの淫魔変化を目の当りにする。

 彼女いんきゅメルの服がはだけ、ぼんぼんぼーん!黒のボンテージ姿に闇の翼、キュートなお尻に♡のついた尻尾となり、真の姿となった。

「おおお」

 絶望に打ちのめされながらも俺は大きく頷いた。

「光よ。そちは我の下僕となりてアタシにつくすのだ!」

 ウィンクに人差し指をつきつける彼女。

 ずきゅーん。

 俺のハートは瞬時に撃ち抜かれた。

 ドキドキムネムネの俺のアソコもビンビンと化す。


「さあ、光よ。我と快楽の海へと飛び込もうぞ」

 メル様は両手を広げる。

「はい。メル様」

 俺は膝をつきめくるめく彼女と性への忠誠を誓う。

 見つめ合う潤んだ瞳と瞳。

 俺たちは・・・。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ・・・10分後。

「さあさあ」

「はいはい」

 ・・・30分後。

「どうした、どうした」

「・・・どうしたんでしょうねぇ」


 互いに焦りを感じ続けた1時間後、俺は次第に冷静さを取り戻し、この現状を分析する。

「メル様」

 彼女は虚ろになりかけた目でこっちを見て、

「どうした」

 と、尋ねる。

 俺は確信めいた言葉を口にする。

 俺はエロい作品を書けるが童貞だ。

 ならば彼女も・・・どうしていいのか分からないのだ。

「はじめてですか」

 その言葉に、メル様は顔を真っ赤にする。

「そんなはず・・・ないだろ」

 後ろの言葉が小さく聞こえた。

 そっか、そっか。

 俺はちょっぴり安堵と親近感を覚えた。

「あーもうっ!」

 メルは叫んだ。


 すっ。

 再び暗転し、俺は本屋に戻っていた。

 アレは夢か現か。

 本屋には当然、俺の処女作はなかったが、せめて爪痕だけは残したい。

 なけなしの勇気を振りしぼり、店員へ「いんきゅばすっ!~俺と淫魔の眠れぬ日々~」ISBN(図書番号)を知らせ、本を取り寄せて貰うようお願いをした。

 無論、「友人に頼まれた」と言い訳を添えて。

 

 俺は自宅へ帰り、ベッドに転がる。

「ふう」

 ため息をついた。

「あれはなんだったんだろう」

 独り言を呟き、寝返りをうつ。

「!」

 俺の目の前にあいつが・・・メルがいる。 

「よう!光っ!我が下僕よ」

 真剣な眼差しをこちらに向けている。

「わわわわわわわわわ」

 俺は驚き戸惑う。

「悪魔淫魔契約書絶対だ。事を成就し、えちえちしまくりのー、光の精気を根こそぎ吸い尽くすまで、よろしく頼むぞ」

 ぬけぬけと彼女は言った。

「・・・・・・」

 俺は言葉を失った。

 嬉しいのやら興奮していいのやら不思議な感情が渦巻いていた。


 こうして、俺と淫魔メルと寸止め不思議な同居生活がはじまったのだった。




 ここからはじまるムフフな物語。

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