What's your treasure??
わーっ開き過ぎた!!(土下座)
「浮かない顔してるね」
頭上から楽しそうな声がした。
この声でただでさえ低いテンションが更に降下する。
無視を決め込んで溶剤の入っていた桶を束子で擦っていると、またひどく楽しげな笑い声が降ってきた。
「ひどいなー、無視しないでよぉ」
くすくす笑いながら影が揺れる。
現れる時は必ず太陽を背負い、庭の隅に積み上げた木箱の上で胡坐を掻く。
決して寒くはない時期なのに、すっぽりとローブを纏い、目深に被ったフードで顔は全然見えない。
どこの誰かも知らない。
何者だ、と誰何しても返ってくるのはその都度「暇人」「占い師」「迷子」「寝不足」「御曹司」「愛人候補」などという支離滅裂でてんでバラバラな答えばかり。
名を名乗れと言っても「君が付けていいよ。好きに呼んで」と言い出す始末。はぐらかして、ちゃかして、結局肝心な答えは一つも寄越さない。
その声や体格から自分と同じくらいかもう少し年上くらいの少年だろうと当たりを付けているが、今だに素性の知れない、怪しい奴。
ただ一つだけわかっていることは、こいつが一時期噂になっていた「紅い髪」を捜している男だということだ。気をつけろと大人たちに言われていたある日、俺が庭で仕事の後片付けをしていた時突然現れて、「見つけた」とすごく嬉しそうに笑った。
「お前か、紅い髪を捜している奴って」
「危害を加えるつもりなんてないよ」
外井戸で洗っていた道具の中から先の尖った目打ちを手にとり、警戒する。外井戸と木箱の上は大分離れてはいるが油断は出来ない。
だがそうしても侵入者は欠片も意に介さず、見えはしないがにやにやと口元を歪ませているのがわかる声音で言った。
「気になる夢が見えたから、眺めに来ただけなんだ」
いきなり木箱の上に現れて意味不明なことをほざく件の変人に、その時とっさに目打ちを投げたがあっさりかわされてしまった。
その尋常ならざる身のこなしと、そもそもどこから庭に入ったのかもわからない時点でもう嫌な予感しかしなかったものが確信に変わる。
目の前の男は、天敵(三月ウサギ)の『役者(同類)』だ。
ならば悔しいがケンカではほぼ間違いなく勝てない。
奥歯をぎりっと噛み締めた俺に、対照的な楽しげな声が話しかける。
「そんなに睨まないでよ。君、ボクの夢に出て来たんだ。ちょっと話してみたいなと思って捜してたんだよ」
「じゃあもう気は済んだだろ」
「ふふ。…今日のところはね。そろそろ時間切れだし」
また来るね。
その後、全くありがたくないその言葉通り、どこで見張っているのか必ず俺しか庭に居ないことを見計らって神出鬼没に姿を見せるようになり、その都度意味不明な言葉を残していく。
そして今日もまた。
いい加減癪に障り、けれど顔と動かす手はそのままに用件を聞いた。
「何の用だ」
「どうだった?お城」
思わず手が止まった。
…どうして知ってるんだ。
楽しげな声はなおも続ける。
「どうするの?」
「…何をだよ」
「また、とられちゃうよ?」
…だから、何をだよ。
主語のない問いかけにイライラが増長する。
けれどこいつの質問に答えてやる義理はない。
意識を手元に戻して力任せに桶を擦る。
まるっきり無視しているというのに、一向に立ち去る気配は無い。
「宝物はちゃんと仕舞って隠しておきなね?」
「宝物と城が関係あるのかよ」
相変わらず支離滅裂で横柄な物言いに、遂に俺は顔を上げて半眼でその主を睨む。ただでさえ逆光は眩しい。輪をかけて目つきも悪くなろうと言うものだ。
「大有りさ。みんな失くしてから、ない、ないっ!って騒ぐんだもの」
そう言って呆れたように肩を竦める。
その様子を見ながら城と、そこで知った事実が脳裏を過ぎる。
俺の宝物と、城と。
考え込んだ俺の上に歌うような声が降る。
「君の宝物は、何?」
「…」
俺の宝物は。
また、盗られる、とは。
「忠告は、したからね?」
レイズが再度見上げた木箱の上は、通りの向こうのアパルトマンの屋根が見えるだけだった。
絶対出したくなかった「次話投稿されない可能性も…」
いやぁ~~~っってことで短めですが上げます。
短めでちょっとづつUPしたほうがいいのかしら。。。
ある程度まとまるまで~と思うからいけないのかも…と思い、これからちょっと短めになる…かもしれません。
がんばりますので見捨てないでやってくださいまし。