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I wanna go shopping with U 4

さぁ、クレスは何を言い出すやら。

時間的にも、もうこれ以上引き伸ばすわけにはいかないだろう。



通りの店をぶらぶら見て歩いているうちにお茶の時間になり、ランチのときに話したカフェに落ち着いて、早30分。


向かいの席で運ばれてきたモンブランを幸せそうに平らげ紅茶を啜っているアゼルに、意を決して声をかける。


「………アゼル」


自分でもわかるくらい硬くなった声音に、手に持っていたカップをソーサーに戻してアゼルはこちらに向き直る。

その青紫の視線を真っ向から受けて、テーブルの上に両肘を付いて手を組むと口元を隠すようにして一つ大きく息をした。



「オレさ」

「うん」

「春から学院に行くことになったんだ」

「学院?」


無表情なアゼルの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「そう、ローレンシア学院って、聞いたことない?貴族とか、平民でも特に勉強の得意な子供が女王様からの奨学金で入ることが多いんだけど」

「…あぁ、子爵様のご長男が確か」

「そう、それ」

「すごいね。クレス頭いいもんね。何を勉強するの?」

「最初はいろいろかな。向き不向きがわかると一年後に専攻を選ぶんだけど」

「何かやりたいこと、あるの?」

「……」


アゼルの何気ない問いかけに、何と答えたものか。心が重くて、その重さがそのまま思わずため息として表に出た。

言い澱んでため息を吐いたオレの手にアゼルの華奢な手が添えられる。

今日一日繋いでいた手は、台所仕事で荒れて全体的に赤くなっていた。それも手を離して欲しい理由の一つだったらしいが、アゼルが毎日真面目に働いているのを知っていたからカサ付いたそれもちっとも気にならなかった。

帰りがけにクリームを買ってあげよう。あ、でも逆に気にさせちゃうかな。


「行きたくないの?」

「行かなきゃいけないから行くけど、うんと行きたいわけでもない…かな」

「どうして行かないといけないの?」

「オレ、三男だから将来家を出ないといけないからさ」


伯爵家は一番上の兄貴が継ぐことになっている。二番目の兄も上の兄と同じく家業を手伝っているが、オレは別の道を進もうと思っていた。

いくらがんばっても将来は三番手止まりなのが見えているし、あれらはどうもオレには向いていない気がする。

となれば、何か職を見つけて家を出るしかないのだ。そして、その一番の近道が学院で自分の適性を見極め、学ぶこと。


「そっかぁ。じゃぁ頑張らないとね」


簡単に言ってくれる。

オレはアゼルの中でその程度の存在なのか。

…それとも知らないのか。


「アゼル…学院がどこにあるか知ってる?」

「?…わかんないけど…レイシーのどの辺り?」


どこ?と首を傾げて聞いてくるアゼルに少しほっとする。


「レイシーの中じゃないんだよ」


ここからが肝心なんだ。心臓がまた少し早くなった気がする。

生きて帰れるだろうか。

オレの手に添えられた荒れた手を逆に両手で包み込んで、唇を押し付ける。


「レイシーから馬車で何日もかかる。しかも全寮制で長期休暇の時しか帰ってこれない」

「っ…そうなんだ…」


驚いたように一瞬目を見開くと、頬をさぁっとピンクに染めて長い睫毛を伏せがちにアゼルは小さく呟いた。


「だから今までみたいに、帽子屋に遊びに行ったり、一緒に野薔薇を見に行ったり出来なくなるよ」

「そうだね…卒業はいつになるの?」

「4年かかる」

「…そっか」


俯いて寂しげな表情を見せるアゼル。しかしこれまでの内容では野薔薇を見られなくなるから寂しいのか、オレに会えなくなるから寂しいのか、判断は難しかった。それでも力なく落とされた肩に一筋の光を求めてその先を紡ぐ。


「ほとんどの子が13歳になったら入学するんだけど、みんな従者を連れてくるんだ」

「従者?」

「うーん、ほら、貴族とか、商家にはアゼルみたいな使用人がいるだろ?寮で生活することになるから、自分専属の使用人をそれぞれ一人、家から連れて行けるんだ」

「へぇ。すごい」

「実家にいた年の近い使用人や将来の執事候補を連れて行くことが多いんだけど。全部じゃないけど一緒に授業も聴いて、ほぼ一緒に生活することになるから相性はいいに越したことは無いね」

「そうだね。仲悪い人とずっと一緒は、しんどいね」


感心したように相槌を打ち、オレに拘束されたままの右手から意識を逸らすように冷めた紅茶のカップの淵を左手の親指でなぞる。


「だからさ、」


捕まえた右手を握り直して、青紫の瞳をこちらに向けさせる。ひたと見つめて、今日一日、いや、帽子屋で今日の話を出すずっと前から腹の底で消化不良を起こしていた一言を、祈るような気持ちで口にした。


「オレの従者として、一緒に学院に行ってくれない?」















決死の思いで口にした言葉に、無表情のままいくらか瞬きをしたアゼルはほんの少しだけ眉根を寄せて、


「大旦那様がなんて言うか…」


至極真っ当な、でもオレの欲しかった答えとはずれたことを言った。


本当に一緒に連れて行けるかどうかは、五分だと思っている。


アゼル本人だけならいくらでも説得する自信がある。


けれど、それだけじゃダメなんだ。



オレの両親を説得して了承を取り付け、


アゼルの雇い主であるHatsの大旦那に話を通し、


ついでに大暴れするであろうシスコンの兄貴をだまくらかし。



あちこちで大人たちの首を縦に振らせないと、実現できない。




オレたちが、まだ子供だから。






でも、今一番重要なのは。


「そうじゃなくて」


やや赤い顔のまま俯いて大旦那様が、とかお兄ちゃんが、とか言ってるアゼルの右手を握ったまま、うっすらそばかすの浮いた頬にもう片方の手を伸ばす。

もう一度、一対の青紫を捕まえた。




今欲しいのは、


大人たちの了承ではなく、


彼女の意思。



「…もし、大人たちにいいよって言ってもらえたら、アゼルは、オレと一緒に来てくれる?」



うん、と言うまで引き下がるもんか。





全ては、そこからなんだ。




一世一代の…まだ早いって。


まぁ、日帰りでピクニックとはわけが違うのよね。

ていうお誘いでした。

アゼルはなんて答えるのでしょうね。

わー、学院の名前、入れ忘れてました(爆)すみません。。。

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