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I wanna go shopping with U 2

そしてその数日後。街の商店が開くより大分早い時間。


クレスはサーシャと帽子屋の台所でお茶を飲んでいた。



先日のここでの出来事を思い出してまた大笑いしているサーシャの横で、張り切って予定よりだいぶ早く来過ぎたクレスはアゼルが朝食の後片付けをしてから出かける支度が終わるのを待っている。


「だぁってぇ!あの時のクレスの顔ったら!あはははは…あー、お腹痛い」

「いい加減にしてよ、サーシャ」

「みんなアゼルの誕生日に託けて一日デートに誘ってるもんだと思ってたのに、最後にあれなんだもん!!可笑しくって!!」


しかもアゼルわかってないし!!


目に涙まで浮かべて腹を抱えているサーシャをじろりと睨み、少なからず好意を寄せている女の子に対しての有るまじき失態をこれでもかと笑われているクレスはどこまでも仏頂面だった。

あれからアゼルはみんなが唖然とした理由が良くわからなかったらしく、私の誕生日がどうかした?と不思議そうに聞いていた。そんな二人を見て台所では大爆笑が起こったのだが、アゼルの問いにどうにか自分を取り戻したクレスはアゼルの誕生日プレゼントも探そうね、とぎこちなく笑って場を取り繕ったのだった。当の本人にはその場で目を丸くして、プレゼントなんていらないよ、と返されてしまい、またみんなに苦笑されてしまったのだが。


「あら、お友達のプレゼントって言うのは、ホントだったの?」

「……………嘘」


すごく面白くなさそうに、クレスはプイッと横を向いた。

あっはははははははっ、とまた苦しそうに笑い出すサーシャ。


「そもそもさぁ、なんであんな皆がいるところで誘ったわけ?いつもみたいに勢いで連れ出しちゃえばいいのにー」

「ちょっと作戦を変えてみようと思ってさ。大人に揃って許可をもらえば、あの兄貴も少しはぎゃあぎゃあ騒ぎづらくなるじゃないかと踏んで」

「んー、あの子は周りがああだこうだ言ってもそうそう変わらないと思うけどねぇ。ここに来たときからずっとああだし…」

「でも最近はあれでもだいぶマシにはなってきたんだろう?」

「あなたとの約束はどうにか守ってるらしいけどねぇ、いつまで保つことやら」


みんな結構感心してるのよぉ、そう言って、ようやく笑いを引っ込めた帽子屋の孫娘はポットからお茶を継ぎ足した。


いつもばたばたとレイズから逃げるようにアゼルを連れ出し、遅くなり過ぎない時間に裏の木戸まで送り届ける。アゼルは何も言わないが、その夜毎ケンカになっているのは想像に難くない。

いつまでもそんなことをしていても環境は全然進展はしないし、やっぱり堂々と迎えに行って、送り届けたかったから。自分と会うことが彼女の負担になるのは心苦しい。かと言って会うのを控えるという選択肢は存在しないのだが。もうクレスにとってここに来ることは生活の一部になっていた。

それより差し迫っての問題は。


「本当に一日中付いてくるつもりなのか?」

「まっさかぁ。…あたしも今日はデートだもん」


笑い過ぎた喉を潤しつつ後の方は小声で囁き、ニッと笑ってウィンクを寄越す。


「でも家は一緒に出るわ。とりあえず穏便に出発出来るでしょうよ」


後は別行動ね。


そう言ってクスッとサーシャが笑った時、廊下に続くドアが開く。


「お待たせしてごめんなさい」


それまでの不機嫌が一気に引っ込んでそちらに満面の笑みを向ける。準備が出来たアゼルが台所に下りてきた。その変わり身の早さに、サーシャが呆れたと言いたげな声を上げるがもちろんスルーだ。

急いだのだろう、廊下からパタパタと可愛い足音をさせてやってきたアゼルは、やや色の褪せたオレンジ色のダッフルコートと、白黒のチェックのマフラー、下は黒の厚手のスカートを履いて、いつもの黒い靴。長い銀髪は頭のてっぺんで大きなお団子になっていた。


「ううん、オレが早く来過ぎただけだからさ。こっちこそごめんね」

「あら、懐かしいの着てるじゃない」

「うん、このコートがね、一番暖かいの」


サーシャが懐かしいと言ったのはアゼルが着ている少し草臥れたコートで、どうやらサーシャのお下がりらしかった。

確かに、このオレンジはサーシャの色だろうな。


小さな黒のポシェットを斜めにかけて、トコトコとクレスの前に寄ってくる。


「いいプレゼントが見つかるといいね。行こう?」


その台詞にまたサーシャの発作が再発した。

大笑いするサーシャにどうしたの?と不思議そうに聞くアゼルに向かって、出来る限り優雅に右手を差し出す。


「忙しいお嬢さんと貴重な休日を過ごせること、身に余る光栄です」

「…」


芝居がかった台詞と仕草に大きな青紫の双眸を数回瞬かせたあと、寒さと急いでたのとで元々赤みが差していた頬を更に染めて、恥ずかしそうに俯きながら差し出された手を取った。


あたしには無いのー?ひどーい、と横でわざとらしく拗ねるサーシャを置いてアゼルの手を引き、勝手口の前まで導く。


「とんでもない」


ドアの前でアゼルを待たせ、さっきの仏頂面が嘘のように綺麗な笑顔を貼り付けてサーシャがコートを着るのを手伝う。着終わると同じように右手を差し出した。


「単純に優先順位の問題だよ」

「まぁ、失礼ね」


完璧な笑顔でさらっと小声で言ってのけると、手を引いて勝手口のドアを開ける。サーシャもサーシャで別段気を悪くした風でもなく、そのままエスコートされて外に出た。

サーシャを通したあと、再度アゼルの手をしっかり取って、勝手口のドアをくぐらせる。


それからおそらくクレスが帽子屋に出入りするようになって一番静かに、平和に赤薔薇の木戸から表に出ることが出来た。


……と思ったのも束の間。


出た途端、ぴたりと3人の足が止まる。


「オレも行く」


木戸を出たすぐの所に、紅い髪の少年が仏頂面で腕を組んで立っていた。

クレスは無意識にアゼルを庇うように一歩前に出た。


「レイズ、あんた仕事でしょう?」

「…こいつとアゼルを二人きりにするくらいなら」

「あたしが一緒に行くんじゃ足りないわけ?」


サーシャが心外だと言うように腰に手を当ててため息をつく。


「どうせ途中から別行動するんだろ」


ずばり突かれてサーシャの肩がピクリと動いた。


「たかがプレゼントひとつ選ぶのに夕方までなんてかからないだろう」


お見通しなんだよ、とジロリと雇い主の一人娘を睨む。元々この帽子屋で上下関係が薄いことは知っていたが、改めてアゼルが絡むと怖いもの無しらしい。


「サボってないで働けって。夕食までにはちゃんと帰ってくるからさ」


アゼルを背後に一歩前に出て直接対峙する。


「さっさと用事を済まして帰って来るぞ。ジェムとの買出しはそれから行く」


立ちはだかるクレスには目もくれず、ずんずん近寄ってきて後ろに隠れていた妹の手首を掴んで引っ張った。

ほら、行くぞ、とレイズが踵を返そうとした時。


「レイズ、お前仕事放り出してどこ行く気だ」


木戸からドスの利いた低い声が聞こえた。

そこにいた全員が振り返る。


「ジェムっ」

「ジェム、この子どうにかしてよぉ」


帽子屋のジェムはがっしりした体格に刈り込んだ焦げ茶の髪に赤茶の細い瞳といった風貌も相まって、手先の器用さを要する職人と言うよりは何か肉体労働をしているイメージがする男だ。そんな彼が無表情で仁王立ちしていれば、かなりの威圧感を醸し出せる。

そして今も。


「買出しは午後からって言ってただろ」

「ふざけるな、誰が半休にしていいと言った。買出しの前にも仕事はあるぞ」

「聞いてねえよ、昨日の分はもう終わらせてあるんだからいいだろ」


威圧感もものともせず、食って掛かるレイズ。本当に、こいつは妹が絡むと見境がなくなる。


「ジェム、レイズ連れてっちゃって。せっかくのお出かけが台無しになっちゃうから」


先ほどのレイズの物言いが気に食わなかったのか、サーシャが不機嫌な声を出す。


言われずとも、とジェムは片眉を上げるとスタスタとこちらに歩いてくる。


「仕事をすっぽかすたぁ、覚悟はできてるんだろうなぁ?」


そう言ってレイズの前に立ってじろりと睨みを利かす。さっきから表情は全然変わっていないのに、目だけが怖い。兄の手を振り解いてアゼルがオレの方に身を寄せてきた。

普段はかなり無口で、台所で顔を合わせても挨拶くらいしか交わさないことが多いが、以前アゼルに聞いたら、見た目は怖いし仕事には厳しいけど普段はとっても優しいよ、と言っていた。

…とりあえず、怒らせてはいけないということはよくわかった。


「バカウサギの用事を済ましてくるだけだよ。すぐ戻ってくる」

「それが仕事をサボってまでついて行く程大事な用事か?」

「そうだよ、アゼルがわざわざ付き合うような用事じゃないんだ」

「それはお前が決めることじゃないだろうが」

「おい、アゼルも今日は一日家にいろよ。こないだのビーズ付け終わってないんだろ?」

「…あたしは今日はクレスとサーシャとお出かけするの。邪魔しないで」


アゼルがオレのコートの袖をぎゅっと掴んでくる。その強張った声音に振り向くと、案の定大きな目をきゅっと細めて兄を睨んでいた。

ほんの少しだけ震えるその手に手を添えて、


「だそうだ。お兄ちゃん?今日は大人しく仕事しとけよ」


心配するようなことはないからさ。そうジェムにも請け負った。


だが本人のはっきりした拒否にもめげず、レイズは猶も言い募る。


「おい、ジェムも何とか言ってくれよ?アゼルに何かあったらどうするんだよ!?」

「アゼルは今日休みだし、坊ちゃんもきちんとアゼルを誘って出かけるんだから、俺が引き止める理由は何も無いな」


レイズはぎりっと歯軋りをするとアゼルの腕を強引に引き寄せた。もう片方の手には、銀色のナイフ。

その煌めきにアゼルが無言で目を見開き、サーシャが横で心底呆れたように大きくため息を吐く。


「…レイズ、お前いい加減にしろよ?」

「っ……とにかく!絶対だめだ、男と二人で出かけるなんて、絶対許さないからなっ」


そう啖呵を切ってアゼルの手を引き、再度踵を返そうとした、その時。

いつの間に動いたのか、背後に立ったジェムの手刀がレイズの首に落ちる。ナイフが乾いた音を立てて石畳に転がった。



「坊ちゃん、妹のことに関してこいつを下手に弄るのはやめとけ。ヤブヘビだから」


ジェムはやはり出てきた時と変わらない無表情でそう言うと、ぐったりしたレイズを小脇に抱えて木戸の向こうに消えた。




どうしてこう、なかなか出かけられないのは何でなんでしょう?orz

一番書きたいシーンになかなかたどり着きません。。。

仕事をサボるのはよくないですよー、レイズくん。


大きな余震が続いてます、皆さんお気をつけて。

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