嘘告の相手が危篤だってよ
高校生の時に告白してくれた、クラスのギャルと一時期付き合っていた。
色んな所にデートに行ったり、夏休みには一緒に花火したり、楽しく過ごさせてもらった。
けど、3ヶ月後にあっさり振られた。
手も握っていなかったし、微妙な雰囲気になると、あからさまに距離を取られていたので、何となく本気じゃないんじゃないかって薄々感じていた。
案の定、3ヶ月限定の嘘告だったそうだ。
罰ゲームの嘘告で、俺が選ばれた理由は、迫られても返り討ちに出来そうな陰キャだからと言う事だった。
もうこれ以上一緒に居なくて良いと思うとせいせいする、と言われて、ようやく納得出来た。
元カノの陽キャグループ連中の一人である金髪イケメンは。
面白かったし笑えたよ。彼女にこれ以上纏わりつくなよ。
って言いながら、元カノの肩を抱きながら一緒に去っていった。
しばらくは虚脱した様に、怒りを表す事も出来ずに落ち込んでいた。
卒業までの間。
両親からは、ぼんやりする暇が有ったら自分を磨けと、尻を叩かれながら叱咤激励された。
大学は何とか志望校に潜り込む事が出来た。
大学でも研究と卒論、就職活動に追われ、色っぽい話など有るはずも無く、気がついたら大手の技術職に就職していた。
数年経て管理職に就いた辺りで、実家から連絡あり。
昔学生のころ、唯一付き合った事がある嘘告元カノから電話があったそうだ。
元カノは、卒業後に金髪イケメンと結婚、子供を産んだ後に離婚。婦人科系の悪性疾患に罹患し、末期の状態との事。
死ぬ前に、俺に会いたいんだそうな。
興味が有ったので、面会を承諾し病室に会いに行った。
元カノは以前の煌びやかでハツラツとした様子から、一気に30年ほど年を取った風体であった。
久しぶり。元気、じゃなさそうだな。
来てくれてありがとう。
どうして今さら呼んだ?
今までの彼氏で、あなたが一番私を愛してくれたから。
どうしても会いたかった、謝りたかった。
高校生の時、騙してて、酷いことを言ってごめんなさい。
昔の事だし、もう思い出になっているから、どうでもいい。
俺みたいな陰キャに、嘘告でも彼女が出来たのは、有る意味良い思い出になってる。
本当にごめんなさい、私が死んだら、娘が一人になってしまう。
あなたに娘を引き取ってほしい。
あなたしか頼れないの。
娘さんの父親や、君のご両親がいるだろう?
赤の他人の俺に、君の子供を引き取ることは出来ないよ。
お父さん達は生活保護だし毒親だから子育てなんて無理。
元旦那はほぼ反社で生活力皆無だから、もっと無理。
申し訳ないけど、あなたの噂は高校卒業後もずっと聞いていた。
私達から騙された後も、腐らずにずっと頑張って立派になっているって。
あなたを振って、あんな男に靡くなんて、若かったとは言え人をみる目が無さすぎた。
本当にこんな事言える立場なんかじゃ無いって、自分でも分かっているけど。
娘をお願いできるのはあなたしかいない。
憎まれていると思うけど、どうかお願いします。
頬なんてげっそり削げ落ちた様に痩せこけているのに、目だけは爛々とした様子で懇願する元カノ。
ここまで必死になれる程、娘の事が大事で、心残りなんだろうな、と思わされた。
都合の良いことばっかり言ってるの分かってる?
けど。
君は変わったね。
子供が出来ると、人って変われるんだ。
俺は子供どころか彼女すら居ないから、そこまで自分以外の人に必死になる事が無かったよ。
分かった。何とかしよう。知らない仲じゃないし。
ただね。
自分から騙して貶めた相手に頼むんだから、これから君の娘に何が起こっても、あの世で後悔しないでね。
薄く微笑みながら、、彼女にそう言った。
って、何でそこで頬を染める?
おそらく、俺の実家に預ける事になるんだろうけど。
腹一杯の食事と学校に加え、塾に通い詰めとか自己研鑽漬けになるんだろうなぁ… (遠い目)
会社経由で司法書士を紹介してもらい、養子縁組の手続きは滞りなく終わった。
養育者、身元保証人は俺、住所は俺の実家。
元カノの子供は、何度も母親を振り返りながら、俺の実家に引き取られて行った。
預かった娘は、産みの親の事を全て知った上で、俺の両親の養子になった。
俺の事に対しては、母親が酷いことをしたのに自分を引き取ってくれたと、恩義を感じている様子だ。
その後の事は、あっさり。
元カノは癌の進行に伴い苦しんでいた時期も有ったが、最期は緩和治療を受けながら安らかにお亡くなりになった。
彼女の娘は、母親の死に目に会えて、泣きながらも思い残す事無くお別れ出来たと思う。
元カノの元夫は、薬物のオーバードーズで窒息しながら死んだ。
元父の死については、娘は全くの無反応であったが。
あれから16年、あの娘は大学卒業と同時に独り立ち、就職する。
なぜか俺の会社。
卒業と就職おめでとう。職場では贔屓はせんぞ、と言ったら。
新入社員と管理職の恋愛って、どうでしょう?
と聞かれた。
勘弁して欲しい。