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検索「猫 クリスマスツリー 破壊」

12月24日


人によっては特別な一日になる。

俺、犬飼創にとってもそうだ。


戦いに備えて、美容院に行ったし服も新しく買ったし準備万端整っている。


昼前の十一時に萬福寺で待ち合わせ。

今日はかなり寒くて、ねこは一匹しか見当たらない。

お堂で丸くなって眠っている。かわいい。


「あ、雪だ……。本当に降ってくるとは。傘、持ってくればよかったな」


時刻は十二時半を回った。

ひらひらと小さな雪の精が舞い踊る。

きれいだな。

お前も、そう思うだろう?

振り返ると猫はいなかった。

ひとりぼっちのクリスマスイブ。


「ふっ。俺はめげないのさ。愛を信じているから」


それからさらに十分が過ぎて。


「メガネが真っ白に曇ってる……」


「ごべんなじゃあいいい!びえええ!」


「髪切った?」


「きゃ!さすが創様!切り揃えた程度ですけど愛があれば分かっちゃうんですね。ちゃんとヘアサロンに行ったし、ほら、服も新しく買いましたよ。あれ。そう言う創様もヘアサロンに行かれたんですね。かっこいい!」


「切り替え早」


「遅れて……くすん……怒っていますよね」


「怒ってないよ。だって俺の為……んん。その、アレして遅れたんだろう」


「そうなんです……え?」


「零が動画を送ってきた」


俺がスマホの動画を見せようとすると、麗嵐は隣に座った。

密着。ふわっと大人の香りがした。

以前の俺なら、遠慮のない距離感は勘弁だけれど。

今は素直に照れる。


「あ!零ってば隠し撮りなんてひどい!」


「がんばって化粧したんだな」


「何度も失敗して何度も顔を洗って、こんなに遅れてしまいました。お化粧がこんなに難しいとは。お母さんに頼んで、ちゃんと練習すればよかった」


薄く化粧した顔も、むっとした顔もかわいい。

だから。


「待った甲斐があったよ」


「いじわる」


「俺は嬉しいんだよ。あ、違う」


「違うんですか?」


「ふう……分かってる。今日は素直になるよ。麗嵐が俺のために化粧をがんばってくれて嬉しい」


「別に創様のためじゃないですけど」


「え!マジ!?恥っず。ごめん忘れて。調子乗った」


「ふふ……あはは!おもしろーい!」


「からかったな!」


そうですよ。せいかい。

春麗嵐、あなたのために、あなたを想って、あなたに愛されたくて、はじめてお化粧を頑張りました。


「でも、本当に遅れてごめんなさい。電話してくれても良かったのに」


「連絡をよこさないお前が言うかよ」


「う……それは忙しくてですね……それに零は先に出かけちゃうしで……しょの……ごにょごにょ……」


「ったく。俺がもし電話したら、我慢強くないダサい男だって思われるだろう。だから俺はここで男をみがいてたんだ」


俺はマフラーをほどいて、麗嵐の首に巻いてあげた。


「マフラー忘れてるぞ。零から誕生日プレゼントにもらった、お気に入りの大事なマフラーを忘れるなんて。手袋まで。よっぽど慌てたんだな」


創様のにおいがするマフラーでくらくら。

はう……恋の熱中症になっちゃうよう……。


「マフラーも手袋も、わざと置いてきたんです」


「なんで?」


私は創様の首にマフラーを回してあげる。


「こうして、一つのマフラーを二人で共有したかったからです。乙女の夢がひとつ叶いました」


「なっなななな……!」


「慌てちゃってかわい」


「慌ててねーし。俺には大人の余裕があるからな」


「まだ未成年でしょう」


「歳は十八になったから成人だ」


「でもまだまだ子供」


「だあーもういい!恥ずかしいから二人で共有なんてしないぞ。今日一日貸すから、それ巻いとけ」


「ええー残念。でも、創様の匂いがするこの」


「気持ち悪いことは言うな。時間がないから、もう行くぞ」


「はあい」


「あ、傘ない」


「もうー。仕方ないなあ。それじゃ、相合傘しましょうか」


「そうだな。仕方ないな」


ありがとう。雪の精さん。


それから俺たちは電車を乗り継いで、まず駅の近くで昼食を済ませた。


そのあと水族館までやって来た。

麗嵐が俺のセンスを試すとか冗談を言ってきたから、ガチのマジのヤバのデートスポットを選んでやった。

来たことがあるかどうかは麗嵐にメッセージアプリを通して確認済み。


楽しみ♡


と、自作の「ぱちぱちぱんち」スタンプまで送ってきたけれど本当か少し心配。

麗嵐が嘘を言うなんてこれっぽっちも思わないけれど、それでも……。


「創様。今すごく不安で心配していますね。私は本当に来たことありませんし、この日を心待ちにしていたんですよ。どうか信じてください」


「心を読まないで」


「むふふ。そのハラハラする気持ち、お察ししますぞ。女は難しい生き物ですからな。先日とあるバラエティ番組で、お花畑や星空に関心のない女性タレントが、最悪のデートだった、と文句を言っておりました。しかもアンケートで過半数が共感しておりましたぞ」


「変なしゃべり方でメチャクチャ不安をあおるのやめてよ。息が詰まるどころか心臓止まりそう。まさか、幼稚だとか思ってない?ここの水族館はデジタルアートに力を入れたキラキラした水族館だから……」


大人向けのデートスポットていうレビューもあったし大丈夫だよな……どうしよ。


「あはは!そこまで怯えられると、もう笑っちゃうよ。本当に大丈夫だってば」


「いたいいたい。背中叩く力つよいって」


「私、水族館もキラキラも大好きだよ。私が少女漫画にあこがれる乙女だってことは、創様もよく知ってるでしょう。だから、ロマンチックな場所を選んでくれたんだよね」


そうだよ。だいせいかい。

零に相談せず、最後までひとりで悩んでよかった。

でもそこまで見抜かれると恥ずかしい。


「行こう!」


きゃ!創様と手を繋いじゃった。

凍えた手が二人の体温で少しずつ温まってゆく。

それはまるで恋のように。

このために手袋を置いてきたんだよ。うふふ。


ああ、初めて彼に手を引かれた日を思い出す。

私にとって特別な記念日。


あの時、事情があったとは言え、大好きな人と手を繋ぐことができて、乙女心が爆発しそうなくらいドキドキ弾んだ。

そのあとで彼が私を賭けて、先輩とねこバスケで勝負して完敗。

でも、その悔しさをバネにバスケの練習を頑張ってリベンジを果たした。

まるで漫画みたいな展開、主人公みたいな君、そしてヒロインの私。

あの日に私の恋は夢じゃなくなったんだよ。


「うへへ……」


「おい。さっそく少女漫画の世界に入るなよ……悲しくなるぞ……」


「はっ!私としたことがとんだ御無礼を!今日は待ち望んだ王子様とのリアルデートなのに!」


「しっ!声に出して言うな!」


「うふふ!楽しいね!」


「それは良かったけど、恋人繋ぎはやめて。俺たちには、まだ早い」


「さっきからアレするなコレするなって、束縛する彼みたいで嫌!」


「ごめん、そういうつもりじゃ」


「あ!クリスマス仕様だ!」


エントランスには大きなプロジェクションマッピングがあって、彩り鮮やかに、そして華やか煌びやかに歓迎してくれた。

現在はクリスマスシーズンに合わせて、眩いクリスマスツリーが並んでいる。

中心にある水槽もデジタルアートで飾られていて、星空のなかを魚たちが泳いでいる。


「行くよ!」


「ちょ、危ないって」


麗嵐は猫だ。

好奇心旺盛で、好きという気持ちを抑えられない。

今日は一段と大胆な彼女にガッチリと指を絡めてグイグイ引っ張られる。


「みて!ツリーにタッチするとオーナメントが飾り付けられるみたい!」


「本当だ。よくできてるな」


あのふたりは恋人かな。腕組んじゃっていいな。

よーし負けないぞ頑張るぞ。

私も、彼らのようにイチャイチャしちゃうよ。


「……ん?」


「あれ?春?」


「冬ちゃん!と、奏くんだよね」


「いえ。人違いです」


「奏さん。その身長では誤魔化せないよ」


「ええー!二人がデートしてる!いつ!?いつからそういう関係に!?」


「んーとね」


「冬美。行こう」


「どうして?隠すようなことじゃないでしょう」


「そうだよ奏くん。逃げるなんて許さないよ」


私に内緒なんて許せない。

幼馴染で親友なのに。

あとでお説教だからね、冬ちゃん。


「創さん、お久しぶり。二人と幼馴染の咲本冬美です」


「あ、ども。お久しぶりです。犬飼創です」


「彼、まだ人見知り?」


「うん。そだよ」


「ふーん。邪魔しちゃ悪いし行くね」


「行っちゃうの?」


「春。あんたまさか、ダブルデートしよう、なんて言わないよね?」


「言わないよ!二人きりでイチャイチャしたいもん!」


さすが麗嵐。よく恥ずかしげもなく言えるな。

奏なんて顔を逸らして、照れ隠しにオーナメントを飾り付けまくっているぞ。

リズムゲームかよ。


「だよね。それに、付き合っている私たちと、告白もしていない二人じゃ釣り合わないし」


「え!?」


創様と目が合う。

お互いにびっくり。

奏くんもびっくり。

先を越された。

どっち?ねえ。


「どっちが告白したの……?」


「うそ。冗談」


「もう!からかわないでよ!」


「ふふっ。ごめんね。ところで、私たちは周り終えて次に行くところなの」


「そうなんだ。楽しかった?」


「良いところだよ。二人も楽しんで」


「うん!」


「それじゃ、お幸せに」


「そちらこそ」


クールにハイタッチを交わす二人。

冬さんは俺にウインクしてクールに去っていく。

奏はお母さんに連れられる息子みたいに手を引かれて去って行った。


俺たちはオーナメントを飾りつけて遊んだあと、先へ進む。

そこには美しい魔法でつくられた三つの世界があった。

こちらも現在はクリスマスシーズンに合わせた特別仕様で飾られていて、さんさんと輝く満天の海、流れ星と魚が泳ぐ星の道、そして……。


「きゃ!メリーゴーラウンド!」


「乗る気?」


「ノリ悪」


「れっつごー♪」


「ごーごー♪」


宝石箱をひっくり返したみたいなイルミネーションがすてき。

真珠貝を選んで、創様と相乗り。うふ。

イルカさんとお魚たちのパーティーが始まる。

くるくる踊る私たちは、お姫様と王子様。

なんちゃって。やんやん、恥ずかしい。


「癒されるねー」


無邪気な笑顔がかわいい……。

俺は麗嵐みたいに素直に楽しめない。

小さいお子様に混じって乗っているのがマジで恥ずかしい。

他にカップルがいるのが不幸中の幸いか。

いや怪我の功名と言うべきだな。

と不満が少しあるけれど、悪くない気がしてきた。


「楽しかったでしょ?」


「まあまあ」


「素直に」


「楽しかったよ」


「じゃ、次は少し戻って、あの海賊船に乗りましょう」


「あれは嫌だ!」


「え?」


「やだ……」


「ぷっ。もしかして絶叫系ダメなの?」


「悪いかよ」


「ううん。可愛くて萌天しちゃう」


「あっそ。乗らなきゃダメ?」


「行くよ!」


「あああああ……!」


俺は海中を引きずられて海賊船へ連行された。

あれは、恐怖の振り子式前後に大きく揺れるスリル満点アトラクションぽい処刑器具。

隣の麗嵐が海賊のボスに見える。

俺は今から処刑されてタツノオトシゴのエサになる。

さようなら、みんな。


「あ、お洒落なバーがあるよ!ここで休憩しよっか」


「…………」


「迷子の子供みたい」


「ほっといて」


「もう、拗ねないでよ。謝ったでしょう」


私たちは銀河の中へ飛び込んだ。

ここはBARだけれど、ちゃんとソフトドリンクも用意されている。

私たちは悩んで……。


「俺はクリスマス限定のココアにするよ」


「じゃ、私はこれで」


「アイス?マジ?」


「だって、イルカさんの絵が描いてあるクッキーが可愛いんだもん」


「ああ、たしかに。かわいいな」


「私?」


「イルカ」


「素直に」


「イールーカ」


「ちぇ。いけず」


「どっちがだよ」


麗嵐は肉食系のサメ。

対して俺は雑食系のクマノミ。

中途半端で臆病な生き物だ。

今日はずっとリードされている。

ここから気を取り直して、男らしく、彼女を楽しませないとな。


「見た!?店員さんがカウンターにカップを置いたら絵と文字が浮かんだよ!すごいね!」


「うん。どういう仕組みなんだろうな」


「分かんないの?魔法だよ」


「ははは。魔法ね、はいはい」


「むっ。何よその反応」


「あそこで休もう」


円柱の水槽がテーブルになっていて、そのフチにドリンクを置いて一休み。

ふっ。ココアが傷ついた心に沁みるぜ。


「あ、また。写真を勝手に撮るなって」


「いいじゃん。だってカッコいいんだもん」


「……マジ?」


「ぷっ。冗談ですよ?」


「こいつ……!」


「イルカさんのクッキーあげる」


「それは、お前にとって家族の次に大切なクッキーだろう」


「そんなことない」


「食えよ」


「これは私からのクリスマスプレゼントです」


「そう言うなら、せっかくだし?もらおうかな」


「はい、半分こ」


「半分かよ」


私たちは次に、音と光に浮かぶ虹色の海月の世界へやって来た。

クリスマス仕様で華やか。

うっとりしちゃう。

ちなみに、海月はクラゲって読むんだよ。


「知ってました?」


「知ってた」


「むう」


「怒るなって。仕方ないだろう」


「創様は乙女心が分かってないんだから」


「へっ、俺には難しすぎて理解できねーな」


「だから彼女いないんじゃない?」


「ぐぬ、言ったな。俺はわざと彼女をつくってないんだよ。だってお前……」


「…………」


「お前がこわいから」


「何それ!?どう言う意味!」


「ストーカーねこ」


「ふしゃあー!」


「ここの魚は食べちゃダメだぞ」


「食べるかー!」


創様ってば、まったく失礼しちゃう。

こんなことで機嫌が悪くなったり嫌いになったりはしないし、むしろ楽しい。

この時間がいつまでも、この先も繋がって続いたらいいな。


「すっかり夜だな。いよいよメインイベントだけど」


「座席はすべて埋まってるね」


「なんかごめん」


「謝ることないよ」


俺たちは、面白おかしく巡り巡って最後にスタジアムへやって来た。

プールは直径約25メートルの円形で、どこから観ても楽しめるようになっている。

噴水やウォーターカーテンという仕掛けがあるのが特徴だ。


ここでメインイベント、クリスマスシーズン限定のイルカショーを観覧する。

十分前に来たけれど残念ながら席は埋まっていた。

仕方ないことでもへこむ。

意外と、うまくいかないものだ。

ここまで良い雰囲気だったのに。

麗嵐、まさかガッカリしていないよな。


「まーた落ち込んでる」


嬉しいから、ほっぺを指で突くんじゃない。


「だって、疲れてるだろうし。座って観る方がいいだろう」


「ううん。立って観る方がイチャイチャできるからこれでいい!」


「麗嵐……」


「落ち込まれると、こっちまで気持ちが暗くなるから、あなたもちゃんと楽しんでよね」


「だよな。いっしょに楽しまないとな」


「うんうん。少しは分かってきたか。えらいぞ」


「腕組むな!すりすりするな!」


「ご褒美だよ」


「そんなご褒美……ありがとうございます」


「うん。素直でよろしい。成長したね」


怒らせるから口にはしないけれど、創様はやっぱり犬みたい。

もっと色んなこと教えてあげたいな。

それで、たくさん褒めて愛してあげるからね。

ぐへへ……。


「わっ!雪が!星が降ってきた!」


「すっげえ……!」


まさに圧倒的なパフォーマンス。

最新のデジタルテクノロジーとクリスマスメドレーとドルフィンとヒューマンが織りなすクリスマスの物語。

永遠に心に残る感動をもらった。


会場の盛り上がりも凄かった。


麗嵐は俺に全身を預けて、声を上げてはしゃいでいた。

彼女の喜びは直に、しっかりと伝わってきた。

こんなに楽しんでくれたのなら俺も大満足だ。


「外さっぶ!」


「ううー夜はグッと冷えるね。でも雪が止んでよかったね」


「ちょっと残念だな」


「え?」


「そ、それじゃあ、時間がないけど次に行こう」


「ごめんね。遅刻しちゃって」


「いいんだよ。遅刻してくれたおかげで予定がズレて、夜のイルカショーが観られたんだ」


「そっか……」


「水族館、楽しかった?」


「うん!最高の贈り物をありがとう!」


「また一緒に来よう」


「もちろん、喜んで!」


私たちはモノレールに乗って、アートの街がある小さな島を目指す。

そこにはオフィスを中心に、さまざまなお店が集まっている。

レストランやカフェ。

アートギャラリーにイベントスペース、劇場まである。

なんと、テレビドラマや映画のロケ地としても有名なところなんだって。


「あ!ふれあい橋!ライトアップされて綺麗……」


「デートスポットで有名なところだな」


あれ?そこには行かないの?

私ちょっと期待しちゃった。


「大人になったら、そこにあるレストランで食事しよう」


いきなり未来のプロポーズを耳元でささやかれた私は立ったまま気を失い、創様に揺り起こされると目的の駅に到着していましたとさ。


結局、ここまで押せど押せど押し切れていない恋相撲小結の私。


もうすぐクライマックス。

私こそ素直になれ。勇気だして、がんばれ。

少女漫画を超えてゆけ。

恋を愛に進めるの。

それは小さな一歩でも、大きな飛躍である。


「はあ……はあ……」


「どうした?どこかで休もうか?」


「いえ……宇宙には酸素がなくて……月面着陸の前に酸欠になりそう……」


「こわ。なんの話だよ」


俺たちは駅から歩いて間もなく、豪華で壮大な回廊に入った。

ここには実物の立派なクリスマスツリーとイルミネーションがあって、クライマックスに向けてムードも気持ちも高まった。

結局、ここまで麗嵐にリードされっぱなしで、情けないことに犬の散歩みたいになっている。

最後に一発くらい男らしく勝負に出なくては、男が廃る。


回路を通って外へ、広々としたセンターコートに出た。

そこで偶然、3x3バスケのイベントをやっていた。

次が最後の試合らしい。


「猫はいないけど、せっかくだから見ていこうか」


「うん!」


ソリではなくクリスマスソングに乗って、トナカイカラーのチームとサンタカラーのチームが競う。

互いに角とヒゲを付けていて、ほぼコスプレ。

MCの解説もふざけているし、完全に遊びの試合だ。

それでも選手たちは迫真のプレーで観客を魅了する。

一進一退、見逃せない激しくも麗しい攻防を繰り広げる。


「このスピード感がたまんないんだよな。鼓動が急かされて、身体が突き動かされる。うずうずしてきた」


「ふふっ。すっかりバスケに夢中だね」


「ねこも大好きになったよ」


「私!?」


「ついにストーカー猫と認めたな」


「悔しい……!反応しちゃった……!」


「でも、今日はずっと隣にいてくれたし。もうストーカーは卒業でいいだろう。な?」


「そうだね。これからの私は、ただの猫。ボールになって、あなたに遊ばれる、ただの猫。うふ」


「うん。猫にこだわるのもお終いにしよう。とにかく。これからは、俺の隣にいてくれ」


「はうっ!今のセリフは……」


「そろそろ試合が終わるぞ。このままだと、サンタさんが勝つな」


「がんばれー!トナカイさーん!」


あぶねー。

こんなところで告ったら台無しだぞ、俺。

こらえろ。焦るな。

てゆうか告れねーよ。

ダメだやっぱ臆病者だ。

気持ちを言葉にして伝えるのって何でこんなに難しいんだよ。

両思い確定、の、はず、なんだよ、な?

だから……だから……!


「ちぇ、トナカイさんの逆転勝ちか」


「おめでとー。サンタさんも頑張ったよ。ぱちぱちぱんち」


「あ、もう六時半を過ぎた。少し急ごう」


「あんまり、みんなを待たせちゃ悪いもんね」


俺は麗嵐と腕を組んで板張りの遊歩道を運河を横目に散歩して、この島の隅にある水辺広場へ移動した。

幸いにも人がいなくてベンチが空いていた。

二人で並んで腰掛けると、麗嵐が肩に頭を乗せる、かわいい先制攻撃を仕掛けてきた。

グッと耐えて、しばらく運河の向こうに浮かぶネオンの明かりをながめる。


「麗嵐、今日はありがとう」


「こちらこそ。約束を守ってくれてありがとう。あの時、絶対に勝つって信じてたよ」


「絶対に負けられない戦いだったからな」


「ふふっ。まだ根にもってるの?」


「ううん。犬派も猫派もどっちも素晴らしい。上も下もない。まるでサンタとトナカイのような関係、それでいいんだ」


「変な例え」


麗嵐はくすくすと笑う。

そのあと、また静かになる。

時間だけが過ぎていく。

それも残りわずか。

彼女の表情は見えない。

だから、もう我慢ならずに。


「創様!?」


あごくい!

相手の顎をつまんでクイッと持ち上げて至近距離で向かい合うそれはきっと飛鳥時代より伝統ある求愛行動!

これでいいの。これで。

やっぱり私は、あなたからアプローチを受けたい。

だって少女漫画にあこがれる乙女だもん。


「創くん」


俺は初めての、くん付け、に胸が詰まった。

乱れた前髪。潤う瞳。揺れるまつげ。

そして紅を差した、あでやかな唇。

これはずるい。反則だ。

あまりにドキドキして胸が痛むようだ。


たまらず麗嵐を抱きしめた。


心臓が、ぎゅっと締め付けられて、胸の内が、燃えるようにカッと熱くなって、それから、ゆっくりと安心感が湧いてきて、じんわり温かくなる。

これが、愛おしいという気持ち。


「麗嵐。大好き。本気で愛してる」


よし!ロボットみたいで早口だったけれどついに言った!よっしゃ!

俺がんばった!えらいぞ!

ああーかわいくてたまんね!すき!すき!すき!

あとは勢いだ!いくぞいくぞ!

いけ!いけって!ほら!いけよ!いけえええ!!


「嬉しいけど、ギブ。痛いし苦しいです」


「ああ、ごめん。緊張してつい力が入った」


身を離して、ちょうどいい距離感。

はあーびっくり。

あぶないあぶない。

リアルに萌天するところだったよ。


次は、私が想いを返す番。


創くんが切なそうに私を見つめる。

きゅん。かわいすぎか。

彼の唇が、もどかしそうに震えている。

もう仕方ないな。

冷たさで驚かせないように、そっと頬に手を添えて。

ふうー……あとは勢いだ!おりゃあああ!!


「ぎゃふん!」


「メガネがっ!メガネがあー!」


「いてて、ごめんね。大丈夫?」


「だいじょばない……勢い強くね?」


「だよね?えへへ、つい緊張しちゃって」


私、春麗嵐、メガネを掛けているのを忘れて痛恨のミス。

その後お互いに笑っちゃって、さっきまでのロマンチックなムードは風にさらわれちゃった。


「来たよー!遅くなってごめんなさーい!」


「オジサン、遅れてごめん」


「いいよ。おかえり。外、寒かったでしょう」


「うん。あ、ねえ、あのあの」


「どうしたの?」


「赤ちゃん、いる?」


「ざんねん。実家に帰ってるよ」


「そっかあ……。お母さんも一緒だよね」


「うん。でも、年が明けたら二人に会えるから落ち込まないで。さ、部屋に行こう」


少女漫画に負けないデートを終えた私たちはオジサンの家を訪問。

今年もみんなでクリスマスパーティーだ。

ああーお部屋あったかーい。


「もうすぐ、ご飯の用意ができるからね」


「わーい!あ、手伝います!」


「いいよいいよ。座って待ってて」


「ええーでも」


「休んでいいよ。今日の主役は二人なんだから」


「そうだぜ」


クロが、チキンが山盛りに乗った大皿を抱えてきた。

ニヤニヤ笑っている顔を見て俺は身構える。

こいつ絶対にからかってくるつもりだ。


「やっと付き合ったんだからな。素直に祝福するよ。おめでとさん」


「私、やっぱりお手伝いします」


麗嵐が素早くキッチンへ逃げた。

俺も今すぐ後を追いたい。


「はんっ、照れやがって」


「聞いてくれ。クロ」


「ん?」


「俺たち、まだ付き合ってないんだ」


「は?」


コトリ。

テーブルに皿を置く音が小さく響いた。

そりゃ、そういう反応になるよな。


「どうしました?」


「ぷぷっ。よく聞け、奏。こいつ告ってないってよ。ははっ。犬飼創。あんたは、どこまでヘタレな男なんだ。はっはっはっ!」


「笑うな。理由があってチャンスを逃したんだ。それより奏の方こそどうした?」


奏は黙々と、テーブルに取り皿を並べていく。

俺は辛抱強くそれを見守り待つことにした。

しかし、待ちきれないクロが口を開いた。


「奏がどうした。おい」


「何でもありません」


「こいつもデートしてたぞ。水族館でばったり会ったんだ」


「は?」


クロは膝を落とした。

そりゃ、そういう反応になるよな。

一人だけデートしていないし。


「で?冬さんに告ったのか?」


「俺も気になる」


両手にサラダの入ったボウルを器用に持って零が登場。

危なっかしいから一つ引き受ける。

クロは四つん這いになって、うなだれている。

友よ、すまない。

お前をひとりにして恋愛を楽しんだことに罪悪感を感じて抱いて覚えるよ。


「零くん。まじめに答えてほしいことがある。君にオススメされた水族館に行ったら二人と出くわしたんだけど……もしかしてワザとかな?」


奏の顔こわっ。

対して零は、よくクールでいられるな。


「まさか。違うよ」


「嘘つけ。お前、麗嵐から水族館の予定を聞いて奏に伝えたんだろ。そうなんだろう。白状してもらおうか」


「洗いざらい吐いてもらうぞ」


奏と挟むように肩を組んで零を逃がさない。

今日はイタズラが過ぎた。

こいつめ、簡単に許すわけにはいかないからな。


「ごめんなさい。実は、奏さんから相談を受けた時に、もし二人が出くわしたら、お互いに意識して恋心が燃えるかなって考えたの。本当だよ。二人の助けになりたかったんだ。信じて。悪気はないの」


可愛い顔して平気でウソを吐く。

まったく困った後輩だ。


「やれやれ。それは、あまりにお節介だよ。でも、二人とはエントランスで出会って別れたから特別に許してあげよう」


奏は甘い。そこがまあ、いいところ。

優しい先輩で助かったな。


「え、そうなの。どうして?」


「春が遅刻したんだよ」


「あちゃーそうだった。残念、しくじった」


二人で本性を表した零の頬をグリグリして懲らしめる。

今日こそ、しっかり反省してもらおう。


「こらこら。料理を前にして暴れないの」


シチューの入った皿を運んできたオジサンに叱られた。

俺も、そろそろ手伝わないと。


「オジサン、助けて」


「何したの零くん。優しさに甘えて、あまり迷惑を掛けちゃダメだよ」


「……反省します」


「本当に今日だけ許してやる。お前、ちゃんと反省するんだぞ」


「はい。兄さん」


「俺も怒るときは怒るよ。たまには、人の役に立つ良いことをしなさい」


「奏さん。俺、今日いいことしたよ」


「ん?何したんだ?」


「ひとりぼっちで可哀想だから、先輩と遊んであげた」


「それで、早くに出かけたのね」


「うん。先輩が作ってくれたオムライス美味しかったよ」


「良かったね!ありがとう、クロ様!」


麗嵐もシチューの入った皿を運んできた。

俺は手伝うために立ち上がった。

クロは致命傷を受けて横になっている。

気を落とすな。元気出せ。

お前は若いしモテるし、人生はまだまだ長い。


「創くん」


「ごめんオジサン。そろそろ手伝うよ」


「あ、うん、ありがとう。それよりも口」


「口?」


「ケチャップついてるよ」


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