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29話 東日本エリア大会!

十二月も半ば、ねこがコタツで丸くなることが日常になったある日。

ねこバスケ東日本エリア大会が満を持して開催された。


ところで、エリア大会は「東、西、中」の三つあり、それぞれに選ばれた舞台で競技する。

東西は上位五チームが、中は上位六チームが日本選手権へ進むことができる。


東日本エリア大会では十二のチームを四つのクラウダーに組み分けて、三チームが総当たり戦で競う。

エバーマスカレードはCクラウダーに当選した。

厳正なるクジによって……。


「うわあ……!すっげー広いじゃん!」


「恥ずかしいからよせ」


「クロ、ほら。なあ見てみろよ。ほらほらほら!」


「うん。見てる。はしゃぐな」


「マジでショッピングモールでやるんだな!何かよく分かんねーけどワクワクする!」


3x3(ねこ)バスケはその会場が特別なことも一つの特徴だ。

公園はもちろん、商業施設や駅前、キャンプ場に港、町のランドマークから歴史ある神社まで。

実に様々な舞台が用意され、DJがかける音楽が試合を盛り上げて、MCが選手や試合を解説してくれる。

そう。まさにエンタメスポーツなのである。


今年に選ばれた舞台は四つのビルに分かれた巨大商業複合施設。

ショップ、レストラン、ジム、オフィスなど様々な機能を持つ。

そのなかでも代表的なのがアトリウムと呼ばれる大規模な空間。

白で統一した宮殿風の装飾が魅力で、ガラス屋根に覆われた、高さ四十メートルもある開放的なイベントスペースになっている。

そこに人工芝生のコートが一つ特設され、段々の観客席も設けられスポーツの試合会場として申し分ない。


試合は三日にわたって行われる。

お昼前に始まり、優勝争いは最終日の予定だ。


「創様ってば、子供みたいでかわゆい」


「こら。写真を撮るな」


「いいじゃないですか。皆様の思い出は、私がちゃんと写真に残しますからね」


「まあ、思い出は大事か」


「そうですよ。そのための私です!それぞれのアルバムを隙間時間に作っているので楽しみにしていてください」


「え、そこまでしてんの?全員分?」


「もちろん。王子様の思い出を残さない間抜けな乙女ではございませんので」


「そっか……いつの間に……うん。なんかありがとう」


「嬉しくなさそうな言い方!」


「ははは!嬉しいよ。ほんと。本当に楽しみにしてる」


「ならいいですけど」


初戦の前にハイカラなカフェで、ランチを食べながらミーティングを行う。

窓からは試合会場が一望できた。

しっかりと組まれた立派な会場を見渡すと、自然と気持ちも高ぶる。

ちょうど一戦目が始まったところで、ユーロビートのBGMとMCの解説が静かに響く。

創は窓に張りついて無邪気に目を輝かせた。


「創くん。試合が楽しみ?」


「すっげー楽しみ!だって最高の舞台だろう」


「うん。そうだね」


「オジサン本当にありがとう。俺、ねこバスケ始めてよかったよ。みんなにも感謝してる。最高の仲間のおかげで、最高の景色が見れた!」


「それは表彰式の舞台で言うセリフでは?」


「ああー言われてみれば。あはは。奏は、やっぱり頭いいな。うらやましいや」


「兄さん。今日なんだか様子が変だよ」


「え?そんなことないよ。はい、ハンバーグひとくちあげる!」


「もしかして浮かれてる?」


「違うよ、零。創様は、すっごく緊張しているの。でもね。その気持ちをハイテンションで誤魔化しているんだよ」


「さすが姉さん」


「言うなよ麗嵐……」


クロが腹を抱えて笑う。


「ハイテンションで誤魔化してきたか。そういうことか。こりゃ笑えるぜ。またビビってんだ」


「は!?ビビってねーし!ぜんぜん不安じゃねーし!」


「まあ、でも初戦から強敵だもんな。その気持ちわかるぜ」


初戦の相手はAKATSUKI=JP

みな大学生で、身長が百九十センチを超える選手が二人もいる。

彼らの通うTOKYO宙船大学は、宇宙ビジネスを夢見る学生の多い工学系総合大学であるが、スポーツの名門校としても名高い。

合コンでは、結局どっちを極めたいの?

工学?部活?それとも私?

と彼らに問うのが習わしである。

そうすることで狙っている彼といい感じになれるらしい。


「これが私の収集したデータになります」


言い終えた麗嵐は、メガネをインテリジェンスにつまんで得意気に胸を張った。

静寂のなか、オジサンがそっとコーヒーをすする。


「姉さん。最後の合コンの話いる?」


肉親である零が、誰もが目を逸らし踏み込まなかったデリケートな領域へ単身、遠慮なく突撃した。


「ああっ!私としたことが個人的なメモまで読み上げちゃった!恥ずかしい……!」


「なにメモってんだよ」


「安心してください創様。私は一途ですから。合コンには絶対に参加しません!」


春の堂々たる大宣言。

つい、オジサンが小さく噴き出してしまう。

奏は創の肩をガッツリ掴んで引き寄せると耳もとでささやいた。


「よかったですね」


「んなあー!そんなことよりも大学生が相手とかズルくね?」


「アンダー18だからね。十八歳までなら大学生でも参加が認められるんだよ」


「オジサン。それがズルいっての」


「そう言う創くんだって、県大会では年下の中学生相手に戦って勝ったじゃない」


「言われてみれば確かに……」


「納得した?」


「うん。しかし、あいつら中学生でも強かったな」


「そうなんだよ。中学生でも大学生でも関係ない。君が戦う舞台は、残酷なくらい実力勝負の世界なんだ」


「つまり、俺たちは勝てるかも知れないってこと?」


「かも、でいいの?」


オジサンに問われた創は視線を巡らせる。

そして、うつむき目を閉じた。

それから短く息を吐いて上げた顔、その瞳には決意が満ちていた。


「勝ちたい。だから、全力を尽くそう。いけるところまでいこう」


創の言葉に、みな頷く。

麗嵐は微笑んで小さな拍手を送った。


「オジサンが夏合宿の時に贈ってくれた言葉あるだろう。あれさ、ずっと俺の胸の中にあって、いつも大事な場面で背中を押してくれるんだ」


「よかった。君の力になれて嬉しいよ」


「俺、自信持ってがんばるよ」


「うん、その調子だ。創くんのシュートは、とてもキレイで精度が高い。君が決めるツーポイントが勝利のカギになる。最後まで自信を持って打つんだ。いいね」


「はい!」


「奏くん。君のフィジカルは力強い。そしてジャンプ力を鍛えた今は攻守どちらとも頼りになる。自信を持って、みんなを助けてあげて」


「任せてください」


「零くん。君は賢くて、臨機応変なプレイが得意だ。君こそ、このチームの要と言ってもいいだろう。先輩たちに遠慮しなくていいから、自信を持って積極的にプレーしよう」


「分かりました」


「クロくん。君が一所懸命に磨きあげたドリブルは、チームの追い風だ。大丈夫。才能あるよ。自信を持って自由に、君が望むバスケをやろう」


「ありがとう。精一杯やるよ」


これまで誰よりも側で指導して、誰よりも強く信じて、誰よりも温かく見守ってくれたコーチから励ましを受けて、みんなの胸で燃える闘志が熱を増した。


「努力が実らないことはあっても、努力は裏切らない。いつだって君たちの味方だ。さあ、全力を尽くして楽しもう!」


王様のやさしい眼差しに見送られて、王子様たちはいよいよ東日本エリア大会の舞台へ躍り出る。


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