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22話 県大会決勝戦!

午後の試合前。

夏梅神社に伝わる猫鬼の物語を、神楽鈴の清らかな音色と、繊細で麗しい舞いで再現した能楽が披露された。

その後にBクラウダーの試合が行われた。

勝利に燃える選手達の情熱は青空まで届いて、やがて温かな茜空へ塗り変えた。


そして、いよいよ。

3x3ねこバスケット県大会U18その決勝戦が始まろうとしているにゃ。


Aクラウダー決勝戦。

先にバスケットボールを使用してウォーミングアップを行うのはエバーマスカレード。

WISH PUPの選手、独尊はチラチラと相手の様子をうかがう。


「バーマカレー、大したことなさそうっすね」


「バーマカレー?さっき食べたカレーのことか?」


「やだなあ天さん。違いますよう。アイツらっすよ。アイツら」


翔天は相変わらず意味不明なことを言う独尊の言葉に首を傾げる。

一方で独尊は胸を張って自信満々に説明する。


「チーム名がエバーマスカレードでしょう。略してバーマカレーっす!」


「頭下げてこい」


「何でっすか!?」


「独尊くん。彼らを甘く見てはダメだよ」


「楽さん見て分かんないんすか?俺らと違って、身長が百八十超えてんの一人だけっすよ。余裕っしょ」


「そうやって甘く考えて、これまでの試合で苦戦したよね?痛い目みたよね?」


おっとりした性格の王道楽士が普段見せない厳しい表情をしたので、天下一お気楽な独尊もさすがに肩をすくめた。

翔鎮もまた彼のために厳しく叱る。


「相手が誰であろうと甘く見るな。常に格上だと覚悟して構えろ」


「すんませっしたっ!」


直角に下がった頭を翔天が軽く撫でてやる。

楽士は雰囲気を和ませるように軽く手を打った。


「さて、大事なことを話そう。みんなよく聞いて。彼らのコーチは、ねこバスケ日本代表に選ばれて東京オリンピックを舞台に世界と戦った水嶋選手だ」


「それは本当か?」


「確かだよ翔鎮。僕は、水嶋さんが彼らと合流する姿を見たんだ」


「ええーマジっすかそれ。ちょー辛口じゃないっすか」


「カレーにこだわるね……」


「俺様、カレーが世界一好きなんで!」


「そう言えば、水嶋さんもカレーが好物らしいよ」


「ええーマジっすかそれ。こりゃもう運命っすわ」


にわかにオジサンが身震いする。

隣に並ぶ麗嵐が背中をさすってあげた。


「寒い?」


「うん。かなり冷えてきたね。春ちゃんは寒くない?」


「平気です」


「もしかして緊張してる?」


「……そうですね。決勝戦なので」


「大丈夫だよ」


「私……信じています!」


交代してWISH PUPがウォーミングアップを行う。

観客席で彼らを見守る少女が小さく息を吐いた。

寒いのが苦手な藍は緩んだマフラーを、ぎゅっと巻き直す。

それは不安や緊張の表れでもあった。

藍は祖父の教えを思い出す。


「無畏の境地に至りなさい」


ムイとは、確信してオソれを持たぬこと。

自己を存知して、学習して、変革する。

それは修羅の道の如し歩むこと実にも厳しい。


祖父はそのような難しいことを繰り返し彼らに説教していた。

そして、それを助力する役が藍にあると付け加えて言う。


犬のように良き伴侶となりなさい。


それが藍にとって面白くないことでも受け入れてきた。

助力したいのは本心だから。

彼氏のことを愛している。

友達も先輩も大好き。

だから、もしも、をつい想像してしまう。

藍は、それを振り払い、指を組み目を閉じて静かに願うのだった。


「創、見ろよ」


たったひとり学生服を着て、黒髪の毛先を金色に染めた少女。

クロが、ふと観客席を見て目立つ存在に気付いた。


「ギャルだ」


「どこ見てるんですか……それに失礼ですよ……」


クロの思わぬ発言に奏が肩を落とした。

二人はシュートを打ちながらも言葉を交わす。


「きっとオシャレで制服を着てるんだろう。あれは真面目系とか清楚系とかいう風に呼ばれるギャルだぜ」


「よく見抜いたな、それに詳しい。もしかして、ああいう子がタイプなのか?」


「違うわ」


「ダメだぞ。お前、麗嵐のことが好きなんだろう」


「あ?一年前にフラれたわ。あんたこそ好きなくせに、いつまでウジウジしてんだ。見ててイライラすんだよ」


「はあ?別にウジウジなんかしてねーし」


「マジで女々しいやつだなあ。かわいそうだから、二度と春の名前を口にすんじゃねーぞ」


「なんだと!」


「ねえ、奏さん」


「ん?」


「二人が喧嘩するのはチームのルーティンなの?それとも勝利のジンクス?」


「ははは……」


零の悪戯な冗談を受けて、今度は小さく吐息をもらす奏であった。

一方で、創とクロは気持ちを切り替えて真面目に作戦会議をはじめる。


「得体の知れない相手と戦うってのは不安だよな」


「それは相手も同じだろ。あいつらの試合を観戦できなかったけど、オジサンと春のおかげで情報は得た。僕たちは有利だぜ」


「そうかな……」


創は口を結んでしおれた。

そんな彼を励ますようにクロは肩を組んで激しく揺らす。


「どうした?急に弱気になって、あんたらしくない。さっきまでの威勢はどこいったんだよ」


「自分でも不思議だよ。急に負けるのが怖くなってきて、ここでぜんぶ終わるかも、て思ったらさ……」


「バーカ。負けも終わりもあるかよ。あんた、そもそも負けることより、あいつに格好つかないこと気にしてんだろ」


「参ったな。このタイミングで意地悪言うなよ」


「別に意地悪言ってねーよ。実際そうなんだろう。あいつの期待を裏切ること、あいつが落ち込むことを気にしてんだ」


「そう、かもな。そうだな」


「俺は勝ちを譲るつもりはありません。この試合は交代なしでいかせてください。相手はフィジカルが強くインサイドプレイを得意とします。それを俺が体を張って止めます。任せてください」


「そこまで言うなら頼りにするぜ、奏。僕は」


「先輩は俺と交代を繰り返して、ドリブルとパスに集中しよう」


「のった。ただし、ビビってシュートを打たないのは無しだ。攻める時は攻めるぞ」


「そのつもりだよ」


「えーと。じゃあ、俺は」


「兄さんはアウトサイドからシュートを狙って」


「この作戦、極端じゃない?」


「あくまで基本となる戦術です。もちろん臨機応変にプレーしましょう。とは言え、やはり積極的に攻めたいですね」


「だな。了解した」


「万が一に外しても、俺が全力でリカバリーします。自信もってシュートを打ってください」


「おお……熱い。今の奏は、いつも以上に頼もしいよ」


「勇気を出して友達を作り、勇気を出してねこバスケを始めた。自分で選んだ道。たくさん勉強したこと。その意味を求め意義を知る。将来の道標になる、俺の人生にとって大事な機会。だから……!」


奏は駆け出して力強いダンクを決めると、爽やかな笑顔で振り返った。


「かなり気合い入ってますよ!」


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