21話 ねこと友情
うちは集真藍、高一。
オシャレとチーズがめっちゃ好き。
週三美術部、週二寺子屋で勉強してる。
うちには特別な家族がいる。
オシキャットていう猫で。
名前は、わらび餅のわらび。
可愛いっしょ。
同じクラスの子が引き取ってくれる人がいなくて困ってたから引き取ったけど、ペット禁止のマンションだからうちじゃ飼えないって。
だから、近所に住んでるジイジに頼んで寺で飼ってる。
犬の寺なのにイイって言ってくれたことマジ感謝してる。
うちはそのお返しに毎日、朝、源五郎の散歩に行ってる。
源五郎は柴犬で小さい時から家族。
うちにとって、ニイニでパピーで今はジイジ。
夕方は学校帰りに寄って、わらびと遊ぶんだけど。
寺のみんなから、わらびの様子を聞いて日記にまとめてる。
その辺はちゃんとしてる。
動物を飼う責任はマジ大事。
「わらびー!あんたは今日もキレイねえー!」
わらびの毛はサラサラで、ヒョウ柄模様のオシャレさん。
うちはそこに一目惚れしたの。
わらびも、あたしゃ猫界の小野小町や、て自信満々だと思う。
ちな小野小町は世界三大美女の一人って今日習った。
残りの二人は忘れた。
てかさ。
わらび、二年でめっちゃ大きく成長した。
抱っこするとけっこー重い。
わらびを膝に乗せて、うちは勉強する。
勉強も大事。ギャルはバカ、て言われたくないしマジ気合い入れてる。
「ちゃす!」
「挨拶はちゃんとしなさい」
今ジイジに怒られたのは同級生の由比ヶ浜独尊。
こいつは自信過剰でマジうるさい。
しかもバカだから先輩のアドバイスでここに通って勉強してる。
「遅れてすみません。すぐ準備します」
「先生。月謝を持ってきました」
「うむ。確かに預かりました」
五木翔天と翔鎮。
二人は双子の先輩で高三。
天さんはスポーツが得意。学校でまあまあ人気ある人。坊主でもスポーツできたらモテるみたい。
鎮さんは大人しい人。悪い人じゃないんだけど、ロン毛だしなんか暗いからちょっち苦手。
「藍。わらびは今日も元気?」
「うん。今日も元気。さっき、さくらんぼ食べたって」
「そうかそうか。良かったなあ。わらびさんや、本当におとなしくて可愛いのう」
王道楽士。
楽さんも高三で、うちの彼氏。
おっきい体でぽっちゃりしてるのがトト…トロ……何だっけ。
みたいで、とにかく可愛くて落ち着く。
それに運動できるし頭も悪くないから尊敬してる。
あと人間にも動物にもお花にも優しいところがほんと大好き。
わらびにデレデレ。
「課題おーわり!俺様が一番!先輩お先っす!」
ドタバタすな。マジうっさい。
裏庭に出てってくれてよかった。
そこにはバスケゴールがあんだけど。
男たちみんなバスケ部だし、わらびがいるから、ジイジに誕生日プレゼントでお願いしたら用意してくれた。
ジイジめっちゃ優しいから大好き。
赤ちゃん産んだら一番に見せたい。
「それでは、練習を始めよう」
「っす!先生よろっしゃす!」
ジイジは住職だけじゃなくて寺子屋っていう塾の先生もやって、バスケの指導までやってる。
バアバも先生で、ジイジがバスケを指導する時はバアバが勉強を教えてる。
てか、ジイジはバスケ素人なわけ。
そしたら教えられるわけないじゃん。
先輩が指導したらいいじゃんて思うじゃん?
でもバスケの本めっちゃ読んで勉強がんばったから大丈夫。
しかも先生だから教えるのが上手で、それで先輩たちも指導を受けてるってわけ。
もちろん、先輩から先生にアドバイスすることもあるよ。
そうやって助け合ってやってんの。
いいチームっしょ、うちら。
「大事な初戦だ。頼むから気を抜くな独尊」
「え!俺だけっすか!?天さん俺ガチっすよ」
「あんたには目立とうとするクセがある」
「ちぇ。鎮さんまで、ひでえや。だってね。そりゃあ俺は一年っすから。試合に出るために目立って何が悪いんすか。俺だって頑張ってんすよ」
「まあまあ。あんまり気を張るのもよくないからね。リラックスしていこう。僕は独尊くんをムードメーカーとして頼りにしているよ」
「楽さん……!プレーも頼りにしてください……!」
すっかり秋だなあ。山だし、まあまあ寒いんだけど。
でも、うち意外とね、秋は好き。
かぼちゃのスイーツがマジでうまいから。
このパンプキンクレープもマジで最高で、あ、試合はじまる。
相手は蓮華町エクストリーム商店組合だって。
名前ながくない?
てかさ大学生二人もいんじゃん。
ズルくない?これアリ?ヤバくない?
もうヤバ超えてユバなんですけど。
「相手チームの名前かっけえすね。俺らも寺町アルティメット寺子屋寺子に変えてえなあ」
「それは頭が痛い。そんなことよりもだ。もし実力不足なら、すぐにでも翔天と交代してもらうぞ」
「鎮さんマジ厳しいー。でも俺、二人の期待に必ず応えてみせるっすよ」
「ふん、あんたに期待はしていない」
「またまたー。分かってんすよ俺」
「こほん。独尊くんや」
「何すか楽さん」
「戯れもほどほどにね」
「っす。さあ気合い入れていきやっしょう!」
あいつ、やる気は誰よりあんだよね。
それに誰よりバスケを楽しんでる。
だから、天さんも鎮さんも独尊なんかに付き合ってあげてる。
ムカつくけど、あいつバイブスだけは半端ないかんね。
ほら、さっそく勢いで得点した。
まあまあ実力あんのよ。
バカなのに。
「ファイッオー!アゲてこー!楽さーん!」
うちの彼氏マジでちょーカッコよくない?
マンションみたいに大きい身体でディフェンスしたら相手なんもできない。
大学生二人より大きいからね。
ヤバいっしょ?
シュートもうまいし、パスもうま。
ねえほんとヤバくない?
「君に賭けることに決めた」
「天さん……!ここにきてマジ?やば泣きそうまだ初戦なのに」
「大真面目だから聞け。相手チームは二十二点まであと少しのところへ迫っている。いまフリースローを決められたので、ここで四点を素早く返さなければならない」
「何言ってんすか。返すなら勝つために五点っしょ。決めてやりますよ。見ててください、俺様の神テク神プレー!」
「……ふっ。面白い。思う存分やれ」
「楽さんパス!」
「おおーい!どこ投げてるの!?」
「すみませっした!」
「賭けは二度と止そう」
あぶな。ギリじゃん。
冷や冷やさせんなよ独尊。
あんたのせいで楽さんが負けてたら、うち、マジでキレてたよ?
あんたの伸びた鼻を折るくらい、うちの猫パンチで簡単にできんだからね。
あれ?嘘ついてないのに何で独尊の鼻が伸びてるんだろう。
……。
…………。
………………。
だる。どうでもいいわ。
「ジイジに勝ったよってメッセと写真送っとこ」
次の対戦相手は高校生三人と中学生一人。
幸村塾ねこバスケ倶楽部。
へえーライバルじゃん。
向こうも塾生?四人ともメガネでガリ勉?
ちょっち強そう。
まあでも、うちらが負けることはないっしょ。
「ライバル登場っすよ。しかもメガネ。マジ強そう。けど、バスケも勉強も負ける気しねえ」
「君は水曜日に補習を受けて部活に遅れたことをもう忘れたのか」
「忘れました。俺様、過去は振り返らないのがアイデンティーなんすよ」
「ふっ。アイデンティティーだ。色々と言いたいことはあるが、一つにしよう。いったいこれまで愛願寺で何を学んできた?」
「やだなあ天さん。天さんが一緒に勉強しようって誘ってくれたんじゃないっすか」
「君の担任に頼まれてな。しかし成果は実らなかった」
「めっちゃ実ってますよ!アルティメット豊作っす!国語の試験で八十三点も取ったんすから。俺は英語だけ、ちょーっと、苦手なんす」
「バスケは何の略だ?」
「もしかして鎮さん知らないんすかー?」
「さてな。答えてみろ」
「あれっしょ。あれ。バス、バス、バス……ケは何の略だ……?」
「次の試合は下がっていろ」
「何でなんすか!」
「絶対に勝つためだ。あんたがいると気が散る」
「ひっでえー。楽さん、二人に何とか言ってやってください」
「ワンフォーオール!オールフォーワン!」
「今は犬の話はいいっすよ。何すかそれムカつく。ふざけないでください。俺、マジなんで」
「ワンは犬の鳴き声じゃないよ……」
ちょ独尊。試合前に楽さん困らせんなし。
天さんも鎮さんもシンクロして頭抱えてんじゃん。
なにを言ったら、ああなんの?
どんだけバカなこと言ったん?
後で問い詰めちゃる。
「勝ったー!俺様マジ大活躍!ね!天さん鎮さん楽さん!俺やるって言ったっしょ!ね!ね!いやマジで凄くなかったっすか!?」
あいつカエルか。
ダンクめっちゃ決めたのは確かに凄かったよ?
けどディフェンスついていけてなかったし、パス出すの下手だし、それでムキになってダンクいったよね?
「ようし。さっきの試合で先輩たちに迷惑かけたこと説教しちゃる」
「いいんだよ。藍」
「楽さん。何にも良くないよ。うち許せん」
「一人は皆んなのために。皆んなは一人のために、だよ。人によっては、皆んなで一つの目的のために、と訳すこともあるね」
「つまり、どういう意味?」
「勝利という目的のために助け合うことが大事なんだよ」
「そんな当たり前のことくらい、うちにも分かってる。けど、あいつ足引っ張ってばっかじゃん」
「藍から見て、そう思ってしまうのも仕方ない。しかし、独尊くんの名誉のためにも一つ伝えておこう」
「教えて。あいつなんか良いことした?」
「独尊くんがムキになってガムシャラに突っ込んだことで、残る二人はフリーになって動きやすくなったんだ。彼は相手の注目の的だったからね。そして彼は、相手よりもフィジカルが強かったから、前に前に出ても押し負けることはなかった。パスが難しい。シュートも難しい。それならいっそ切り替えて、強引でも攻める。この判断もとても良かった」
「たまたまっしょ。あいつバカだからそこまで絶対かんがえてない」
「結果オーライ。勝ったんだ。彼の才能を褒めてあげよう」
「楽さん優しいね。マジ愛してる」
「僕もさ。やあ、照れるなあ」
楽さんの言う通りかもね。
あいつバカでも頑張ってんだもん。バスケも勉強も。
天さんと鎮さんは厳しいから、うちがちょっとくらい認めてやって褒めてやるか。
「ただいまー」
「おかえり、あずさ!これ見て!天さんと鎮さんが昼メシおごってくれたんだ!俺めっちゃ嬉しくて嬉しくて!今日が人生のクライマックスだわ!いやマジで!」
へえー。そう。良かったね。
けど、天さん鎮さん甘やかしちゃダメですよ。
こいつすぐ調子乗るんで。
あーけど。そっか。そういうことね。
勝つためには、こいつに調子に乗ってもらわなきゃなんか。
さすが先輩たち。かしこい。
「じゃーん!カレーライスとカレーうどん!ヤバくね!めっちゃ贅沢してる!」
本物のバカじゃん。
「うちも、これあげる。ほい。かぼちゃコロッケ」
「え……」
「なに?」
「風邪ひいた?」
「はあー?バッカ。これは頑張ったご褒美。言わせんなし」
「え!マジ!?え!楽さん貰っていいんすか!?」
「僕に断らなくていいよ」
「あ、けど一個しかねーじゃん。それはお前に悪い」
「はあーーー」
「クソでかため息やめろよー」
「いらんなら、くれてやらん」
「もらうもらう!サンキューあずさ!」
次の試合も頑張んなよ。
楽さんの気持ちを裏切ったらマジ許さないからね。