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深紅戦記  作者: 芋けんぴ
4/4

4話 買い物と騎士

手合わせを終え家に戻り夕飯を作る用意をしようと棚を開けると、出かける前まであったはずの肉や野菜にパンや米、魚にチーズ、調味料以外ひとつ残らず無くなっていて、雄介は目を見開き後ろの机で刀の手入れをしているジークに


「なんか食べ物全部ないんだけど!?」


と声を上げる


「あ…ごめんお前との手合わせの前に腹減ったから食べちまった。いやさぁ昨日まで結構遠方の方に用があって、その道中で色々あって3日ぐらいなんも食べてなかったんだよ」


「マジかよ……3日食って無いとはいえ、ここまで来るともはや怖ぇな…」


「いや3日ぐらい何も食べなかったら誰でもこうなるって」


「ジークさんが食べた量俺の一週間分だぞ…どうなってんだか…」


「引くな引くな悪かったよ。あっ、そうだ手合わせ負けたペナルティで買い物行って来てくんね?店には連絡入れておくからさ」


「いやいやこっから街まで、さらにそっから店までどんだけあると思ってんだよ!10kmはゆうにあるぞ!?」


その返答に対しジークはすんなりと


「これも修行の一環だと思ってさ、ね?夕飯好きなもの食べて来ていいから!後店長によろしく!」


そう半ば強制的におつかいが決定したのであった


↓ ↓ ↓


<商業都市ハノイ>

王国最大の都市であり、衣服に食材、武器や書物など様々なものが集まり最も栄えていると言われる都市である


活気に溢れ笑いが絶えないこの街はまさに平和と言うにふさわしいと、王国騎士団員:新堂薫は窓から市場を見ながら思った


「おーい新堂」


自分の事を呼ぶ声を聞き振り返る、同じ騎士団の仲間であり同期のソウゴとアインだ

ソウゴは自分の茶髪をいじりながら、アインは腰の騎士剣の持ち手に手を置きつつこちらにやって来る


「2人揃ってどうしたんだよ、街の巡回はもうちょい後だぞ」


「お前ホント真面目だよなぁ、飯だよ飯!どうせ何も食べて無いんだろ?」


「腹が減っては戦は出来ぬってやつだよ、付き合え」


「はいはいわかりました…よっ」


椅子から立ち上がり、騎士服を整え2人の横に並んで歩き出す

「戦は出来ぬって、戦なんて起きないだろ」そう心の中で呟いた、だがそれも

すぐに友との何を食べるかの会話によって消えてゆく…


一方、ハノイ中心街のはずれにある店リアス商店

その店の中で雄介は店主と話していた


リアス商店は街外れの小さな商店だ、主に日常品や食材を取り扱っていて

ジークが昔から世話になっている店だ、最近では雄介も世話になっているが店に来る

のは久しぶりで、それこそ4、5年ぶりぐらいである


「ひっさしぶりだなぁ雄介、何年ぶりだ?元気にしてたか?」


そう言われ少し笑って答える


「お陰様で、リアスさんこそ元気そうで何よりです」


「俺は見ての通り元気いっぱいだよ、店も前より事業を広げたりして何とかやってる。

おっと忘れてた

 ジークに頼まれた物、もう少しかかるからもうちょっと待っててくれ」


「了解しました」


「ここで待ってるのもアレだし街でも行って来るか?2時間くらいで戻ってきてくれたらいいし」


「じゃあ……お言葉に甘えて」



そう頷き店の中を見回す

数年前に比べて新しい物や珍しい物が増え、魔術本や魔鉱石、食べ物、剣、様々なものが飾って

あり、その中には前に本で読んだ物もあった

それらを一通り見て店を出る


「さて…久しぶりに中心街の辺回ってみるか」


そう言い雄介はハノイの中心街へと向かった


↓ ↓ ↓



「新堂はさ、戦いが起こると思うか?」


友からの唐突な質問に少し驚くが

口の中の肉を飲み込み、口元を拭いて答える


「さぁな、でもいつ来るか分からないそれに備えることはできる。だから鍛錬は続けて

損はないと思う」


「うはぁ…相変わらず真面目だねぇ…」


返答を聞いたソウゴのしかめた顔を見て、思わず吹き出しそうになる

何か言いたそうなソウゴを横目にアインも少し笑いながらその意見に賛成する


「確かに薫の答えは間違いじゃない、むしろ俺は大賛成だ。誰かさんみたいに強いからって鍛錬をサボってると

痛い目見るぞって事だな」


「うっ……」


アインに痛いところを突かれ、ソウゴはさらに顔をしかめる

事実この中で最も強いのはソウゴだ。徒手空拳と剣技を組み合わせた特殊な技法を使う

騎士団随一の逸材、最近はアインの言う通り鍛錬をサボりがちだが…

一方でアインは魔術と剣術を組み合わせた剣術を得意とする魔法剣士で、火・風の魔法を使う

事が出来る、ソウゴとは真逆の性格であるが本人曰く気が合うらしい


「やっぱ共通点みたいなのがあるのか?」と少し考えてみる

が考え始めたタイミングで、ソウゴに呼ばれる


「…あっ!おい薫、巡回の時間だぞ〜、ほら急げ急げ」


「気を付けてな、夜はいつもの場所で」


友2人の声に微笑しながら立ち上がり、騎士剣を腰にセットし振り返って返事をする

薫は中心街付近、アインとソウゴは王城の近くを回る事になっている

まぁこの2人なら大丈夫だろう


「あぁ、行って来る。2人も気を付けてな」


そういい薫は巡回へと向かう

まさかこの会話が2人との最後の会話になるとは知らずに…



ちょうど3人が巡回を始めた同時刻

ハノイ中心街王城前、雄介は立ち止まり城を見上げていた


「久々に見たけど………でっかいなぁ」


商業都市ハノイの象徴で王族が住む王城である

王国2番目の都市と言われるハノイ、だが最近では大きさこそ

王国最大の都市トロイに劣るものの人の数や活気は

ハノイの方が上回ってきていると言われている


「お腹減ったし…なんか食べに行こ」


少し城付近から離れ、飲食店を探して歩いていたその時

何かが聞こえた、咄嗟に周りを見渡す、が特に何もなく人が歩いている

それに店や市場の活気のいい声が聞こえるだけ………

雄介は立ち止まり耳を澄ませ、ジークの言葉を思い出す


「音を選別するのは案外簡単だ、慣れればの話だけどな

まず聞きたい音を選ぶ、そんでパズルピースみたいにバラバラになって混ざりあってる音の中から

その聞きたい音だけを選び一つ一つ合わせていく、そうすりゃあそのパズルが完成した時にはその音

だけが選別されて聞こえるようになるはずだ、ちゃんと練習しとけよ〜」


それに習い、雄介は意識を耳一点に集中させる

同時に辺りの周辺の音が一気に耳へと流れ込む

思わず顔を顰めるがそのまま継続する


「今日はいい商品入ってるよーーー!」

「あれ欲しいよパパぁ」

「今日もいい天気ねぇ」

「走れ走れ!騎士団の入団試験はもうすぐだぞ!」

「コロッケうまぁ」

「……助けて…おかあさん…」


声が聞こえ、雄介は即座に走り出した。

走りながら再び意識を耳へと集中させ、音をたどる


「おらっ!さっさと歩け!」

「止めて!はなして!」


だんだん声が近くなり、声の発声源が路地裏だと気付く

「確かにここなら誰も気付かないな」と雄介は思った

常人には聞こえないであろう大きさの声だ、静かな環境なら聴こえるかも

しれないが今ここは大量の声や音が飛び交う市場付近、聞こえないのが当たり前である


「こいつは…ただ事じゃ無さそうだな」


そう呟き先を急ぐ

その路地を進み突き当たりの角を曲がった先、少し広くなった場所でそれは起こっていた


そこでは少女が3人の男に身包みを剥がされ

今まさに連れ去られそうになっていた

少女は必死に抵抗するが、大の大人相手では相手にならない

そんな中、少女が3人の内の1人の腕を引っ掻いた

引っ掻かれた男はついに痺れを切らして少女を突き飛ばし


「もういい、眠ってろクソガキ!」


そう言って落ちている鉄棒を拾い

少女の頭に振り下ろそうとする、少女は咄嗟に頭を守るが

非力で細い腕でそれを喰らえば、いくら頭を守ろうがひとたまりもない

男が躊躇なく鉄棒を振り下ろす


その瞬間、路地裏に鋼のぶつかり合う音が響き渡った


↓↓↓


鉄棒を振り下ろした男は自分の攻撃を防いだ目の前の男に対し、驚愕と同時に困惑していた

確実にバレないであろう場所

丁度親とはぐれていた少女

見張りを2人付けた万が一の対策

騎士団員の巡回ルートの対策

……全て完璧だったはずだ、悲鳴も聞こえるはずがない


それなのに何故目の前にこんな男がいるのか、それも騎士団でも無いこんな小僧が

そして元騎士団だった自分の本気の攻撃を楽々と受け止められた事実

その事実を認めないかのごとく男は大声で言う


「小僧!俺たちの邪魔をしてただで済むと思ってるのか?」


それに対して目の前の男は答える


「分かってたらやらないとでも?まずまずそんな事してて見逃すと思うか?」


「…舐めやがって!ぶっ殺してやる!」


そういい鉄棒を捨て、腰の剣を抜く

当たればゆうに腕が飛ぶ程の切れ味、だが目の前の者は構えさえしない

まるで構える必要などないと言わんばかりの態度に男の怒りは頂点に達し

斬りかかる


「死ねぇっ…………


叩きっ斬ってやる、そう叫び降りおろした剣の行方を見届けることは無く

目の前の青年が視界から消えたと同時に男の意識はプツリと消えた





「おせぇな」


雄介は斬りかかって来た相手を殴り倒しふと思った

やけに遅すぎる…だがその疑問を無視して勢いのまま殴りかかって来た2人目の男も的確に急所を突き、倒す

3人目の男の姿は既にそこになかった


「っ、逃げたか…出来れば全員騎士団に突き出したかったとこだが、今はこっちが先だな」


そう呟き、3人目の男よりも壁際にしゃがみ込んでいる少女の怪我の具合の確認を優先する

その細い腕には幾つものアザがあり、乱暴に扱われた事が見て取れる

そんな少女に雄介は


「もう大丈夫だよ、手の他に痛い所ない?」


出来るだけ優しく話しかけた、怖がらせないように慎重に、が突如少女は泣きだした

雄介は少しの間呆気に取られた後ハッとなり、どうすればいいのか分からず慌てる


ただでさえ人との関わりをしてこなかった雄介

知り合いや数人の友人は皆歳上、そんな雄介には子供の、ましてや少女の心など分かるはずも無かったのである


そんな時


「騎士団の人!あいつです!」


後ろで声が聞こえた、それもさっき聞いた声が

振り返ると、さっき逃げたはずの3人目の男、その横には


「善良な市民に暴力を振るうだけで無く、幼い少女をも泣かす…悪党、ご同行願おう」


そう堂々とした様子で言う騎士団員の男が立っていたい

雄介は即座に気付いた、この騎士の男と自分に誤解が生じている事に


「ちょっと待ってくれ、何か誤解してっ」


と騎士の男に訴えかける、しかし状況が状況な為騎士の男は聞く耳を持たない

「これはマズイ…」そう思った時にはもう遅かった


肌に来るピリピリとした感覚、魔力の急激な上昇に伴い発生する現象だとジークは言っていた

今まさに目の前の騎士が発している魔力だ、

冷や汗が流れる、だが引く訳にはいかない…力ずくでも事実を伝えなくてはいけない


焦りを深い呼吸で沈める


腰の刀に手を触れ構える、相手と視線が交錯する


数秒の静寂、その静寂をかき消す2度目の鋼同士のぶつかる音が路地裏に響き渡った








































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