2話 手合わせ
「……着いたぁ」
そこは滝の音のみが木霊する静かな場所だ
水は澄み、周りの木はそよ風に揺れ、岩に弾かれた滝の水がミストのようになりひんやりとして心地よい
怒りも焦りもここでは全部落ち着くような…そんな気がする
「前はよく一緒に来たなぁ…だろ?」
後ろからまさに今呟こうとした事を言われ少し驚きながら振り向く
「何で言おうとしてる事が分かるんだよ」
「ふっ、これがけっ」
「経験の差ってか?あと付け足せば、まぁお前も修行すりゃあこんくらい出来るようになるさ…ってとこか?」
言わせはしないと言わんばかりにすかさず今やられた事をやり返す、しかも何倍にして。これが雄介の得意技、いわゆる十八番の一つ・先読みだ
長い話などは無理だが、短い内容や自慢しようとしている相手の言おうとしている事ならば容易に予測が出来るというそれなりに便利な技術である
だが便利なのは使用している本人であって、やられている方からするとかなり面倒な技である
「おまえ人がかっこよく決めたよようとしたのによ……」
「へっ…」
「おまっ…もういいさっさとやるぞ!」
めんどくさくなったジークは話を変え手に持っていた木刀の片方を雄介に、自らはもう片方を構える
剣を受け取り「先に一本取った方が勝ちでいいか?」と雄介が聞こうとしたその瞬間、彼の背筋に寒気が走る
その顔からさっきまでの余裕が完全に消え、瞬時に振り返る
そこにはさっきまでとは比べ物にならないレベルの殺気を放つジーク・ヴァリアントが立っていた、その顔に獰猛な笑みを浮かべながら剣を構えこっちを見る、その笑みを返すように雄介も強張った笑みを向ける
「久々にやるんだ、俺から一手取れるくらいには成長したか?」
「さぁな、まあやってみないとわかんないだろ」
お互いが剣を構え少しずつ距離を詰める、そして互いの間合いに入った瞬間…両者の姿が消え
静寂が剣がぶつかり合う轟音にかき消され凄まじい打ち合いが始まる
「ーーーしぃっ!」
相手に向かって全力で斬撃を打ち込む、剣がぶつかり合う衝撃に顔をしかめながらも連続で攻撃を叩き込む雄介、それに対してジークは顔にうっすらと笑みを浮かべながら余裕そうな表情で片手のみの応戦を始める。常人の何倍も鍛え上げられた雄介の全力の攻撃を全て片手で叩き落とす、それはかなり異常な光景だった
「ーーーくそっ!」
正面からの斬撃、回し切り、相手の死角に回りこんでの切り上げ、全て迎撃される、それも片手で、「…どうなってんだよ」そう思いながら次の一手を考えようとする。
が次の瞬間前から突如蹴りが来る、咄嗟にガードするが踏ん張りが効かず滝壺に吹っ飛ばされ大きな水飛沫を上げる
水中から勢いよく飛び出し、体勢を整えようとするがジークは攻めの手を緩めない、戦闘は防戦一方になっていき、雄介は徐々に追い込まれていく
「おいおいもうおしまいか?」
「………うるせぇ…よっ!」
ジークからの攻撃の隙間を掻い潜り反撃に転じようとした…が剣を構え直した時、既に首にヒヤリとした感覚があった雄介は負けを悟り構えていた剣を下ろした。それと同時に首から木刀が離れる、そして振り返るといつも通りの温厚なジーク・ヴァリアントが立っていた、そして
「今回も、おれの勝ちだな!今日の夕飯よろしくね☆」
さっきまでとは打って変わった満面の笑みでそう言うのだった