第八話
俺たちは荒野に立っていた。そして、視線の先では1人の剣士が歩いている。
「アルトォ!!」
ワードは声を張り上げ、男を呼び止める。男は立ち止まり、振り返る。ワードと同じ黄金色の髪が風に揺れる。
「ワード……?生きてたのか」
「ああ……きっとお前を止めるために生き残ったんだろうな」
「その腰に下げた魔剣はアルト兄さんには必要ないよ」
「幽霊……リィラか。駄目だな、私はこの聖剣で人類を浄化しなければならない」
(んなわけねえだろ!絶対邪剣だよアレ!この俺が聖剣だぜ!)
(兄貴、アイツは《対話篇》の効果を受けてないからなに言っても聞こえないっすよ)
空気感に呑まれ、俺とラッキーも騒いでみる。
「とにかく私は忙しいんだ。失せろ」
アルトは俺たちに背を向け、また歩き出す。しかしその背を一筋の電流が撃つ。
(リィラ!?いきなりかよ!?さすがにビビったぜ)
しかし、俺の反応とは打って変わって、アルトの奴にはこれっぽっちも効いていなかった。
「ほう……邪魔をすると言うならば、再び浄化してやろう」
そして、とうとうアルトが聖剣を抜く。
「アルト兄さんこそ、覚悟してよ……!」
戦いの火蓋が、切って落とされた。ーーー
*
聖剣から溢れ出る炎の魔術と、リィラが放ち続ける雷は激しくぶつかり合い、辺りに轟音を響かせていた。
「おいワード!俺たちもいくぞ!」
「いや、待て」
「なんでだよ!」
「生半可な攻撃ではあの聖剣には太刀打ちできない。渾身の一撃を準備するんだ」
そういうとワードは俺の柄を握り、魔力を込め出した。
「限界まで溜めろ」
「はぁ!?これ難しいんだぞ」
「溜めろ」
そんな無茶な。俺はついこの前この世界に来たばかりだぞ。
「大丈夫っすよ!兄貴から漏れた魔力はオイラがキャッチして兄貴に送り返すっす!」
「ラッキーおまえ……やっぱり最高だな!」
ラッキーの鞘に収まっている限りフォローしてもらえるようだ。頑張るしかない。俺はワードから送られる魔力を蓄えていく……。
「あぁっ!!」
隙をつかれ、リィラが攻撃を食らってしまう。
「リィラ!」
「くっ……駄目だフレソディア、集中しろ!」
「あぁ、クソッタレ!」
傷つくリィラを前に魔力を溜め続ける。リィラはだんだんと防戦に回っているようだ。攻撃系より防御や撹乱の魔術が増えている。そして、とうとう鋭い一撃を当てられてしまう。
「い、嫌ぁぁあ!?」
右腕が切り落とされる。
「いったあ……ど、どうして【歪曲】が効かないの」
「幽霊の使う呪いなど、この剣の持つ聖なる属性で無効にできる」
「な、るほど……私の奥の手は……使えないんだね」
「ふん。消えろッ!」
「今だフレソディア!いくぞ!」
「急だなクソがァ!!!!!!」
俺たちは、リィラとアルトの間に飛び込む。そして、全力の一撃を食らわすため、蓄積した魔力を全て《邪炎》へと変換する!
「オオオオォォォォ!!!」
黒い炎が剣先から噴き出て、俺自身どころかワードをも包み込み、一匹の龍のごとく、アルトに向かって襲いかかる……!!
*
*
「どう、して……」
ワードは地に倒れ伏していた。俺は手放され、ワードの手の届かぬ所に落ちている。リィラも下半身を失い、黒い霧が全身を包み込んでいる。もはや浮いてなどおらず、ピクリとも動かない。
敗北だ。
俺たちの渾身の一撃は、向こうの聖なる炎に打ち消された。もうなす術はない。このまま全員消されて終わりだ。逃げ出したい。
「ふん。惜しかったな。だがお前たちの負けだ。……そうだな、まずはこの邪剣から破壊しておくか。使う者が使えば、私の脅威となるだろう」
アルトが炎を纏った聖剣を振り上げる。
(へっへっへっ、雑魚剣が〜!)
ん?今なんか聞こえたぞ?
(いやぁ〜、ちょろいなあ。テメェのポテンシャルは若干怖いが、ここで壊しておけばここから先の人類殲滅も訳ないぜ〜!)
あぁん!?おいクソッタレ聖剣!お前だな、俺を煽り散らすのは!全然聖なる剣じゃ無いじゃねえか!!
(あぁ〜そうさ。俺は魔神だよ。80年前勇者に浄化され、実体は失ったがこの聖剣に宿って、《洗脳》の魔術を鍛えたのさ。それでこの男を洗脳して活動を始めたって訳!けっへっへ!)
邪悪ッッッ!!!!許さねえ!!!!
(許す許さないの権利はお前にない。お前はもう人間の手から離れた。自力じゃ動けないんだからここで壊される以外に選択肢は無いんだよ〜ん。死ねぇ!!)
そして、微塵も聖なる要素が無い聖剣が、今振り下ろされて……
グサっ。
地面に刺さった。魔神は少し驚く。
(手元が狂った……いや、違う!何だこれは!?)
今度は、魔神は派手に驚いた。
俺、フレソディアは、元いた場所から1メートル程、移動していた。
「な、何だお前!どうやって動いた!」
「うぇっ!?アレ、俺動いてるぅ!?」
そういえばこんな経験、この前にもあった。それはリィラと腕試しに戦った時だ。バトルの終盤、リィラが大技を放った瞬間、俺とワードは何故かリィラの目の前に移動して……そして決着がついたんだった。
あ、そういうことか。
「わかっちゃったぞ……ガッハッハ!」
「貴様、何をした!?」
「お前……聖剣のフリした魔神なんだな?……へへっ、じゃあ俺も正体を教えてやるぜ……」
俺は、ひとりでに宙に浮く……!
「俺は真名は安藤正人ッ!異世界から転生して来たチート持ち主人公だぜェ!!!!」
やはり俺は、ちゃんとチート能力を持っていた。自分だけで移動できるというシンプルで強力な能力だ。
「へいへいへ〜い!」
そこから俺は攻めまくった。瞬間移動に高速移動と、空間そのものと同化したように動けた。アルトはあちこちに移動する俺のことを斬りつけてきたが、ちょこまかと動く俺に攻撃は当たらない。切るのは気が引けたので、なんというか、面の方でお尻を叩きまくってやった後、頭を思いっきり叩いてアルトを気絶させた。聖剣はアルトの手からこぼれ落ちた。俺は地面に転がる剣にふわふわと近づく。
「さてとクソッタレ。お前にはお仕置きが必要だよなあ?」
「ま、まて。もう悪さはしない、」
「する」
「いや、しな」
「そういう奴は悪さをするって決まってんだよクズがッ!」
俺は、聖剣の真下に移動した。
「なにっ!?なにをする気だ?」
「このまま真上に上がる」
俺は聖剣を乗せて、エレベーターのように上昇し始める。
「おい、おいおい、まさか貴様!」
「お前を粉微塵にするにはよぉ……俺の力じゃ無理だからよぉ……」
何メートル上がっただろうか。すでにワードたちは点でしか捉えられない。
「万有引力だぁ!!!!」
俺は、くるりと回転して、聖剣を落下させた。
*
地上に戻ると、ボロボロに砕けた剣の破片が散らばっていた。
「よくやったな……フレソディア」
「ワード……生きてたか、よかったぜ。リィラは?」
「わ、わたしも平気……さすがに、体の修復には時間がかかりそうだけど……」
「そっか」
俺たちは、目標を達成できたようだ。