第七話
「で、どうやってそのアルトとかいう兄貴を探すんだ?場所は知ってんのか?」
宿に戻ってきて早速、俺はこの先のことをワードに尋ねる。
「場所はわからない。だから、この街にいる術士に依頼してアルトの所まで運んでもらう」
「術士ぃ?」
「空間移動系のスペシャリストがいるの」
ふわふわと浮かびながらリィラが続ける。
「多分国で一番凄いんじゃないかな?その人が知らない場所や人でも、特徴を言うとそこまで連れてってくれるんだって」
「そりゃすげえな」
「だが高額だ」
ワードはやや険しい顔でそう言う。
「まあそうだろうな。金、ねえの?」
「あるように見えるか?」
「……」
「だから今からとりに行く」
「取りに行く?銀行?」
「違う。盗りに行くんだ。盗賊のアジトに乗り込んでな」
……は?
*
夜、俺たちはとある建物が見える路地裏に潜んでいた。
「あれだ。表向きレストランに見えるがここらで有名な賊のアジトなんだ」
「へいへいそうかい。あそこに俺たちで突っ込むのか?」
「ううん。行くのは私だけ」
リィラが挙手する。
「あー、幽霊だから見えないってか」
「見えるよ?」
「……あ、あー!幽霊だからダメージ受けないってか!」
「受けるよ?」
リィラはおもむろに右手の人差し指で左手の小指の付け根を指す。
バチィ!と電流が走る。その瞬間は見えなかったが、小指は吹っ飛び、清潔感のある彼女には似合わない、不気味で黒い煙が出ていた。
「ひぃぃ!何してんだよ!」
「うーん、フレ君には見せておいた方が良いかなって思って。幽霊は体の一部が崩れるとこうやってモヤがでるんだ」
もくもくと小指の付け根の部分からモヤは漏れ出ている。
「でも時間が経つと治るから安心して?特にこれくらいなら、集中すればすぐだよー?ふんっ」
リィラはしかめ面でモヤを眺める。するとモヤは収束し、小指が出来上がる。
「ね?どう?」
「さすがにビビったぜ……」
「えへへ、なんか嬉しいな〜」
褒めてないが?怖がられて嬉しいって、幽霊の本能か何かか?
「じゃ、行ってくるね」
リィラは路地裏から表に出る。
「気をつけろよ」
あんまり心配してなさそうなワードの声を背に、リィラは盗賊のアジトに近づいて、正面扉から中に入っていった……。
「なんだテメェ!なんで浮いてやがる!?」
「《麻痺領域》っ!」
「「ウワァァァア!?!?」」
「テメェ!」「ぶっ殺してやる!」「覚悟しろよォ!」
「《電撃疾走》」
「グハァ!?」「殺される……!」「逃げろッ!」
「何やってんだオメェらァ!!」
「《ばいばーい》」
「ドハァッ!?」
すっっげえ叫び声聞こえてくるんだけど……。
「幽霊が増えなければ良いな」
「ワードおまえ……ホントに平気なんだろうな?」
「知らん。お、出てきたぞ」
アジトから出てきたリィラは、大量の麻袋を手にしていた。パンパンに詰まっている袋の中身は全てお金だろう。
「にっしし」
*
翌日、俺たちは例の術士のもとへ向かった。痩せた中年男性だった。
「この男の所へ我々を転送してほしい」
ワードは会うなりアルトの情報と奪ったお金を差し出した。
「ふむ……私は領主や貴族といった方々をメインに依頼を受けておりますので、そこそこのお金は頂いているのですが……あなた方のような旅人が、よくこの値段、集められましたね」
単純に気になる、と言うふうに術士はそう言った。
「ところで昨晩、この街で有名な盗賊のアジトが襲撃されたとか……ふむふむ……まあ、良いでしょう。私は自分の仕事をするだけです」
絶対疑われてるじゃん。てかビンゴだし!
「では、送りますが、帰り道は自己責任でお願いしますね。もう少し後ろに並んで下さい」
俺たちは言われた通りに並ぶ。
「いきますよ……《記憶の彼方》」
足下が淡く光りだす。
「いくぞリィラ」
「うん」
2人の真剣な表情に、思わず息を呑む。
そして景色が変わってゆく。ーーー