第六話
「おいラッキー見てたかー?俺めっちゃ強くね?ね?」
「はいっす!あの禍々しい炎、最高にイカしてたっす!」
禍々しい……。
「うーん、すごい迫力だったね」
伸びをしながらリィラが近づいて来る。
「リィラの魔術もすごかったぜ!まだビリビリしてる気がするし」
「えへへ、そうかな」
リィラは強かった。ワードが自分の魔術を犠牲にリィラの魔術を復活させるのも十分理解できるレベルだった。そして互角にやりあった俺のポテンシャルも悪くないだろう。だが、さすがに気になることがある。
「あのよー……ワードは、なんでそんなに強さを求めてんだ?」
チート無双とか魔王退治とか、そんなノリじゃない気がする。
「ああ……その話はそろそろしようと思っていたところだ。ちょうど良い。俺たちの目的を、話しておこう。
***
ワードと生前のリィラはとある辺境の村の住民だった。リィラは病気がちな母との2人暮らしだった。そして、ワードにはアルトという3つ上の兄がいて、こちらも2人暮らしであった。自立して生活するにはまだ幼いリィラのため、3人は協力しながら日々を過ごしていた。
アルトは剣に魔術を付与して戦うことを得意としており、自警団の中心に立って村の警護をするかたわら、リィラにも魔術を教えた。リィラに雷を才があることを見抜き、その力を伸ばしたのもアルトだった。ワードはそんな兄を誇らしく思いながら、主に農業や家事を担当した。リィラの家の力仕事なんかも手伝っていた。たまに霊媒師の力で幽霊を働かせたりもしていた。
三人は平穏な暮らしを送っていたが、ある日アルトは「聖剣を手に入れにいく」と言って旅に出た。
そして、聖剣を手に帰ってきたアルトは、まったく別人のようになっていた。いや、今思い返すと、旅に出た時からおかしかったのかもしれない。
アルトは「人間は全て悪だ」と主張し、聖剣で全ての村や街を破壊すると言い出したのだ。
ワードとリィラは初め、鼻で笑った。少し疲れて変になっただけだと思ったのだ。2人はアルトを家に入れようとした。
しかしその瞬間、アルトは聖剣を振るった。眩い光と身を焦す灼熱が、近くの民家を消しとばした。
そこからは思い出すだけでも気が遠くなるような地獄だった。ワードたちの村は一夜で消滅した。人も家屋も全てなくなった。リィラも死んだ。
***
「アルトの剣の属性は《聖なる炎》だ。俺は、悪さをする悪霊を閉じ込めたものをたまたま持っていたから、そこにある邪の力を上手く使って、力を弱めて、なんとか身を守った。ぼろぼろにはなったがな。アルトはそのまま、次の村の『浄化』に向かったよ。俺は村を歩き回って、生きている人がいないか探した。見つかったのは、リィラの霊だけだったよ」
制御できていない【歪曲】によって歪んだ空間の真ん中に、苦痛と怒りと困惑で顔を歪めたリィラが浮いていた、あの景色をよく覚えている。
「わたしたちはね、アルト兄さんをとめなくちゃいけない。そのためには、《聖なる炎》に勝てる力が必要なんだ」
邪剣フレソディアの炎。俺の《邪炎》……。
「協力してくれるか?」
「頭おかしくなった野郎を止めるのにか?その止めるっていうのはよー、正気に戻すって話か?それとも……殺すの?」
「前者だ」
「絶対殺しはしない!わたしたちは、もとアルト兄さんを取り戻したいの」
ワードとリィラは真剣な面持ちで訴えてくる。人殺しはしなくて良さそうだから、俺も答えは決まった。
「協力するぜ。ラッキーも良いよな?」
「もちろんっす!おいらは兄貴の鞘っすから!」
それ「私はあなたの剣だ」っていう感じで、俺が言う奴な。
まあとにかく、聖剣ヤロウに一発食らわせて、ハッピーエンドを目指すぜ!