第五話
翌朝、俺たちは街から少し離れた草原にいた。10メートルほど離れて、ワードとリィラが向かい合っている。俺とラッキーはワードの手元だ。魔術の腕試しが、これから始まる。
「フレソディア。昨日教えたことは覚えているな?」
「あ?ああ……」
俺は昨日の夜のことを思い出す。魔力機関の次に教えてもらったのは、魔道具についてだ。この世界の特定の武器は、固有の魔術属性を有しているらしい。魔剣である俺にも力があるそうだ。さらに、魔道具に付与された魔術は、魔力を流せば誰でも使える。つまり、ワードはわずかに残された魔力で俺を行使できるというわけだ。
「さ、ワード!フレ君!準備は良い?」
リィラは準備が整っているようだ。
「「ああ!」」
俺らも準備はできている。(俺は何も知らないのでやることがない)
「ルール確認ね。どっちかが降参したら終わりで、ワードがフレ君を離しちゃうか、私がアレを使ったらそこで終了で良い?」
「ああいいぞ」
良くねーよ。アレってなんだよ。しかし、教えてもらえず勝負は始まった。
***
「私からいくね!《雷撃》!」
リィラの手から、超高密度の電気エネルギーが放たれる。
「……ッ!」
ワードが俺を構える。うわ、なんかくすぐったい!これが魔力か!?うわうわ《雷撃》が来てるぞ!耐えられるのかコレ!!
「ひぃっ!」
魔術がぶつかる寸前、俺は情けない悲鳴をあげた。それと同時に。ぼう、と俺の体は火を吹いた。何故だか怪しくて重たい炎だ。
「フレソディア。お前自分のこと聖剣だと思ってるらしいが、それは違うぞ。お前は邪剣だ。そしてまとっているそれは《邪炎》だ」
うそでしょ!?悪の武器じゃん!
「だが、なかなか凄い力だな……フンッ!」
ワードが俺を振り切ると、電撃は打ち消される。
「フレ君の炎、すごい……!じゃあこれはどう?《電磁加速》っ!」
リィラは圧倒的な速度で移動、一瞬でワードの背後に回った。
「《麻痺》!」
そして動きを封じる魔術を発動。
「ぐうっ……!」
ワードは数秒の間、体が動かなくなる。俺も身体が痺れる感覚に襲われる。
「とっちゃうよ?ふふふっ」
リィラに俺をとられたら負けだ。その時、魔力が俺を駆け巡る。
「わあっ!?」
リィラに向かって赤黒い火球が三発放たれる。
「危ない危ない……純粋な炎魔術としても使えるんだね」
「ハッ!」
身体の自由を得たワードがきりかかる。
リィラはかわす。
しかしその瞬間、火球四発。リィラを囲むように。回避できない。
「《電磁障壁》」
雷で作られた半球型のシールドが、リィラを守り、火球を打ち消す。
隙をついてリィラが距離をとる。
「随分好き勝手動く炎だね。ワードの才能かな」
悔しいが多分そう。だって俺なんもしてないもん。
「小技は出し尽くしちゃったし……これは耐えられる?」
リィラは練り上げた魔力を右手に集約させ、それを空に掲げる。
「《雷帝》!!」
最初の一撃とは比べ物にならないほど強力無比な、雷の束が俺たちを襲う。
「クッ……!!」
俺は《邪炎》を放出し続け、なんとか攻撃を抑える。駄目だ、押し負けるッ!もう限界だぁ!
そう思った次の瞬間、ワードと俺は、離れていたはずのリィラの目の前にいた。
(嘘!《雷帝》は高威力でありながら広範囲の魔術!それを受け切る前にすり抜けたの!?そんなこと不可能なはずなのに!にしてもこの間合い!次の魔術をうつ魔力も時間も無い!)
「オオッ!」
ワードが、炎を纏う俺を振り下ろす。
「も〜!【歪曲】〜!」
空間か、それともリィラ本人か。何かが歪む。届いたはずの刃が、届かない。
それを見たワードが言う。
「ソレ、使ったな」
「うん。使った。わたしの負け」
……てことは俺たちの勝ちか?やったぜ!!
だが今発動した魔術らしきものが、最初に言ってたアレなのだろうか。
「なあ2人とも!今のなんだ!俺に教えてくれ!」
「呪いだよ。わたし固有の」
「呪い?ああ、魔術の代わりに幽霊が使えるやつか!」
「【歪曲】は、リィラにいっさいの攻撃が届かなくなる代わりに、リィラもいっさいこの世界に干渉できなくなるという呪いだ」
なかなか優秀な防御だが、使用中はそれしかできないってことだな。
リィラと俺の能力が明らかになったこの手合わせは、こうして終了した。