第四話
リィラと名乗った幽霊少女は、齢十三程度に見えた。うっすら透けてはいるが、白いワンピースにロングの赤髪がよく映える。
「魔剣さん、あなた名前はあるの?」
「ああ、フレソディアだぜ。んで、この鞘がラッキーだ」
「鞘?」
「ラッキーっす。よろしくっす!」
「わ、鞘にも人格があるのね。さすが魔剣だね」
人格のあった岩をベースにしてるから当たり前よ。いや、そもそも人格のある岩って時点ですごいのかもしれない。
「てかよー、幽霊はモノと喋れるんだな」
俺は気になっていたことを口にした。ワードは魔術でモノと会話できるようだが、リィラは幽霊としての能力で俺と会話しているのだろうか。
「ううん、違うよ。私もワードの《対話篇》の効果を受けているだけ」
「へ?そうなの?」
「俺の魔術、《対話篇》は例えるなら談話室のようなものだ。効果を受けたモノどうしなら、それらが室内で語り合うように、自由に会話できる」
なるほど。つまり今効果を受けているのはワード、俺、ラッキー、そしてリィラというわけだ。
「なかなか便利じゃねえか。そういやワード、お前他にどんな魔術使えるんだよ」
「無い」
……は?なんて?
「この他に使える魔術は、無い」
「は!?嘘だろ?雑魚じゃん!!」
「違うのフレ君」
リィラが煽りモードに入りかけた俺を止める。なんだフレ君って。悪くないな。
「ワードは自分の魔術を使う能力のほぼ全てを、私にくれたの」
***
ここからは、魔術に関する話が続いた。
「あのね、幽霊には魔力回路も魔力炉も存在しないの」
「魔力回路……?なんだそれ」
「えぇ〜、そこから!?」
リィラがドン引きした顔で見てくる。阿保と思われてるのか?
「兄貴、2週間くらい前に記憶喪失なんすよ。だからここ最近経験したことと覚えた知識しかないっす、勘弁っす」
「そ、そうなの!?モノにも記憶喪失ってあるんだ……大変だね」
よくわからないが俺は常識を知らなかったらしい。だがラッキーと記憶喪失設定のおかげで阿保と思われずに済みそうだ。助かったぜ。
「魔力炉は魔力を生み出す場所で、心臓付近にあるの。生み出された魔力は全身に位置する魔力回路を通って、魔術に変換されるんだよ」
なるほど。心臓と血管の魔術版ってイメージか。
「でも幽霊にはそれがない。魔力機関は、生命力によって支えられてるから」
「てことは……幽霊ってやっぱ死んでるの?」
「うん」
リィラは少し暗い顔をする。う、なんか申し訳ない。
「でね、機関が無いから幽霊は魔術が使えないの。未練から返還された呪いなら使えるけど……」
「呪い……そ、そんで、この話がなんでワードが雑魚なのと関係あるんだ?」
「ワードはね、自分の魔力機関を幽霊である私に譲ってくれたの。《対話篇》を使える部分のみを残して」
そんなことができるのか!?
「《委嘱》。自己の能力を、霊体に譲渡する魔術だ。俺の魔力回路と魔力炉の九割は、リィラに渡した」
ワードが淡々と説明を加える。
「な、なんでそんなことしたんだ!」
「リィラの方が強いからだ。俺の霊媒師としての魔術の数々は、便利な局面もあるが、強さには直結しない」
じゃあ、逆に言えば、リィラの使う魔術は……強さに直結したものってことか!?
ピシリと、場に電気が走る音がした。リィラの髪が、さっきよりわずかに逆立っている。
「魔剣のあなたとわたしの魔術。どちらが強いか、試してみる?」
先程までの儚げな表情とは違う、自信のある笑顔で、リィラはそう問いかけてきた。