第二話
俺が「聖剣フレソディア」に転生してから3日経った。
昨日一人屈強な男がやって来て、俺を抜こうとしたのだが、なんか勇者っぽくなかったので、抜かれないように踏ん張ってみた。すると俺はびくともせず、男は諦めて帰っていった。
その後すぐ、その様子を見ていた幼い少女が俺を引っ張った。大人に笑われながらも懸命に頑張る姿は可愛くて、思わず全身の力が緩んだ。すると、自分の体がわずかに動くのを感じた。直感的に「やばい」と思ったので再び踏ん張り、少女は去って行った。
そして俺は悟った。なるほど、岩のラッキーが初日に少し言っていたように、誰に抜かれるかは俺が選べるようだ。
ここで俺は閃いた。勇者に引き抜かれて共に異世界チートライフを満喫するより楽しいことがある。美少女に抜かれてイチャイチャするのだ。イチャイチャといっても、俺は手入れされる程度のことしかないだろうが、イキリ男に使われるよりよほど良いだろう。
***
それから一週間経った。
「なあラッキー」
「どうしたっす?」
「美少女は?」
「来ないっすね。男すら来てないっす。ちなみに兄貴が記憶を失う前にも、女の人が抜きに来たことはないっす」
そういえば記憶喪失設定だったな。それより、女はやっぱり来ないのか。
「俺から呼ぶしかねえ!おーい!誰か、美しい方、俺を引き抜いてくれえ!」
「無駄っすよ〜、兄貴の声はオイラにしか聞こえないんすから」
「だよなぁ」
この転生ライフつまんなすぎ。ラッキーと喋る以外にやることないもん。ラッキーは良い奴だが。
***
しかしその日の夕方、そいつは現れた。
女ではない。勇者を名乗る類だ。そいつは鎧を纏い、腰には剣。筋骨隆々という感じではないが、悪くない体つきの、若い男だった。歳は18前後だろうか。黄金の髪が夕日に照らされ美しい。
街の中央門から入ってきたそいつは、真っ直ぐ広場の俺の所へ歩いてきた。そして、俺の柄を握りしめる。
「ケッ。お前が転生勇者じゃない限り俺はここを動かないぜ」
相手には聞こえていないだろうがそう宣言する。しかし、相手は意外な反応を示した。
『いや、俺はお前に動いてもらわないと困る』
は?なんだこいつ、俺の言葉が聞こえている!?しかも俺の脳内に直接返答してきたぞ!
「お前ぇ!なんで俺の言葉が聞こえてるんだ!」
『それは俺の魔術《対話篇》だ。モノの意思を読み取り交信する、俺の霊媒師としての能力の一つさ』
「霊媒師ぃ!?お前どう見ても剣士じゃねえか!」
『これはフリだ。お前を引き抜いた時に、周りが納得するようにね』
変な奴じゃん!!
「悪いがお前みたいな変人について行く気はないぜ。帰りな」
『ふむ……どうやらお前は自身でこの岩から抜け出すか否か選べるようだな……ならば』
俺を握る霊媒師の手から、魔力の流れを感じる。
「うぇ、なになに!?」
『ついてこないなら、お前に内側から錆びる呪いをかける。二週間ほどで朽ち果てるぞ』
ヒェェ!なんてこった!そんなことされたら異世界ライフもクソもねえ!
「つ、ついていきます……」
『よし』
「ただ、一つお願い良いっすか」
『なんだ?』
「下の岩も、ちょっと削って連れて行ってくれ……親友なんだ」
『良いだろう』
「一緒に行こうな、ラッキー」
「道連れっすか〜〜!?」
***
果たして、俺はラッキーからすり抜けた。ギャラリーが湧く。男は無視して俺を眺めている。
「あんた名前は?俺はフレソディアだぜ」
「ワードだ」
「けっ、よろしくワード」
「ああよろしく。ちなみに、さっきの呪いの話嘘ね。内側から金属が錆びる呪いなんて無いよ」
「あぁ!?殺す!切り刻んでやる!死ね死ね!」
だけどな、ひとりでに動くことはできないから、コイツを殺すことはできない。クソッタレ!!