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転機

広樹が兵士とともに敵陣に歩いていると、不意にジェネリアが声をかけてきた。

「そういえば、君たちはもう自己紹介はしたか?」

「いいえ、してないです。」広樹が首を横に振り、アントンも同じく首を振った。

「それはよくないな。じゃあ自己紹介してくれ。レーヌ、君からだ。」

そういうと、ジェネリアは剣の先を広樹に向けた。

「わかりました。私はレーヌといいます。以後お見知りおきを。」

「私はアントンです。役職はエクセン陸軍参謀補佐官です。」

そういうと、アントンは赤く輝いた徽章を掲げた。

剣を持った中年くらいの大男がアントンに柔和な表情を浮かべて聞く。

「本物かい?若いのに立派だねぇ。僕はアルバート・シメオン。見ての通り剣士だ。」

次に、気弱そうな広樹と同い年くらいの男が自己紹介をした。

「ぼ,,,僕はジョン・クレバーです。よろしくお願いします,,,」

次に、先ほど見張りを射抜いた60歳くらいの不愛想なアジア人っぽい男が自己紹介をした。

「俺はゼポン・カドだ。弓を使っている。」

そういうと、慣れた手つきで弓を構えて見せた。

シメオンが付け足すように広樹に言う。

「彼は前の戦争で大活躍した英雄なんだよ。まあ知っているだろうけどね。」

「そうなんですか?一度、お会いしたかったんですよ。」

アントンが無邪気に言う。広樹もそんな有名人なら知っていなければ疑われるな、と思い

知ったかぶりをすることにした。

「ああ、あの戦争の。」

「あの戦争は大戦争でしたからね,,,確か、両軍2万を超える戦死者が出たんですよね。

ガリアから国を守った英雄とこうして話せるとは、感激です。」

と、アントンが目を輝かせる。

(詳しく解説してくれてありがとう。これで話題が作れるよ。)と、広樹は心の中で

ほくそ笑む。

「ゼボンさんはどのように戦ってそのような名声を手に入れたのですか?」

我ながら良い質問ができた、と思っている広樹に、ゼポンは眉をひそめながら語る。

「俺は20ほどの兵士を率いて森の中に隠れ、敵を殺した。確か、俺たちだけで500は殺したかな。

まぁ、そいつらは俺を残して全員死んでしまったがな。」

そう語るゼポンの目は虎のように鋭かったが、どこか悲し気だった。


「なんだこれは,,,」

広樹が口を押さえる。町の広場には無残な光景が広がっていた。

血まみれの兵士、首がなくなった兵士、そして体がバラバラになった兵士。

そこはこの世の地獄ともいうべき、とてものどかな港町だったとは思えない光景だった。

「ここの生き残りは?」ジェネリアが尋ねる。

「いない、と見ていいでしょう。司令部が壊滅状態なので、おそらく逃げたのでしょう。」

そうアントンが語る。

アントンの見解に納得した一同は、とりあえず町の見回りをすることにした。


アントンと共に見回りに行った広樹は、破壊された銅像や船を見つけた。

「いろいろな残骸がありますね,,,急いで逃げたのでしょうか?」

アントンが広樹に聞く。

「そうですねぇ,,,その可能性が高そうですね。」

そんな話を一緒にしていたら、広樹は貴族風の男を見つけた。

(なんだあの男?何かがおかしい。少し追っかけてみるか。)

「どうしましたレーヌさん。何かありましたか?」

「少し単独行動させてもらいます。アントンさんは先に戻っておいてください。」

「わかりました。それでは。」

そういうと二人は別れて、広樹は剣を抜いて彼を壁に押さえつけ、首元に剣の先を向けた。

「貴様、なぜこそこそしている?ガリアの指揮官か?名を名乗れ。」

広樹が男を睨みつける。広樹は憎悪の気持ちと共に、内心恐怖におびえていた。

彼を殺すこと、いや人を殺すことに抵抗があったのかもしれない。

ただ、広樹はそれをうまく隠していた。しかし、この男には見抜かれていた。

「貴様、少し私を恐れているな?そうか。それも仕方ないか。貴様の友人の身柄を奪ったのは

この俺だ。仕方もあるまい。」

広樹の目がどんどん血走っていく。そして剣を持つ手は震えていた。

「なんだと,,,?」

「所詮蛮族の女よ、知能も低いだろうし殺すより生かしておいたんだよ。

あれは交渉の時に使えそうだしな。」

その時、広樹の頭の中でに何かが壊れた。先ほどまでの恐怖はなくなり、完全に怒りが支配していた。

「貴様、名を名乗れ。」

広樹が静かに言う。その声は少し震えていた。

「俺はダルランだ。ガリアの軍人だ。」

そういうと、広樹は次の質問を投げかける。

「次の質問だ。お前はなぜここに来た。」

ダルランが恐ろしく冷酷な声で返す。

「貴様らを滅ぼすためさ。異教徒は生かしておくとこの後に災いをもたらす。

それがフリージア様の教えだ。」

「そうか。最後の質問だ。貴様はいまの発言を撤回するか?」

「しないよ。異教徒は滅ぶべきだ。」

広樹は彼を殺すことを決意した。そして、次の瞬間剣を彼の首に刺した。

鮮血が飛ぶ。広樹はさらに首を跳ねた。

首が宙を舞う。そして、広樹の足元に転がる。

この時、広樹は初めて自身が犯した罪に気が付いた。

広樹はそのまま絶叫し、その場に倒れた。


広樹が目を覚ますと、彼はメイド服の女性を目にした。

「よかった。気が付かれたのですね。今、ご主人様を呼んできます。

(ここは,,,どこだ?城、というか屋敷だな。)

広樹は起き上がろうとする。しかし、うまく体を動かせなかった。

そこに、主人らしき人物とメイドが入ってきた。

「もう起きられたのですか。こんにちは、エクセン伯チャールズと申します。

この度は我が軍の不始末のせいで、このような事態に陥ってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。」

(どこかで聞いたことがある名前だな。)と広樹は感じた。

広樹は姿勢を正す。そして言葉を生み出そうと頭を回転させた。

「いえ、私が殿のために何ができるか考えた末に起こした行動でありますので、あなた様の言葉は、

私にはもったいなきお言葉にございます。」

「なんと慎み深い,,,あなたは私にとって必要な方です。ぜひ我が軍に入隊してほしい。

私の娘が言ったとおりの人材だ。」

チャールズは頭を下げる。人の上に立つものがこのように礼を示すことに広樹は感銘を覚えた。

しかし、広樹はそれを断ろうとした。さすがに自分には知識がなさすぎる。

確かに色々な戦いの例を知ってはいる。ただ、まだこの時代の背景がわからない状態で引き受けるのは、危険だと判断したためだった。

「とてもうれしい誘いですが、私には荷が重すぎます。なので、もっと勉強してから引き受けたいと

思います。」

その時、ドアが開いた。そして、美しい金髪の女性が入ってきた。

(彼女もどこかで見たことがあるな,,,)

そう感じたが、それについて考える暇もなく、その女性が喋りだした。

「良かった!もう起きたんだ!」

そう言って彼女は広樹のもとに駆け寄った。

しかし、広樹にはその女性がだれかわからなかった。

「すみません。どなたでしょうか?」

「え,,,」その女性はそのまま固まる。

しばらくの沈黙のあと、チャールズが口を開いた。

「まぁ無理もないだろう。なんせお前は戦場とそうでない場所では雰囲気がかなり変わるからな。」

その女性は顔を赤くして言う。

「私だよ!ジェネリアだよ!」

広樹は目を丸くした。そして、ベッドから転げ落ちた。

「ちょっと、大丈夫?!」

広樹の視界が少し歪む。しかし、広樹は笑って答えて見せた。

「ええ、大丈夫ですよ。気づかなくて申し訳ありません。」

「まぁそれはいいわ。あなた、なんで軍に入りたがらないの?参謀ってみんなの憧れの職業よ?」

広樹はため息をつきながら言う。

「だから、私では経験不足過ぎて務まらないのです。なので、少し勉強の時間を取らせてくれるのならば是非その申し出、お受けしましょう。」

そういうと、広樹は立ち上がり、屋敷を後にしようとした。

しかし、扉を開けたときにジェネリアが広樹の肩を引っ張った。

「待って!」

ジェネリアの力は軍人だからなのだろうか、とても強かった。

広樹は彼女の方へよろける。

「ならさ、屋敷に住み込みで勉強しない?私もいるし、大きな図書館もあるからさ。

お父様、いいでしょ?」

チャールズは手を顎にもっていく。

「私は構わんが,,,君はそれでもいいのかい?」

そう言って広樹の方を見る。

広樹には断る理由はなかった。そして広樹は決意した。

(軍隊に入ってエリスを取り戻そう。そのためにも軍人としてのキャリアを積まないとな。)と。

そして、広樹は晴れやかな笑顔で返事をした。

「はい。よろしくお願いします!」

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