戦争の足音
パン屋についた広樹は、早速パンを探した。
パンはすべて大麦などの混ぜ物が入っており、元の世界でみるパンより大きく、茶色だった。
「なんでこんなにパンが茶色なんですか?」広樹が問う。
すると店主はため息交じりにこう言った。
「今日から教会へ納める小麦の量が増えたんだよ。だから今までと違ってパンに混ぜ物をしたんだ。」
広樹はこのことに腹を立てた。ちょうどその時、雷が落ちた。
「雷が落ちたな。何か良くないことの前兆だ。早いこと買って帰ったほうが身のためだぞ、ボウズ。」
「わかりました。では、このパンを30個。」
そういうと、広樹は予定を変えて少し小さいが『あれ』を作るには十分なサイズのパンを買おうとした。
だが、広樹が持っているお金は27個分しかなかった。しかし、店主は笑顔で袋を持ちながら言う。
「はいよ。結構買ってくれたから、お題は25個分でいいよ。」
広樹は大きく頭を下げてから、お金を渡した。
そして店主から「じゃあな!」と手を振られて振り返した後、広樹は走って帰っていった。
店に戻ると、ソーセージを用意してくれたジェームスとメリーがいた。
「お帰り、広樹君。次はどうするの?」
「はい。次はこのパンにソーセージが入るほどの切れ目を入れます。少し手伝っていただけませんか?」
「わかったわ。」
そういうと、メリーは慣れた手つきでパンを加工していった。
少し硬めのパンだったが、メリーの手伝いもあり、すぐに終わらせることができた。
「次はここにソーセージを挟みます。メリーさんはトマトソースに細かく刻んだ肉を入れてください。
そしてそれを温めてください。」
そういうと、広樹はパンにソーセージを挟み始めた。その時、たくさんの人が森に走っていくのが見えた。
ジェームスが逃げている人に聞く。「いったい何があったんだ?」
逃げている人々は怯えた顔をして言う。「ガリア軍が,,,ガリア軍が来たんだ!」
ジェームスとメリーは顔を真っ青にしながら驚く。
そして、ジェームスが広樹に話した。
「広樹、ここは危険だ。早く逃げるぞ。メリーは弓を持ってきてくれ。」
「わかったわ。広樹君は先に逃げてて。あと、この剣を持って行って。」
そういうと、メリーは1mはある剣を広樹に渡した。
広樹はそれを受け取ったが、「いえ、私も皆さんの用意が整うまで待ちます!」と断った。
夫妻は顔を見合わせたが、ジェームスはそれを許さなかった。
「だめだ。君は逃げてくれ。」そういうと、ジェームスは弓を人々が向かう先とは逆の方向に向けた。
しかし、メリーが必死に止めた。
「ジェームス、逃げましょう!ここで立ち向かっても何の得にもならないわ!」
彼女の声は必死そのものだった。これを聞いて、ジェームスも諦めた。
そして、舌打ちをしてこう叫んだ。
「ガリア軍どもめ、いつか殺してやる!」
そう叫ぶと、広樹は彼らと人々が逃げている方向に向かった。
逃げている途中、鐘を持ったガリア兵が見えた。
(あと少し遅ければ、死んでいたかもな。)そう考えていたが、とりあえず広樹は逃げることにした。
人々が向かっていた先、それは森だった。
森には町のほぼすべての人がいた。
そこには、ジェネリアと彼女の部隊が10人ほどいた。
彼女は憔悴し切っていた。そんな彼女に、広樹は話しかけた。
「ジェネリアさん、お疲れ様です。どうしてここに?」
「君は確か,,,あぁ、広場の。」
「はい。レーヌといいます。」
「レーヌ君か。実は上陸部隊を追い出そうとしたのだが、負けてしまってな。御覧のありさまだ。」
自虐的な笑いを浮かべて言うジェネリアを見て、広樹は決断した。
(何かこの人の役に立ちたい。この町を守りたい。)
そこで、広樹はいい考えを思い付いた。
「ジェネリアさん、夜になったら私に兵力をくださいませんか?」
「なぜだ?」ジェネリアが広樹を切先のような目で睨む。
(さすがに疑われるか。)そう思い、誤解をとくことにした。
「いえ、作戦を思い付いたんですよ。なので、兵力が欲しいのです。」
「なるほどな。ただ、成功する保証はあるのか?」
「はい、あります。作戦実行にあたって、一つ教えていただきたいことがあります。」
「なんだ?答えられる範囲なら答えるぞ。」
「他の軍の人はここに避難していることはご存じなんですか?」
「あぁ、知っているはずだが,,,それがどうした?」
「なら大丈夫です。ありがとうございました。」
そう答えると、広樹は少し小屋の中で眠ることにした。