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グレート・ウォーに向けて

広樹は石油の備蓄や戦車を作って近代的な軍隊を作っていった。

戦車部隊はいまだ現代のものと比べて見劣りするが、この中世においては十分すぎる強さだろう。

戦車は既に三両出来上がり、更に新しい戦車を開発することになった。

「次は軽戦車が欲しい。

時速は40キロ出せて主砲は3センチ、機関銃も装備してくれ。」

そう設計担当の和也に言う。

「なるほどな。機関銃はもう300はできているが、銃弾が足りない。

しかもどんだけ早くしても一分間に10発が限界なんだよ。」

「それでもかまわん。それだけでも十分な脅威になる。

鉄道が終わったらゆっくり開発してくれればいい。」

「そのことなんだが。」

そういって和也は設計書類を見せる。

「軌道のサイズは1メートル30センチでよかったよな?

もうカレーからナンシーまで路線を引いたんだが…」

「あぁ、そういえば機関車の速度は?」

和也は設計書を読んで答える。

「えーと、試行運転をしたわけじゃないからわからないけど30キロは出せる。

荷物なしだと50は出せるんじゃないか?」

「ちょっと待て。かなり速くないか?」

そう広樹が疑問に思う。

「そりゃそうだ。だって蒸気機関だけじゃなくて電力も使っているんだから。」

「なるほど。二つのエンジンが嚙み合うように調整したのか。

よく考えたな。」

和也が照れくさそうに笑う。

「だろ?

まぁこっちは順調だよ。国家プロジェクトってことでいろんな人から手伝ってもらっているし、

何より今までの工業化政策が功を奏している。」

「ははっ、そうか。」

そういって、広樹はゆっくりと立ち上がる。

「じゃあ、俺は帰るから。

これが終わったらお前はしばらく休んでくれ。」

それだけ言い残して、広樹は工場から城に帰った。




帝国国内では、隣国の技術についての話題で持ちきりだった。

「ねぇ、聞いた?

共和国が鉄の馬を作ったそうよ。しかもかなり強いんだって。」

そうブランデ・ルブルクの市民が言う。

「ええ、聞いたわ。

こんなんで勝てるのかしらねぇ。

どうやら皇帝陛下は共和国との戦争をしたがっているようだけど勝てる見込みはあるのかしら。」

その噂は宮廷まで届き、コンラートは噂の真偽を聞いた。

「デゴールよ。共和国で鉄の馬が生まれたとは誠か。」

「はい。誠にございます。

既に何両かはこちらに向けられており、撃破する手段はほぼないかと。

あの形なら川などに落とせば使えなくなると思うのですが…

何より動力がわからないのです。人力にしては速すぎますし。」

コンラートは机をたたいて言う。

「お前が推進している大砲計画はどうなんだ?

あれさえできれば勝つ見込みはあるだろう。」

そう言われてデゴールは首を縦に振って書類を出した。

「もちろんです。もう完成していますよ。

さぁ、中庭に。」

「本当か!ぜひ見させてもらおう。」

そういって彼は中庭に飛び出していった。



そして、とうとう選挙後初の議会が開会した。

やはり保守党が第一党となり、154議席を獲得。

自由党は32議席となり、王党が14議席を獲得した。

こうして議席のほとんどを保守党が獲得し、戦争の協力体制を築くのが容易になりそうだった。


しかし広樹が一番恐れたのが地方議会での王党派と軍国主義派の躍進だった。

両議会の定数100人のうち、ガリア議会では保守党が80議席、自由党が12議席を獲得。

王党は1議席にとどまった。

新設された国粋主義政党のガリア党が7議席を獲得し、とうとう議会に極右が現れた。

ブリトン議会においては国粋主義者は現れなかったものの王党が24議席を獲得。

保守党は54議席と過半数は確保できたものの勢力はあまり強いとは言えなかった。

自由党は22議席獲得し、勢力が均衡状態となっていた。


こうして地方議会でブリトン島とガリアの戦争への熱意の差が

鮮明になっていることを実感した広樹はブリトン島に工業支援を行うことにした。

共和国内での経済格差が特に鮮明で

ガリアとブリトン島での生産額はおおよそ17:3まで広がっていた。

人口は2:1なので、一人当たりの生産額は17:6となる。

おおよそ三倍の差がありこれが不満の根底にあると推測した。

だからこその工業支援である。

ブリトン島は伝統的な農業が営まれており、その効率はいいとは言えないものだった。

広樹はブリトン島を完全に共和国の食料庫とし、それと同時に工業化政策も行うことにした。

ブリトン島の農業従事者は人口の七割、700万人が従事していた。

しかし小作人が多く、農民の貧富の差も拡大していた。

そこで広樹はこの差を抑えるために伝統的な地主が持っている土地を買い取って小作人に安く売り、

土地を分配して自由な取引を推進することで生産能力を高めようとした。

こうすることで農民のやる気も上がり、それに技術が組み合わされば生産量の飛躍的な向上が見込まれた。

競争に敗北した農民は国家が工場への就職を支援してやることにした。

この政策に必要な金額は大体国家予算の24パーセントであり、広樹は4年でこの計画を行うことにした。


それと広樹はこの政策を行うことにもう一つの意味を含ませた。

なぜわざわざ食料の増産を行ったか。

それは人口を増やして需要量を調整し、今の増えつつある供給のせいで恐慌が起こることを防いだ。

今まで戦争を行ってきた目的の一つに人口を増やして増えた供給を調整するという目的もあった。

戦争になれば供給量も自然と減り、尚且つ戦争によって商品を一気に消費することも目的としていた。

経済は需要が少し多い方がいいと広樹は考えていた。

その供給の不足ともいえる部分を技術革新によって補うというのが広樹の考え方である。

こうして徐々に需要と供給を伸ばしていきいずれかは行き詰まるがそれまでに工業力を拡大するのが拡大の第一歩であると認識していた。

こうして広樹はその絶妙な感覚で経済をコントロールしたのである。


最初の議会で広樹は共和国の目標を定めた。

「我が国は世界の安定と自由の為に戦うことを決意する。

この安定とは勢力の均衡を示すものだと思ってもらっていい。

しかし完全なる均衡は不可能であると君たちも知っているはずだ。

それなら、我々は均衡を超えた安定。

つまり恒久の平和を勝ち取るのが共和国の今後の目的である。

この共和国による平和と自由を同時に推進し、共和国はこれのもとで更に発展するだろう。」

そう演説し、大きな歓声が議会に響き渡った。


広樹のこの演説は帝国やカステリアに緊張をもたらした。

この二国は既に共和国への敵対姿勢を取っていた国家で彼らにとっては征服するという宣言にもとれたのである。

しかし広樹はあえてかなりぼかした言い方をしたのである。

広樹はこれで諸外国、特に神聖帝国に無理な軍拡を強いようとしたのである。

崩壊した帝国にこれ以上の軍拡は不可能なものとされていたが、それでも行わせることによって広樹は人的資源という消費者を失わず神聖帝国に輸出した商品を消費させることで経済を安定化させようとした。

軍拡を行うということは更に広樹が独占している鉄を購入するということでもあるからである。

広樹のプランは帝国へ軍拡をさせて国民の反発を扇動し、内戦を起こそうとするものである。

これで新教派を支援し、正統教派を叩き潰す。

同時にカステリアが反抗してくるのなら同時に叩き潰す。

神聖帝国とカステリアを同時に叩き潰すよりかは楽であろうと予想したのである。


今回の共和国議会の焦点はブリトン島の統治についてであった。

広樹は前から考えていた計画を事細かに話すと、議員からは少し懸念が聞こえた。

「ブリトンを優遇し過ぎているのではないしょうか。

ガリアはもう発展しているとは言え、未だ発展していない地域もあります。

そこへの投資はどうするのでしょうか?」

広樹は少し考えた後に言った。

「それに関しては盲点でしたが…

一応6パーセントしか使わないつもりでいるので、それ以外のお金を整備にかけようかと思っています。」

そう約束し、とりあえず今日の議会は終了した。


広樹は保守党議員と一緒に食事をとり、今後の展望を話した。

「来年の選挙に向けて君の党から出馬をしないように要請したい。

もし引き受けてくれるのなら、私は保守党の支持者となろう。」

そうグラスを置いて党首のジョセフに言った。

ジョセフは肉を切るナイフを置き、話し出した。

「もちろんですとも。私たちはそもそも総督支持を訴えている政党ですから。

それと、いつ神聖帝国に宣戦を布告するのですか?」

広樹はワインを目の高さまで持ち上げ、からからと回して言った。

「今はまだ早い。

ワインだって一日でおいしくはならない。仮に今征服したとしてもうまみのない土地を奪い取るのみである。

だからしばらくは熟成させてゆっくりといただこう。」

これは半分広樹の本音で半分建て前だった。

広樹は土地を征服すること自体に意義があると思っていたからである。

神聖帝国の大地は確かに征服しても利益はないように見えたが、彼の国の人民という利益を得ることができる。

それに、復興の目的で商品を使うこともできるからだ。

征服にはいろいろなうまみがあるということを広樹はよく知っていた。

ただ、今放置しておくのは更に帝国を混乱させることを目標としているからである。

混乱させて民衆の心が離れていくころに攻めればこちらに対しより好意的になる。

広樹は飴と鞭の使い方をよく知っていたから、このような大胆な政策もできるのである。

「そうですか。じゃあもうしばらく待つことになるのですね。

党内での支持はもう取り付けていますし、あなたが望むならいつでも攻撃できる状態にありますよ。」

「ありがとう。」

このように終始和やかな雰囲気で食事は続いて言った。

…話している内容は決して和やかではないが。


こうして議会の支持も確認した広樹は安心して戦争への用意を整えた。

議会で最終的な軍隊に関する決定権を確認すると、最後に共和国国歌を歌って閉会した。

「それでは、全員起立してください。

国歌、『人民の国』。」

そういうと、国家の前奏が流れ始めて場にいる全員が立ち上がった。

「正義の国は今目覚めた!

人民の意思によって成り立つこの国は世界のどの国よりも偉大である。

自由と偉大なる意思は全て人民のものとなる!

称えあれ、共和国よ!

武器を取り、自由を侵す者を我らの地から一掃するのだ!」

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