神との邂逅
広樹はハイドリヒをどこかの川に投げ捨て、そして自室の掃除をした。
血の匂いは強く全く取れず広樹は少し困った。
血の付いたものを捨ててごみを処理することにした。
そして窓を開けて換気をする。
風が広樹の髪をふわりと動かす。
いい天気だと広樹は思い、国をもう一度治める決心をした。
広樹は次の議会で法案を発表した。その一つに共和国軍法というものがある。
共和国軍法とは広樹が直々に制定した法律でなかなかに厳しいものだった。
まず、軍の政治への介入を禁止して軍隊にいた者や現在所属している者が総督、および議員になることを禁止した。
そして軍隊の他に広樹は親衛隊の設立を発表した。
親衛隊は5000人の集団からなり、100人が共和国情報部、900人が親衛隊、2000人の警備執行隊、そして1000人の武装親衛隊からなるエリート部隊だった。
彼らは広樹の部隊であり国軍や警察とは無関係だった。
広樹の目標はあくまでも国軍に対抗しうる勢力を持つことでこの部隊を戦争に投入しようとは思っていなかった。
武装親衛隊は戦争を執行する部隊の部隊の一つであり参謀本部ではなく広樹の直属の部下であった。
そのため広樹が自由に動かせる唯一の部隊であり敵を恐怖に陥れるための十分な戦力に育てたかった。
部隊を強化する方法というのは広樹は今までの歴史の知識で十分強化できると確信していた。
そうして親衛隊を結成して指導者についての話し合いが始まった。
指導者にはジャン・カヴァリエという青年が立候補した。
彼は今まで山の中でガリアやカステリアと戦い、「キュロット軍団」と呼ばれる軍を率いて戦った自由ガリアの軍事組織の長だった。
広樹とほとんど変わらない年齢ながら彼は経験豊富でとても強かった。
カステリアの侵攻以後はマルセイエーズで家業の商業をしていたが、もう一度軍隊にかかわりたいとのことで応募してきたのである。
彼は名の通った有名人で民衆からの支持も厚かったため広樹は即任命した。
「では、君を親衛隊最高指導者に任命しよう。君は私の右腕となるにふさわしい。」
そういって広樹は剣を彼に授けた。
彼は剣を受け取り、親衛隊本部へ向かった。
「総員突撃!森を突破せよ!」
その掛け声を合図に隊員は森に突撃していった。
「彼らは具体的にどれくらいの速さで突撃するのか?」
そう広樹は尋ねる。
「おおよそ10分でこの森を抜けることができるくらいですね。」
10分。この森は1キロほどの長さがあるためとても早く走れることが分かった。
しかも中々重い荷物を背負ってこの速さである。
広樹はかなり驚いた。
一応自分で作った指導要領ではあるが、たった一か月でここまで成長するとは思ってもいなかったのである。
まぁ、この指導要領も昔のガリア親衛隊のものであったが。
何はともあれ、この部隊だけでここまでの強さを発揮するなら広樹は戦争において質による敗北が少なくなるだろうと思った。
あとは量であるが、そこまでの軍を雇えるお金はない。
だから広樹はこの質を維持することにした。
共和国軍は士気も質も他国に圧倒していたがまだ足りないと感じていた。
特に神聖帝国には質の上では勝っていても量が不足している。
この差を埋めるためには質を強化するしかあるまい。
しかしこの部隊が一番強くなければ反乱を起こされた際に敗北してしまう。
軍には親衛隊にはない強みがある。
それは指揮統制の問題だった。
この部隊は広樹が指揮するものだから全体とは別に行動できる。
しかし、軍は全体の作戦があって個々の作戦がある。
だからより目標を統一しやすかった。
広樹はここに目を付けた。
参謀本部を強化して作戦における優位を勝ち取ろうとしたのである。
これならば戦術的敗北をしてもそれをカバーできるように作戦を立てれば戦略目標は達成しやすくなるだろうと予想された。
こうして広樹は更なる軍拡を行い、国政も落ち着いてきた頃。
広樹はジェネリアから救援要請を受けた。
その要請とは北部での王国への反抗を収めてほしいという内容だった。
広樹は約束通り海を渡り、第一軍を率いてブリトン島に向かった。
「この海は相変わらず平和だな。ルシタニアは何年ここに?」
旗艦であるカレー級戦艦のリ・ヴェルの上で聞く。
ルシタニアはいつも被っている帽子を脱いで広樹に語った。
「そうですね。おおよそ30年です。」
「そうか。俺の年齢より高いな。」
そういって広樹は笑う。
「あなた様は私より戦争に参加しているではないですか。
それより良くあれほど戦って戦場が怖くなりませんかね?」
「まぁ、少しは怖いさ。」
そういって広樹は帽子を深くかぶって目をつむる。
広樹は今まで見てきた景色をもう一度思い浮かべてみた。
まずは最初のドルベーでの戦い。思えばこれが最初の戦いだった。
そこからは戦争に明け暮れ、広樹はいつしか現代への帰還のことを忘れていた気もする。
しかし現代ではなくここも悪くないなということも思いつつあった。
ブリトン島と大陸の間の海峡は今や汚れており、両親に連れて行ってもらったブリトン旅行で川や周りの海が泥水のように汚かったことを思い出した。
それに比べてここは海は輝いており、サファイアのような色をしていた。
この海を見て広樹は今までの科学技術への崇拝を改める必要があるとそこはかとなく感じた。
こうして海の美しさに浸っているとすぐにブリトン島に着いた。
「レーヌ、お久しぶり!では、今から行きましょう。」
そういって彼女は広樹の手を引く。
広樹は陸軍を引き連れてジェネリアについて行った。
森を抜け、川を越えて広樹は討伐へ向かった。
しかし流石に北部まで一日で行くことは難しかったため軍隊は城で休むことにした。
城で共和国軍はブリトン島の兵士と交流を深めていた。
彼らとは別に広樹はアントンやジェネリアと一緒に外で酒を飲んでいた。
ジェネリアは月を指さしながら言う。
「月は女性の横顔に見えるってお母様が昔教えてくれたわ。
あの美しい月には化け物が住んでいるって言ってたのよ!」
ぶっちゃけ広樹はこういう話には詳しいため知っていた。
どうやらアントンも知っていたようだが二人は彼女の酔い具合からここで何か言うのは危険だと判断し、おとなしく話を聞いていた。
「そうだ、レーヌ。一緒に森まで来て。」
そう幼女のような声で誘われて広樹はふらふらと剣だけもっていってしまった。
しばらく行った池のそばで、二人は一緒に月を眺める。
「こういう日は狼が出るって言いますが、大丈夫ですか?」
そう広樹は聞く。
「大丈夫。いざとなったら君が守ってくれるし。
あのね、大事な話があるの。」
そういって彼女は広樹に話そうとする。
広樹も唾をのんで彼女の目を見る。
彼女の目はとても真剣でまるで太陽が隠されたような瞳だった。
そうしてしばらく時がたった。
秋の風が広樹たちのそばを通る。
しかし広樹は何か嫌な予感を感じ取った。
「ジェネリア様。お逃げください。」
そういって広樹は彼女を森の入り口へ行くように言う。
「なんで?一緒に居よ。」
そういって彼女は離れようとしない。
その「嫌な予感」はもう広樹たちの周りを取り囲んだ。
「申し訳ございません。」
そういって広樹は池の水を彼女の顔にかけた。
彼女はハッと目を覚まして広樹のそばに近寄った。
広樹は周りを睨む。
間違いない。狼だ。
狼が徐々にこちらによって来る。
今日は満月だから狼がより凶暴性を増しているということをすっかり失念していた。
広樹は深呼吸をする。
そして突破の作戦を立てた。
森の奥はもっと危険に違いない。
でもジェネリアを連れて入り口から出て行くのはもっと不可能に近い。
そうなると広樹は彼らの弱点を突いて倒さなければならない。
広樹は一計を案じた。
声を出して広樹は剣を一気に突き上げる。
剣が光を反射してきらめく。その剣を見た狼は一気に翻って行った。
広樹は一安心したためか眠ってしまった。
広樹は初めの森にいた。
ここは広樹にとってあまりいい土地とは言えない。
しかし広樹は奥へ、奥へと恐る恐る進んでいった。
森の奥には机と一枚の置手紙があった。
「君の行動と思考はもう知っている。
大人しく現代に帰った方がいい。
帰りたいのなら何時ぞやの森に。」
その3文のみが書いてあった。
取り敢えず広樹はその紙を取って森の入り口に戻った。
しかしそこには人狼が数十匹いた。
広樹は徐々に後ずさる。
そうして広樹は人狼に喰われた。
「レーヌ様、レーヌ様!?」
その掛け声で広樹は目を覚ました。
間違いない。ここは最初の森だ。
しかし最初の森はドルベーにあったはず。
でも、今広樹がいるのはどこかわからないがドルベーではないことは確実だった。
広樹は兵士に起こされた後森の奥へ向かった。
森の奥には大量の花が散らかっており、中には見たことないような美しい花もあった。
広樹は一つ一つ花を拾ってみる。
その花は拾うと砂となって消えて行った。
「やぁ。この世界で会うのは初めてかな?広樹君。」
ハッとして広樹は硬直する。
そして少しずつ後ろを向いてみた。
そこには金髪の女性がオリーブの葉の冠を被っていた。
「そんな驚かなくてもいいじゃないか。
おっと。紹介が遅れたね。私はフリージアよ。」




